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イベント告知・レポート

知的財産マネジメント研究会(Smips)で語られた“「STARTUPs×知財戦略」政策までの道のり”とは

2019年4月13日、政策研究大学院大学で開催された知的財産マネジメント研究会(Smips)の全体セッションで、“「STARTUPs×知財戦略」政策までの道のり”と題した講演及びパネルディスカッションが行われた。

特許庁の政策の柱の一つ、「STARTUPs×知財戦略」。なぜ、特許庁がスタートアップ支援を強力に推し進め始めたのか、その経緯やこれまでの政策との違い、今後の展望について、「STARTUPs×知財戦略」政策を立ち上げたチームのメンバーである特許庁の松本要が講演した。

パネルディスカッションでは、元特許庁法制専門官として松本とともにスタートアップ政策など幅広い政策を扱っていた足立昌聰氏(インハウスハブ東京法律事務所代表弁護士、LINE/LINEヘルスケア株式会社 Security&Privacy Counsel)が登壇し、上條由紀子氏(太陽国際特許事務所 弁理士)をファシリテーターとして、なぜ日本ではベンチャー投資家の知財意識が低いのか、米国・中国など海外のベンチャー・エコシステムから知財面で学べることはあるのか、また、投資や企業買収などの際の知財デュー・デリジェンスの位置づけなどについて活発な質疑が行われた。

【左より、足立氏、松本氏、上條氏。研究会には、約60名が参加した。】

(講演概要)
1.スタートアップがイノベーションの中心的存在になる。

特許庁では、これまで事業会社、大学・研究機関、そして中小企業といった対象毎に知的財産政策を実施しており、スタートアップについては、いわゆる「中小・ベンチャー」として中小企業政策の一環で取り扱っていた。
 しかし、事業会社が既存事業の限界から新規事業への展開を図る手段としてスタートアップとのオープンイノベーションに取り組み始め、また、大学・研究機関の成果活用手段として事業会社への単純なライセンス・ビジネスの限界から大学発ベンチャーへの注目が高まっている。
 そして、スタートアップは、脱下請けや強いサプライヤー化による安定経営を主要課題とする中小企業とは、その抱える課題、取り巻くエコシステムやコミュニティが大きく異なる。
 そこで、イノベーションの中心的な役割を担うことが期待される「スタートアップ」を対象にした政策に取り組むことにした。

2.原因を突きとめる。

スタートアップの経営における知財の重要性の認識ははっきり言って低い。知財制度の機能についての誤解から、「特許はイノベーションを阻害する」という声すらある。このままでは、日本で真のイノベーションが起こり得ない事態となる。知財側もスタートアップを理解しようとする動きがまだ不十分。
 その理由を以下のように捉えた。1)知財政策がスタートアップに届いていない、2)専門的すぎて難しい感じがする、3)スタートアップで知財を活用して成功した先達(ロールモデル)がいない、4)コミュニティに知財の話を聞ける人材が少なく誰に聞いたらいいかわからない、5)スタートアップのスピード感に知財側が対応できていない。

3.まず動き出す。みずから「つくる」。

そこで、それぞれの課題に対して、起業家だけでなく投資家なども含むベンチャー・エコシステム全体をターゲットとして、様々な施策を「走りながら考え」できるだけ迅速に企画・実行・フィードバックした。迅速に取り組めた要因として、現場からボトムアップで提案したこの政策について、特許庁長官をはじめとする幹部の深い理解が得られたことも大きい。

1)ターゲットを明確にする
●特許庁内にスタートアップ支援チームを組織
●チームロゴ・テーマカラー・チームTシャツ

2)わかりやすく伝える
●スタートアップ向けウェブサイト作成・UI大幅更新
●メディア発信の強化(オウンドメディア/SNS)
●シンプルでわかりやすい情報提供(プレゼンテーション資料等)

3)事例をまとめるだけでなく事例自体をつくる
●一歩先行く国内外ベンチャー企業の知財戦略事例集
●オープンイノベーションのための知財ベストプラクティス集”IP Open Innovation”
●知財デュー・デリジェンス標準手順書”SKIPDD”
●ベンチャー投資家のための知財評価・支援手引き
●日本初の知財アクセラレーションプログラム「IPAS」
●スタートアップの海外展開を支援する「JIP」

4)コミュニティに入り込む/つくる
●特許庁自らスタートアップ系イベントに登壇(約半年で25超)
●「STARTUPs×知財戦略」のための”基地”IP BASE
●スタートアップと知財人材が接点をもち共に成長する場づくり

5)手続を見直す
●ベンチャー企業対応スーパー早期審査・面接審査
●料金減免の手続簡素化

4. スタートアップだからこそ、経営戦略への知財戦略の組み込みを「当たり前」にしたい!

知財で全てが解決するわけじゃない。しかし、知財が関わるスタートアップの経営課題は幅広く、また投資の考え方に近い、長期的・俯瞰的な視点が必要である。

●先入観にとらわれない。~知財キャリアについて~

「知財キャリア」をテーマの一つとするこの会の趣旨に合わせ、講演者がこれまでどのようなキャリアを経て、この政策立案に至ったかについても紹介。知財とは一見関係の薄い業務や国際的な経験を踏まえ、知財人材が活躍する場の多様化が進み、また進むべきであると考えていること、また、そのためには知財に限らず幅広い経験が生きてくること、そして、「常に分野の素人であれ」(東北大学名誉教授 岡田益男先生の言葉)、つまり、常に素人の気持ちに立って先入観にとらわれずに取り組むことが求められており、これは、特許庁が進め、スタートアップ施策にも反映されている「デザイン経営」に通じるものである、と締めくくられた。

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