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CEOが語る知財

メトセラ代表取締役Co-Founder&Co-CEO野上健一氏インタビュー
勝てる特許取得こそゴール メトセラを強化した知財アクセラレーション

株式会社メトセラは、心不全向けの再生医療等製品を研究・開発する再生医療スタートアップ。2016年3月に創業し、これまでに3件の特許を出願している(1件は登録済み、2件は出願中)。心臓の組織再生を助ける「線維芽細胞」を用いた心不全向けの細胞医薬品を開発する同社の特許は、特許庁の知財アクセラレーションプログラムの支援を経てどのように進化したのか。代表取締役Co-Founder&Co-CEOの野上健一氏に、話を伺った。

知財なしでは創業すらままならないバイオ系スタートアップ

メトセラ最初の特許出願は、創業2年前の2014年にさかのぼる。共同代表の岩宮貴紘氏が、東京女子医大の博士課程の在籍中に行なっていた研究がコアとなった。岩宮氏が個人で特許を出願し、メトセラ設立後に権利を移している。現在は、そこから派生した特許2件を新たに出願中だ。また外国出願費用の半額を補助する「中小企業等外国出願支援事業」も2年連続で活用し、海外での出願も進めている。

創業前に特許を取得しているのは、バイオ業界ならではの事情もある。「バイオがほかの業界と大きく違うのは、MVP(minimum viable product:実用最小限の製品)ができてもすぐに販売するわけにはいかないこと。まず動物実験、人への治験などを経て、段階的に進めていかねばならず、製品化への道のりが非常に長い。いわゆるJカーブが深い業種であり、膨大な資金調達が必要になります」(野上氏)

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メトセラ代表取締役Co-Founder&Co-CEOの野上健一氏

同社の場合、創業、エンジェル、シード、シリーズA1、A2の計5回と、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成金などを含め、約9億円を調達しているが、3年間ですでにかなりの資金を費やしているという。

「経営コンセプトとして、戦うならアクセルを踏めるだけ踏む、と決めています。役員を含めるとメンバーは14人。さらに外部のアドバイザーとして医師や研究者、弁護士、弁理士にも入っていただき、やれることはすべてやれるように、万全の体制で事業を進めています」

創業3年目になり、現在は動物実験のめどがつき、2020年後半からの治験の開始を目標に進めている。だが、実際に収益が得られるのはまだまだ先。ビジネスとしては相当の賭けでもあるが、それは投資する側も同じだ。

「創業時にNEDOから助成金を出してもらえたのも、早くから特許を出願していたことが大きい」と野上氏は強調した。

出願している知財について、特許権はいずれも100%メトセラが所有している。このことが事業上のフレキシビリティーという点でも有利に働いているそうだ。

技術に理解のあるVC、弁理士との出会いが創業につながった

共同創業者として野上氏は、知財に関してどのような方向性で取得を進めていくのか、戦略を研究者とともに考える役割も持っている。大元の発想、課題の発見は、岩宮氏を中心に研究開発のメンバーから上がってくる。だが、最初の特許出願時は、まずチームで知財制度そのものから学ぶ必要があったという

「研究は論文を書くのが目的。研究上のゴールと、特許を出すうえでのゴールは違う。最初のうちは頭を切り替えるのが非常に大変でした」(野上氏)

研究では、明確な有意差が出なければならないが、知財は、一定の新規性・進歩性があれば権利化が可能だ。最初はベンチャーキャピタル(VC)が紹介した弁理士に入ってもらい、国内外の制度を学び、社内でも共有しながら、徐々に特許戦略を固めていった。

とはいえ、特許の出願には、費用がかかる。創業前の大学発スタートアップで資金もない。いったいどのように工面したのか。

「弊社の場合、投資に向けたデューディリジェンスの一環で特許の調査費用をVCが負担してくれたことで大変助かりました。特許調査だけでも相応の金額がかかっていたと思いますが、そこでいい結果が得られた。また、特許の明細書作成もVCが手伝ってくれたので、創業へ向かって行けました」

メトセラのように、知財に理解あるVCを見つけることは、バイオなどの知財の有効性が高い産業領域においては必須といえるだろう。ここには「大学発新産業創出プログラム(START)」といった創業前の技術シーズを起業へつなげるプログラムをうまく活用してもいい。

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「僕らはたまたま運よく、基本特許を幅広く取れましたが、じつはボタンをひとつ掛け違えたらここまで取れなかったかもしれません。メトセラが取得している特許では、『線維芽細胞集団』がクレーム(編注:特許の請求項で定められる権利範囲)とされています。じつは当初、『細胞集団』という文言は入っていなかったのですが、弁理士の先生方のアドバイスでうまく仕上げていただけた。細胞集団としたことで、原案よりも強いクレームに仕上がりました」

弁理士によっては、将来の権利強化・保護にそこまで気を配ることなく、そのまま進めてしまうこともあるという。当時を振り返った現在、理解ある弁理士を見極めるポイントを聞いてみた。

「技術に対する理解度はもちろん、クライアントに対して厳しいことが言えるかどうか。耳あたりのよいことを言ってくれる弁理士さんとは顧問としての関係は続けやすいかもしれないが、厳しく突っ込んでくれる方は貴重です」と野上氏。

勝てる特許を取ることが知財活用のゴール

このほかにもメトセラは、さまざまな団体による知財のサポートを活用している。創業した年に派遣プログラムで米国へ赴き、現地の知財法について学ぶ機会や現地VCと会う機会も得た。海外では知財の法律や文化背景が異なるため、こうした支援を利用して、知識を深めたうえで知財戦略に役立てるのも一手となる。

「米国では基本的に出願前の特許調査はしない、と強く言われました。というのも、調査を実施したことで、仮にインフリンジメント(既存の特許への抵触)に気づく示唆が含まれていたとすると、意図的に他社の権利を侵害したとみなされ、賠償金が3倍になってしまうおそれがある。もちろん、専門家によっては先願調査をしておいたほうがいいという意見もあり、いろいろな考え方があることを知るいい経験になりました」

直近では、2018年10月から特許庁の「知財アクセラレーションプログラム」(IPAS:IP Acceralation program for Startups)での支援も受けている。IPASでは、ビジネスと知財の専門家がスタートアップに対して知財戦略を立案し、その戦略に基づき事業を進めるためのサポートを行なっている。

メトセラもIPASの第1期生として支援を受け、大手製薬メーカーでの経験もある知財専門家から、定期的にメンタリングを受けていたという。

「まず特許は、取得することがゴールではなくて、勝てる特許を取ることがゴール。権利の有効期間をきちんと確保しないといけない、と言われました。その観点で改めてレビューしていただき、複数の特許権を組み合わせて、技術・製品の寿命を延ばしていくイメージを持っています」

バイオに限らず、研究と事業のステージが進んでいくと、基礎技術以外でも、いろいろな特許が取れる可能性がある。また、国が変わると特許制度も変わるので、多様な観点で技術に光を当てていくと、取得可能性が強まる。複数の特許を組み合わせてポートフォリオ化していく中で、事業を守る権利の寿命も長くなる。IPASでは、新たに出てきた研究成果をどのように知財にからめていくか、その戦略を学んだそうだ。

「バイオ関連の知財に精通した弁理士を探すのは簡単ではないし、またスタートアップが効果的な依頼をするのはさらに難しい。特許の草案をまとめるにもスタートアップだけでは非常に時間がかかる。IPASでこうしたハードルを省略できたのは大きな成果です」

 IPASは2019年度も規模を拡大して実施予定だ。最新情報はIP BASEに掲載される。来年度公募は4~5月を予定しているので、興味があるスタートアップはぜひチェックを。

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現在、再生医療の分野で日本は世界から注目を浴びているが、「とはいえ、当社も含め、知財には万全の注意を払う必要がある」と野上氏は危惧する。

「国によって制度も違う。日本で特許が取れたからといって、世界でも通るとは限らないことを痛感しています。たとえば米国は、Continuation Application(継続出願)をうまく使う。日本の制度をもとにした分割前提の出願では追加のデータを出しづらいが、継続出願なら後から補強できるのは有利。特許担当者は、どこの国の制度をもとに発想するかも大事になってくる。より海外の制度に理解のある方にアドバイスが受けられると、視野が広がるかもしれません」

これまで情報を秘匿するために情報発信は最小限に留めていたメトセラだが、早期の国内での治験開始を目指しており、外の企業や病院ともより深く関わるようになる予定だ。すると、これからはステークホルダーをはじめとする外部への情報発信もしていかなくてはいけない。公開する情報が増えれば、知財で権利を守る重要性は増してくる。今まで以上に知財体制を整えて、しっかりと固めていきたいと野上氏は語ってくれた。

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株式会社メトセラ

文●松下典子 聞き手・編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 撮影●平原克彦