特別企画
知財のプロが語るスタートアップとの新しい働き方

メディップコンサルティング合同会社 代表社員 弁理士 大門 良仁氏インタビュー
保護に偏った弁理士の業務は変わるべき スタートアップだからこそ生きる”発明の利用”

文● 松下典子 聞き手・編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 撮影●曽根田元

弁理士の働き方は、特許事務所か大手企業の知財部門に勤務するのが現在の主流だ。そのような場合、スタートアップを支援するには、外部専門家として顧問契約を結ぶ形が一般的だが、関わり方を変えることで、より経営に深く踏み込んだ攻めの知財戦略を打つことができる。大門良仁氏は、インハウスの知財法務の専門家としてスタートアップを支援するメディップコンサルティングを設立。ライフサイエンス分野において、複数のスタートアップと業務契約を結び、自身も大学発スタートアップを創業・経営する、マルチワーカーとして支援活動をしている。大門氏がインハウスにこだわる理由、スタートアップ支援の醍醐味ついて話を伺った。

メディップコンサルティング合同会社 代表社員 弁理士 大門 良仁(だいもん・よしひと)氏

アステラス製薬において知財業務に従事し、米国駐在後はM&A及びアライアンスを複数担当。知財訴訟でも、卓越した薬事法務・知財戦略を武器に12勝0敗とビジネスに貢献し、100億円超の利益を生み出す。近年は法務・知財戦略の観点からライフサイエンス系のスタートアップを数多く支援する創業支援家として活動中。公的活動として、東京都が主催するアクセラレーションプログラム「Blockbuster TOKYO」の知財メンターや特許庁が主催する「医薬バイオ創業期ワーキンググループ」のWG長などを歴任。現在、メディップコンサルティング合同会社 代表社員、bitBiome株式会社 共同創業者・代表取締役、東北大学OI戦略機構 特任教授。

インハウスでもパートタイムという働き方がある

大門氏がスタートアップ支援に興味を持ったのは十数年前。アステラス製薬で知財の専門家として海外のベンチャー買収に携わっていたときの体験がきっかけだ。

「ある米国ベンチャーを買収する際に、買収先の知財法務の責任者であった知財弁護士が非常に優秀だったのです。自分もそれなりに大企業で働いているという自負があったのに、正直、自分よりも優秀だと認めざるを得ないほどに完璧。しかも、その弁護士はパートタイムだった。当時、インハウスは、100%フルコミット(正社員)が当たり前だと思っていましたから、衝撃でした。彼は週に2回その会社で働き、ほかの日は別の会社に勤務していたのです」(大門氏)

実際、スタートアップの規模であれば、知財に関する専門家としての業務は週に2回ほど通えば済むレベルでなんとかなる。だが、知財をコアにするようなスタートアップの場合、インハウスの知財法務の担当者も必要となる。そのため、1人の専門家が複数のベンチャーを掛け持ちするのは合理的だ。

もうひとつ大門氏が驚いたのは、その弁護士は買収後に会社をやめてしまったことだ。

「これは、会社が人材保持に失敗したわけではなく、彼の役割がM&Aで買収されるまでの役割だったから。M&Aが成功したので役割が終わった。彼は、いま別の会社で同じような役割をされていると思います」

インハウスのパートタイム、そして自身の役割が終わると次の会社へと移る――こうした働き方に衝撃を覚えたことが、大門氏の現在のスタイルにつながっている。

本当に強くて利益を生む特許を知るためにジェネリックメーカーへ

そのような衝撃的な体験も含めて、アステラス製薬の知財部に10年間勤務したのち、大門氏はジェネリック医薬品(後発品)を開発するメーカーに転職する。その理由は、これまで大手の知財部で培った戦略が本当に最善なのかを確かめたい、という思いからだ。

「医薬品は、先発企業と後発企業のビジネスモデルの対峙。後発企業に行けば、先発企業が万全と考えている特許ポートフォリオを壊すことができたり、あるいは壊すことができない限界が見えたりするのではないか。本当に強い特許、即ちお金になる特許はどういうものなのか。例えば、オプジーボ(2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑氏が開発に貢献したがん免疫治療薬)の基本特許は世界中から膨大なライセンス料を得ている。後発品会社側に立ち、知財の裏側から見れば本当の価値がわかるかもしれない、と考えたのです」(大門氏)

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また、訴訟を経験しなければ本当に強くてお金を生む特許はわからない、と大門氏は語る。驚くべきことに担当した訴訟は、なんと12勝ゼロ敗を誇るという。

大門氏の後発企業としての戦略の立て方は、「まず、先発企業のもつ特許ポートフォリオの全容をつまびらかにして、参入できるかどうかを検討し、さらに、特定の特許が無効になったら、どれだけ前倒しで製品を上市できるかを考えます。そうすれば、独占的なジェネリック医薬品が出せます」

先発企業にとって知財は自身の市場独占のために保護するものだが、後発企業は独占的な市場を切り開くためにそれを攻めに使う。知財専門家の力量がそのままビジネスに直結する経験を、大門氏はジェネリックメーカーで得た形だ。

技術の社会実装にはインハウスの知財法務の責任者が必要

その後、ジェネリックメーカーでの仕事をしながら、プロボノ的にスタートアップの支援を始めるようになる。

「もともと弁理士になった理由が、研究者の傍にいたいと思っていたから。昔は国内の研究所からどんどん発明が生まれ、弁理士が役に立っている感覚がありましたが、そのうち国内から薬のシーズが出てこなくなり、海外のスタートアップからシーズを探しに行く時代になった。日本にもいい研究があるはずなのに、社会実装されない。その原因は、スタートアップと弁理士のミスマッチが起きているからです」(大門氏)

プロボノ活動を経て大門氏が選択したのが、特定の事務所を持たない、マルチワーカー(多業)としての働き方だ。複数の企業と業務委託契約で仕事を請け、スタートアップの知財法務の責任者として経営に関わる形で支援している。

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顧問契約による外部の専門家では、スタートアップに十分貢献できない部分がある、と大門氏は指摘する。スタートアップには、知財法務戦略の単なる立案者ではなく、経営幹部CXOの一翼を担う最高法務責任者(Chief Legal Officer;CLO)としての執行力が求められている。しかし、従来型の特許事務所は、技術内容を説明するいい明細を作り、強くて広い権利を取得する発明の保護が主な仕事であり、顧問先の会社が知財を”利活用”しようとする場面にはなかなか関わることができないのが現状だ。

「特許法の第1条の法目的には、『発明の保護及び利用を図ることにより……産業の発達に寄与する』と書いてあるのに、弁理士の仕事は“保護”に偏りがち。“利用”=社会実装が求められている場面では、知財の価値をきちんと説明しなくてはいけない。出願権利化業務に関わり、交渉の場に出ているインハウスの責任者(CLO)でなければ、胸を張って主張できません」と大門氏。

大門氏は“利活用”の部分を重点的にサポートし、“保護”については外部の専門家にある程度任せるようにしているそうだが、それでも一人では数社が限界。スタートアップのCLOとして働く弁理士がもっと増えることを願っているそうだ。

「弁理士はもっとプロボノ活動をしたほうがいい。そうすれば、“保護”に偏った弁理士の業務が“利用”へと広がる。事業会社での知財法務を経験した方なら、間違いなくスタートアップの知財法務で活躍できると思います」と大門氏は断言する。

知財法務人材のスタートアップでの活躍スタイル

弁理士がスタートアップのCLOの仕事に躊躇してしまうのは、具体的な働き方がイメージできないからだろう。大門氏は、医薬・バイオ系スタートアップで知財法務の責任者が活躍できる場面として、「創業時」「共同研究開発時」「製品導出、M&A時」の3つの時点を挙げて説明してくれた。

ひとつは「創業時」の技術移転。スタートアップにおけるヒト・モノ・カネのうち、お金は投資家が入れてくれるが、ヒトとモノは創業メンバーがつくらなくてはいけない。創業時はまだ製品がないので「モノ」=「技術」であり、投資してもらうには、技術を知財で守っておく必要がある。

創業前から、というのは、その技術を何に使うのか、事業モデルによって特許明細書の書き方が変わってくるからだ。基本特許が公開されるよりも前に事業計画を立てて、その技術の用途を出し切ってしまうのが最も特許獲得のための道筋を組みやすい。

外部資金を調達する際も、知財法務の責任者から技術が知財で守られていることをわかりやすく説明すれば、デューデリジェンスはスムーズに終わる。出願段階でまだ権利になっていない場合でも、インハウスの責任者がいれば投資家の安心度合は違ってくる。

2つ目は、「共同研究開発時」。共同研究開発の契約書で問題になるのが成果物の取り扱いだ。権利の所在については、スタートアップ、共同出願、相手企業の3パターンが考えられるが、当然スタートアップ側がすべての権利を得るのが望ましい。

単純な契約書のレビューでは、権利が得られなければ契約しない、と杓子定規に判断してしまうかもしれないが、そこに知財のセンスがあれば、選択肢は変わってくる。

例えば、将来、より価値のある発明が生まれると予測できるのであれば、最初の発明に関しては権利を相手に渡し、研究開発を促進することを優先させるほうがいいかもしれない。そもそも医薬・バイオ系のスタートアップで創業時の知財がそのまま使えるケースはまれだ。ビジネスを動かしながら、製品の発明が出たときに強い権利を取ればいい。譲るべきところは譲り、守るべきは守る、といった判断はインハウスの弁理士でなければできないことだ。

3つ目は、「製品導出・M&A時」だ。ようやく製品を出す段階になると、知財戦略は一層重要になる。物質特許満了後の製品のライフサイクルマネジメントをどのように図るか、薬事法なども十分に考えて戦略を組まなくてはならない。知財の取り方次第でM&Aのバリュエーションが変わってくるので、研究者たちと一緒に知財ポートフォリオを構築していく必要があるのだ。

イベントに参加してスタートアップと出会うことから始めよう

スタートアップの支援に興味はあっても、大企業の知財部や特許事務所から一歩を踏み出すのは勇気がいることだ。大門氏は、まずはアクセラレーションプログラムのメンターやプロボノの形から始めることを勧めている。

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例えば、デジタルガレージ主催のOpen Network Labや東京都・Beyond Next Venturesが支援するBlockbuster TOKYOなどのアクセラレーションプログラムでは、公式のメンターのほかに、ビジネスや知財、研究者などあらゆる立場の専門家がプロボノとして参加している。またトーマツベンチャーサポートが主催するモーニングピッチ、平日の夜や土日のイベントであれば、働きながらでも参加しやすいので、それぞれ自分の専門分野のイベントに参加して、スタートアップと出会う機会をもってみるのがいいだろう。

「プロボノは、気が合うかどうかを見極めるいい機会だと思うので、まずは集まりに参加してほしいですね。自分が思っている以上に、サポートが求められていることがわかりますから」(大門氏)

最後に、大門氏にとってスタートアップの知財法務の責任者として働く魅力を聞いてみた。

「自分が責任を取れることです。外部の特許事務所は、顧問先から特許の相談を受けても『特許が取れます』、とは言えないが、インハウスの立場なら、『(私が)特許を取ってみせる』、と言える。投資家や発明者に対して安心感を与えられるのは、弁理士としてやりがいを感じます。今はどこでもネットがつながり、スマートワークや副業など多様な働き方を政府も推進しています。あとは行動に起こすかどうかだけ。最初は不安だと思いますが、ぜひ一歩踏み出してみてください」

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メディップコンサルティング合同会社 コンタクト先:ydaimon17@gmail.com