特別企画
スタートアップエコシステムと知財

リブライトパートナーズ株式会社 代表取締役 兼 ファウンディングゼネラルパートナー 蛯原 健氏インタビュー
日本の大手がアジアのスタートアップと業務提携する真の理由 技術だけでないグローバルでのニーズとは

文●松下典子 聞き手・編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 写真提供●リブライトパートナーズ株式会社

リブライトパートナーズ株式会社は、シンガポールを拠点とするベンチャーキャピタルだ。インド・東南アジア地域のスタートアップへの投資に加え、日本の大手企業とASEAN地域のスタートアップとの業務提携にも取り組んでいる。グローバルに躍進するインド、シンガポールの特徴、日本が国際競争力を持つために必要な要素について、同社代表取締役の蛯原 健氏に伺った。

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リブライトパートナーズ株式会社 代表取締役 兼 ファウンディングゼネラルパートナー 蛯原 健(えびはら・たけし)氏

1994年 横浜国立大学経済学部卒。日本合同ファイナンス(現JAFCO)に入社以来、20年以上にわたりベンチャーキャピタルおよびスタートアップ経営に携わる。2008年、リブライトパートナーズ株式会社を日本で設立。2010年よりシンガポールに事業拠点を移し、東南アジアでのベンチャー投資を開始、2014年にはインドに常設チームを設置し投資活動を始める。日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)。

インド・東南アジア地域に特化した日本企業とのゲートウェイVC

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リブライトパートナーズ株式会社は、シンガポールに本社を構え、インドと東南アジア地域の企業に特化した投資を行なっている独立系のVCだ。投資先はアーリーステージのIT系スタートアップを中心に、40社以上に投資をしている。

現在4つのファンドを運営しており、出資者のほとんどが日本の企業だ。蛯原氏は、オープンイノベーションを実現したい日本企業と海外のスタートアップとをつなぐ活動をしており、対象地域は、インドネシア、インドをはじめ、フィリピン、シンガポール、マレーシア、タイのASEAN全域へと広がっている。

「ステークホルダーは日本の企業なので、アジアのオープンイノベーション、ビジネス開拓がミッション。東京・虎ノ門と、インドのバンガロールをはじめとする各国拠点のチームが、それぞれ起業家側、投資家の日本企業側とリレーションを築き、両者をおつなぎするのが我々の役割です」(蛯原氏)

これまでリブライトパートナーズが手掛けた日本の大手企業とアジアのスタートアップの本業務提携は15件を数える。例えば、トヨタグループはインドの物流スタートアップ「レッツトランスポート社」と資本業務提携し同国でコールドチェーンビジネスの構築に取り組んでいる。凸版印刷はインドの病院向けサプライEC大手「メディカバザール社」に出資。提携の目的は凸版印刷が製造する医療向け包材などをインドで販売することだ。また野村証券は、銀行向けにeKYCサービスを提供するシンガポールのSaaSスタートアップ「トゥキタキ社」に出資し現在同社でPoCを実施している。

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日本とアジアのスタートアップの違いとは?

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アジアで投資対象となるスタートアップは、大きく2つに分類できるという。

「ひとつは、物流やオンライン診療などローカル向けのサービスを提供する会社。もうひとつは、SaaSやAI開発など先端テクノロジーのプロダクトを開発する企業で、こちらはグローバル市場がターゲット。シンガポールとインドは後者、それ以外の東南アジアはサービス産業が強い傾向があります」(蛯原氏)

インドは、米国からの人材流動性が高く、米大手IT企業でエンジニアとしての経験を積み、ミドルマネジメント層を経てから、起業するパターンが極めて多い。リブライトパートナーズの投資する起業家のほとんどは、グローバル展開するマルチナショナルカンパニーでの就業経験があり、その少なからずは米国本社勤務を経ている。近年ではソフトウェアエンジニアは無論のこと、NVIDIAやQualcommなどの半導体やシスコやBoschのようなデバイスメーカーのエンジニアリングの上位設計等もインドが担っており、経営者レベルでのコミュニティがすでに形成されているという。

「つまり、ソフトウェア系のGoogleやFacebookなどメガテックカンパニーが欲しい技術を持つ人たちが起業しているということ。仮に、プロダクトが失敗しても、人材と特許があるので、チームを買収したい大手企業は沢山います」

これは、米国とインドのテック経済圏では頻繁に起きている現象だが、日本では、こうした例はほとんどない。では、いったいそこには何が足りないのか。

グローバルな経営人材をアジアから調達すべき

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蛯原氏は、特許庁の知財アクセラレーションプログラム(IPAS)の有識者委員会にも参加している。日本で盛んになりはじめているスタートアップ支援をどのように見ているのだろうか。

「新規産業の担い手は、いつの時代もスタートアップ。彼らが成長しないと、日本経済はグローバルスケールしません。グローバルにスケールする可能性がある分野はサービス産業よりも高度な製造業や技術を有する企業であり、そこにおいては特許戦略の支援は非常に有効です」(蛯原氏)

このように評価する一方で、日本にはグローバルに通じるマネジメント能力のある人材が少ないことを指摘する。

純粋に特許や技術だけで勝つというのは、なかなか難しい。グローバルレベルでの事業や組織の力をどこから調達していくのかというのは大きな課題だ。蛯原氏はこの解決策としてアジアのグローバル人材とマッチングして創業期からグローバルなチームを作ることを提案する。

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またそのためには、創業の地選びも重要となる。

「日本以外の拠点をもつことも考えてみてほしい。拠点はいまさらシリコンバレーではなく、バンガロールやシンガポールでもいいのではないでしょうか。グローバルエキスパート人材を最も多く輩出しているのはインドなので、彼らと連携する事は合理的な選択のひとつだと思います」

インドはソフトウェアでは進んでいるが、製造業や創薬などは日本のほうが優れた技術や特許を持っている。経営人材はインドから調達し、技術や特許を日本から調達するのは、両者にとってメリットがある。

「日本の大手企業がわざわざインドのスタートアップと業務提携する理由のひとつは、人材にあります。彼らはグローバルマネジメント能力が高いので、当該分野のアジア広域やグローバルの経営を任せられる。これは大企業に限らず日本とアジアのスタートアップ同士での掛け算でも効果的だと思います」

技術やプロダクトには国境がないので、それを武器にするなら最初から世界一を目指すことが大前提であるべきだ。よってグローバルな競争力が見出せるかどうかが重要となる。その際に新興市場の獲得方法としては、デリバリーパートナーとして現地のスタートアップと組むことも方法のひとつというわけだ。「大企業同士の連携は極めて難しい。圧倒的に失敗の歴史である。ポジショントークを抜きにしても、アジア新興国においては大企業と組むよりも近未来のメジャープレーヤーとなりうるスタートアップとの連携のほうがベター」だと蛯原氏は語る。

人材グローバル化という面では、地方に可能性がある

蛯原氏が考える日本のスタートアップ・エコシステムに足りないものは何なのか。

「とにかくグローバル化です。それにはグローバルマネジメント人材の獲得が必須であり、そのための方法論のひとつとして、アジアのベンチャーと連携する意義は大いにあります。日本は諸外国の証券取引所に比べて相対的に早期に上場でき、かなりの高株価でマネタイズできてしまう。それは功罪半ばだが、早期に上場してしまって四半期決算を出していかなければならないと、どうしても大きな海外投資に踏み込めない。これが国内志向に偏ってしまう理由のひとつになってしまっています。」(蛯原氏)

それはスタートアップのみならず、日本の大手企業にとってもあてはまる面があるが、今後とも企業が生き残り続けるためには、海外の手を休めない事、オープンイノベーションやDX(デジタル・トランスフォーメーション)を進め、新規事業を生み出していく事の2点は必須条件だという。

「大手企業における新規事業の取り組み方には2つの累計が見られます。既存事業から離れたフロンティアを開拓しようとする試みと、それを避ける近い領域で新機軸を模索するやり方です。日本企業は総じて後者。シナジー、という言葉を頻繁に使う。実際、日本企業のオープンイノベーションの取り組みは既存事業とのシナジーを前提としているケースがほとんどです。

しかし、シナジーとは結局のところ、それを突き詰めると単なる既存事業のいち取引をするのと変わりません。最初から明示的にシナジーが見出せるような会社や事業なら、普通に取引をすれば良いだけなのです。しかしそれでは新規事業は生まれません。新機軸に取り組むならばシナジーの薄いもの、一見まったくシナジーのないものをも探索し、投資するべきです」

ボーダーを越えた事業、人材がポイントとなるが、日本については、その成功体験もまだまだ足りないようだ。

「まずは、たくさんやること。数を重ねて、成功パターンを見つけるしかありません。新規事業もスタートアップ投資も、失敗する確率のほうが成功のそれより圧倒的に高いのが当たり前です。であるならばたくさん失敗しないと、成功にはたどり着きません。失敗を量産したものが勝つのです。その先に成功にたどり着き、その成功パターンを見出して、拡大再生産しなくてはいけないのに、たいていそこまでたどり着けずに終わってしまう。諦めずに、やり続けることが大事です」

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東京が究極のドメスティック都市であるという一方で、人材のグローバル化という面では、地方都市に可能性があり、地方の国際競争力強化が必須であると蛯原氏は強調する。

「関東は都市圏人口で世界最大です。したがって全てが良くも悪くも域内で完結してしまうところがあります。また人口が多いとどうしてもサービス産業の蓄積は進みますがサービス産業は製造業に比べてグローバルスケールしづらい。

そのため私は東京よりも関西に期待しています。国際競争力が高い製造業クラスタ都市として、人材のハブスポットに発展できるポテンシャルがあります。その意味ではさらに、愛知、大阪、京都と同等のビジネス拠点が仙台、札幌、広島、福岡でも生まれてもおかしくはないですね」

国交省の調査によれば、全国のGDPに対する東京圏のシェアは30%以上と集中しており、国際競争力を高めていくには、地方都市への産業の分散が重要となる。そのためにリブライトパートナーズでは、地方の国際競争力の強化へ向けた支援活動を行なっているという。地方大学では国際化に力を入れており、本稿で述べたような海外人材交流が増えていくことで、大学発スタートアップの形も変わっていくだろう。

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