特別企画
CEOが語る知財

株式会社アジラ 代表取締役社長兼CEO 木村 大介氏 インタビュー
拠点分散による研究開発力と行動認識AIのコア特許を武器に世界へ

文●松下典子 聞き手・編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 撮影●曽根田元

株式会社アジラは、AIを活用した姿勢推定での行動認識とOCR(光学文字認識)の技術を開発するスタートアップだ。ベトナム・ハノイにR&D拠点をもち、行動認識技術の特許を武器に国内外の多くの大手企業と協業し、2020年中にはエッジデバイスに同社のAIを搭載した製品が販売開始となる。すでに上場や欧米進出も視野に入れているというアジラ代表取締役CEOの木村氏に、同社の特許戦略と行動認識技術によって実現する未来について伺った。

1.jpg

株式会社アジラ 代表取締役社長兼CEO 木村 大介氏

1976年長野生まれ。NTTグループで研究開発業務に従事したのち、2011年から株式会社ぐるなびに転職。開発リーダーとしてベトナムの研究チーム組成に携わる。2015年6月に株式会社アジラ、アジラ・ベトナム(ハノイ市)を創業。

ベトナムのR&D拠点を足掛かりに、行動認識とOCRに特化したAI技術開発

株式会社アジラは、日本の社会課題である人手不足の解消に向けて、主にAIによる視覚野の代替システムに関する技術開発およびサービス・ライセンス・アルゴリズムの提供を行っている。

大手企業のニーズにあった開発をオーダーメイドで提供するAIソリューションだけでなく、行動認識AI「アノラ」、AI-OCR「ジジラ」を開発・販売している。

行動認識AI「アノラ」は、カメラ映像から、人の行動における関節の動きを読み取る姿勢推定が可能。映像データとして処理されるのは関節の動きのみであるため、プライバシーを保ったままで、防犯や見守りにおける”違和感”を機械が見つけ出し、クラウドで通知できる。

またクラウド上で姿勢推定の結果データを時系列で分析することで、アジラ独自の特許による「行動コード」が付与できる。AIによって、どのような行動が発生しているのかを定義づけられるため、継続的な業務であれば、状況に応じたより効率の良いアクションへのフィードバックも可能だ。

このような同社の研究開発成果およびAIモデルの高度な圧縮技術などを背景に、「アノラ」は近くエッジ・コンピューティングに搭載され販売される。エッジで処理されるため個人情報漏洩の懸念が少なく、クラウド部分のコスト削減による高品質かつ低価格なAIサービスの実現が期待されている。今期中には、大手企業数社と協業し、小型デバイスに行動認識AI「アノラ」を搭載した製品がリリースされる見込みだという。

AI-OCR「ジジラ」については、大手各社との共同開発や販売を展開。読み取り精度95%超という実績や、導入のしやすさと柔軟性が評価されている。

2.jpg

同社は投資利益率の観点から機能別の3つの拠点に分散している。ビジネスは東京・大手町、R&Dはベトナム・ハノイ市、サポートは町田本社に置くことで、事業コストは一般的なAIベンチャーの40%以下だという。

創業時からハノイに研究開発拠点を置いていることから、現地企業とのつながりも多い。昨今、ASEANでもAI需要が急拡大しており、昨年は、ベトナム最大の移動体通信企業ベトテル (Viettel)を始め、大手企業5社から依頼を受けた。

「ベトナムでは、比較的プライバシーへの抵抗感が低いこともあり、監視カメラの導入が進んでいます。しかし、カメラを取り付けたものの、まだチェックする人がいないため、AIを導入して問題が発生したいときに、すばやく通知を受け取りたい、というニーズがあります」と木村氏。

日本と違った使い方として、防犯目的だけではなく、店員の振る舞いをチェックし、サービスの質の向上にも利用されているそうだ。もともと研究開発拠点のため、現在はエンジニアが中心だが、今後は営業や法務の人材を拡充し、現地での本格的なビジネス展開を進めていく考えだ。

創業時から知財戦略に注力し、発明発掘を促す

アジラでは、行動認識関連の特許を4件取得しており、現在、5件目を国際出願中だ。知財に力を入れるようになったのは、行動認識技術の最初の協業先である大手企業の担当者からのアドバイスがきっかけだそう。

「『これはいい技術だから、きちんと特許を取っておくべきだよ』と勧めてくださったのがきっかけです。知財はもともとブランディング目的では考えていましたが、当社の独自技術として取得したいという考えが強くなりました」(木村氏)

3.jpg

専門家と密に相談しながら知財戦略を進められるように、顧問弁理士は本社のある町田市内で探した。

「何人かにお会いして、一番話の合った相田隆敬先生(あいだ特許・商標事務所)に2017年から顧問をお願いしています。決め手になったのは、電気や制御が専門で技術に明るかったことですね。50ページほどの資料で技術の説明をしたら、すぐに理解してくれました。阿吽の呼吸で相談できるのが何よりです。始めのうちは頻繁に会い、知財の知識や情報の管理の仕方についても教えてもらいました。現在は、毎月定例で相談する場を設けています」

特に大企業との協業で、特許があることによるメリットを感じているそうだ。

「技術関連の特許が取れていると協業先が安心してくれます。『類似の技術がありますが、御社の強みは何ですか?』とよく聞かれますが、『関連特許を取っています』と答えるだけで納得してもらえます」

AIスタートアップに限らず、大企業も行動認識技術には当然参入の動きがあるが、そのなかでコア技術の特許が取れていることはアドバンテージになる。オープンイノベーションという観点では、各種アクセラレーター・プログラムも積極的に活用。2017年にFUJITSU ACCELERATOR、2019年にはPlug and Play Japan、経済産業省のJ-Startup、そして2020年はMicrosoft for Startupsに採択されている。また、町田市に本社があることから、「町田市トライアル発注認定制度」にも選定。保有するAIのコア技術を軸に、事業展開を拡大させている。

また、知財のもうひとつの効果として、木村氏は社内でのブランディング効果を挙げる。

「特許は、唯一無二のもの。自分たちは他社にないものを創り、推進していると思えるのは、社員たちにとって大きなモチベーションになっています。特許の取得を報告すると、ベトナムのエンジニアも喜んでくれます」

 アジラでは、発明発掘を活性化するために、社内アイデアソンを創業時から毎年開催しているという。

 「日本とベトナムの企画・営業・開発・ボードメンバーが参加し、AIのアイデアを出す大会です。このイベントで生まれた要素技術を相田先生に見てもらい、特許出願につながることもあります」(木村氏)

 最優秀賞となったアイデアは、実際に事業化されるのがこの大会の特徴だ。実際、現在のコア技術である行動認識AIは、創業時の第1回アイデアソンから生まれたもの。2020年1月の大会では、営業部の社員が優勝するなど、エンジニアでなくても自分のアイデアが事業化や特許化されるのは面白い。

 「特にハノイのメンバーは大会が大好きで、すごく本気になってくれる。社員が楽しみながら積極的にアイデアを出してくれるのはうちの強みです」

行動認識技術をより多くの人に使ってほしい

4.jpg

 木村氏が創業当初から目指しているのは、「AIで人の命を救う」こと。2017年には、行動認識技術を活用した見守りサービス「ミマボ」のコンセプトムービーをYouTubeに公開している(https://www.youtube.com/watch?v=hMI-Q9Uzrj0 )。駅のプラットフォームでの落下事故や、乳児のうつぶせ寝による事故なども、行動認識で検知するシステムがあれば、事前に察知ができるはずだ。

 「いずれは一般家庭にも行動認識のサービスが必要になってくるでしょう。弊社の技術を用いれば、AIを搭載したセンサーが格安で作れます。技術をいち早く社会に実装させて、悲しい事故をなくしたい。それをやってこそのAIスタートアップです」(木村氏)

 より安全な世界を早く実現するために、自社だけでなくより広く同社の技術を使ってもらいたい、というのが木村氏の考えだ。今後、同社の行動認識技術やリソースを社内外のアイデアを持つ人に提供し、新事業のエコシステムの構築を目指しているという。

 「行動認識は基礎技術。ほかの方と話をすると、アイデア用途がたくさん出てきます。自分たちだけで知財として守るよりも、いろいろな人に使ってもらい、さまざまなアイデアで社会に貢献していきたい。熱いパッションを持っている人自身に事業を推進してもらうのがいちばんいいと思います」

 新しい技術を開発し、特許を取得するにはコストや時間がかかる。一方で、ライセンス料などとのバランスを見ながら他社の特許を利用するのもひとつの知財戦略だ。そのうえで、既存技術を応用したアイデアをビジネスモデル特許として取っていく手もある。

 まず直近の目標は、「アノラ」の製品化だ。

 「エッジAIを手に入れたので、いよいよ今年は確実にマーケットに投入していきます。2022年のIPOを目指しており、IPOで信頼と財務基盤を整えたら、次の目標は海外展開。今はASEANでトライアルをしていますが、本格的に欧米を含めた展開をしていきたい。いま出願中の国際特許を軸に世界へ広げていきます」

5.jpg