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一歩先行く国内外ベンチャー企業の知的財産戦略事例集

IT

01:株式会社カブク
~製造業のデジタル化をコアに、技術経営を推進~

会社紹介

「デジタルものづくり」のプラットフォームを開発・推進するベンチャー企業。3Dプリンティングや機械学習をコア技術としながら、ハードウェアとソフトウェアとデザインを融合したプロダクト・サービス開発を行っている。試作・特注品・量産のオンデマンド受託製造サービス、デジタル工場向け基幹業務クラウドサービス、デジタルものづくりマーケットプレイス、その他エンタープライズ向けソリューションなどの提供、産官学連携による先端技術研究等に携わっている。

主な製品・サービス

・試作・特注品・量産のオンデマンド製造サービス「Kabuku Connect」

国内・海外の工場ネットワークにより納期短縮、低価格、新素材でのオンデマンド製造を実現するサービス。日本では未導入の最新産業用3Dプリンターによる試作・最終製品製造のほか、金属3Dプリンターによる製造など、多数の実績がある。

・工場向け営業支援・受発注管理システム「Kabuku MMS」

製造を行う工場向け営業支援・受発注管理のクラウドサービス。製造工場の、見積~納品までの業務工数を削減し生産性を約5倍向上可能。見積もり作成、受発注管理、請求書の発行、会計処理などの手間と時間がかかるビジネスプロセスの簡素化を実現する。

・3Dプリントプロダクトマーケットプレイス「Rinkak」

3Dプリンターで制作されるプロダクトのマーケットプレイスを運営。金型を制作する必要や在庫を抱える不安もなく、全世界に対してモノが販売できる。

1. 事業方針デジタル化によって、ものづくりの民主化をめざす

同社は「ものづくりの民主化へ。」をビジョンに掲げ、従来の企業グループ毎の結束が強い業界構造からグループの垣根を超えた協業の可能性をめざし、ものづくりのデジタル化を推進している。同社は工場をもたないファブレス企業だが、約30カ国での産業用3Dプリンタ等を所有する工場とネットワークを構築し、オンデマンドでの製造に対応。オーダーに応じた最適な工場に発注先を最適化するほか、独自に開発した工場向けの営業支援・受発注管理システムを無料配布して提携先を増やし、デジタル化された製造サプライチェーンを構築。

こうしたプラットフォームに加え、製造業の経験を有するスタッフがクオリティ・コントロールを行い、効率的で信頼性の高いものづくりを実現している。また、先端的な技術を扱うため、代表自身がMOT(Management of Technology)を意識。開発技術のオープン・クローズ(コンソーシアムへの参画、基礎技術をオープンにした大学との研究)を適宜判断しながら、ソフトウェア提供にとどまらず製造も対象として、戦略的に事業を展開している。

2. 知財戦略自社の成長目標からバックキャストして知財戦略を構築

・戦略的に、広く太い特許ポートフォリオを構築

同社では弁理士と相談しながら、AIやIoT、セキュリティにいたるまで幅広い範囲で特許を取得し、戦略的に特許ポートフォリオを構築している。これは、ヒト・モノ・カネの規模が異なる大企業との協業時に対等な関係性を築くための施策として展開している。

・自社の成長目標からバックキャストして知財戦略を構築

同社ではものづくりの構造を変えるという社会的インパクトのあるミッションを遂行するために、将来的に業界のトップ企業になることができるように、必要とされる機能を想定して経営を行っている。そのため、早くから外部取締役などを招聘し、大企業にも劣らないコーポレート・ガバナンスを機能させてきた。知財戦略もこの戦略の一部であり、優先的に取り組みつづけている。

3. 活動体制複数の法律事務所と連携し、強い特許網を構築

同社では、1社の弁理士に頼らず、複数の弁理士や法律事務所と提携。社長と経営管理の担当役員、業務経営エリアが中心となって意思決定し、扱う技術の分野や特性によって最適な弁理士や法律事務所を使い分け、特許を出願・管理している。

これにより、幅広い範囲の技術を扱う同社においても、各専門分野に通じたパートナーが特許を出願することが可能に。強固な戦略的特許ポートフォリオを構築することができるようになった。

もちろん、こうした運用には適切な知識が必要となるが、ここには社長自身が学生時代に学んだMOTや起業前の実務経験が活かされているほか、専門書を複数読むことで学習したことも大きく寄与。社内に共有された社長の経験により、同社は適切な社外専門家の使い分けとディレクションを可能とした。

4. 活動の変遷M&Aによって、事業を加速化

前述のとおり、同社では社会的にインパクトのある事業を展開するために将来的に大企業となることを想定した経営をつづけてきた。しかし、同社の今後のビジネス展開を考えると、世界中のメーカーとのコネクション構築や工場の立ち上げ、検品人員の確保や教育などが必要となり膨大な資金と時間が必要になる。

そこで、電⼦部品や電⼦機器、生産器材の設計から製造、販売を行っている東証一部上場企業の双葉電子工業株式会社からのM&Aを受ける。大きな山を一気に登り、さらに事業を加速させている。

5. 知財の活用大企業との連携・協業に向けて有効に活用

・大企業との協業のトリガーに

知財の獲得は、大企業との事業連携や戦略的提携などの協業へのトリガーとして機能。特許ポートフォリオの構築は、連携先から他社の権利を侵害しているリスクが少ないとして見られることとなり、同社の信頼性を確保する安心材料の一つとなっている。またこれは大企業にとって、特許を取得している同社と組んでいる限りは余計なリスクを踏まなくて済むということも意味する。逆に同社と近しい事業を勝手に展開しようとすると危険なのだと示唆することができるため、連携に向けて有利に機能する。

これは、大企業ではできないポイントをあえて意識し、付加価値として何が提供できるかを明確に提示できるようにすることで数々のアライアンス締結を成功に導いてきた。

・資金調達などへのインパクト

知財の取得は、資金調達やM&Aなどのベンチャーファイナンスでもポジティブな効果がある。

・戦略PRやブランディング、マーケティングツールとして活用

スピードが命運を握るソフトウェア業界における知財は、他社により模倣の防止などといったその本来の目的だけではなく、自社ブランディングや他社との位置づけを優位にするマーケティングツールとしての意味合いも大きい。

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