基礎知識
ベンチャー投資家のための知的財産に対する評価・支援の手引き
~よくある知財の落とし穴とその対策~

1章:投資家による知的財産支援の意義

投資家による知的財産支援の必要性とその高まり

ベンチャー投資家(以下、「投資家」という)は、革新的な技術をもとに事業を行う研究開発型ベンチャー企業の成長を支える存在であり、その重要性は年々高まっている。これらベンチャー企業の競争優位性は、技術及びそれをベースとした新たな事業モデルであり、その事業の急速な拡大及び継続性を確保するためには、特許権などの産業財産権だけでなくノウハウや知的財産に関する契約も含め、多様な観点からの「知的財産」を守り、また、攻めの手段として積極的に活用しなければならない。

また、近年の産業構造や技術の複雑化に伴う事業会社によるオープンイノベーションの取組みの拡大により、ベンチャー企業にとって、事業会社との提携やEXIT先としての事業会社へのM&Aによりその技術を迅速に社会実装させる選択肢の重要性が高まっている。このような中でベンチャー企業の知財戦略に瑕疵があると、提携・買収の成否を左右したり、取引に当たってのディスカウントの要因になったりする可能性がある。

逆に言えば、投資家がベンチャー企業の知的財産を適切に評価し、積極的に支援を行うことは、ベンチャー企業の競争優位性を守るだけでなく、事業の成長・EXITの選択肢を増やし、企業価値を高めることにつながる。投資家にとっては、次の投資の呼び込みや多様なEXITの実現につながり、結果的に投資リターンが最大化していくといえる。

知的財産の評価・支援を行ったベンチャー投資家の事例

国内外では、投資家がベンチャー企業の知的財産に着目して投資を行い、知財戦略についてのハンズオン支援を行った結果、投資家サイドに大きな成果をもたらした事例が出始めている。

参考事例
ギャップファンドが知財支援を講じ、大きなリターンを得る

Natural Motion社は2001年にオックスフォード大学の学生で神経科学を研究していたTorsten Real氏がスピンアウトした研究開発型ベンチャー企業である。同社はゲームの中の3Dの人や動物が相互に反応して自然に動く技術を開発した。当初、オックスフォード大学のギャップファンドが2万5,000ポンド(約430万円)のシード投資を行い、事業計画の策定、会社設立を支援した。
同社は自社の特許をゲーム制作会社に活用させるビジネスモデルを採用していたため、特許が重要であった。そこでオックスフォード大学はコアとなる特許の取得をTorsten氏に助言した。その後、コア特許が成立し、大手ゲーム会社に採用された。
2014年にNatural Motion社は大手ゲーム会社のZynga社(米国のソーシャルゲーム企業)に5億2700万ドル(約550億円)で買収された。この買収の結果、オックスフォード大学は3360万ポンド(約58億円)の収益を株式の売却から得ている。

(出所)オックスフォード大学“Oxford digital spin-out completes $500m sale”(2014年2月12日)
オックスフォード大学“Financial Statements 2014/15”
Financial Times“Gaming group NaturalMotion began in Oxford’s zoology department”(2014年1月31日)
  
参考事例
VC内部の知財弁護士が知財戦略を支援し、M&Aにつなげる

ある米国のVCでは、マネージングディレクターとして知財弁護士を雇用している。案件の1つでは、VCがベンチャー企業に4,000万ドル(約45億円)の投資を行った。投資後、インハウスの知財弁護士がベンチャー企業に対して国際出願の早期権利化に関する助言を行い、PCT出願から2年で米国と欧州での特許権を確保することができた。さらに特許による製品の保護を事業会社に対して説明した結果、事業会社は2億ドル(約225億円)でベンチャー企業を買収し、VCは巨額の売却益を得た。

(米国ベンチャーキャピタル)