文字の大きさ

English
  • IP BASE

一歩先行く国内外ベンチャー企業の知的財産戦略事例集

化学

06:Spiber株式会社
~積極的な知財獲得を足場とした「人工クモ糸」のリーディングカンパニー~

会社紹介

強靱かつ柔軟な「クモの糸」を人工的に量産する基礎技術を世界に先駆けて確立。これを足掛かりに、枯渇資源に依存しない新世代の人工タンパク質から、糸やフィルム、レジンなどの素材を作る研究開発、および事業開発に取り組んでいる。

主な製品・サービス

・QMONOS®

「クモの糸」に含まれるフィブロインの分析・遺伝子合成から、発酵工学、精製技術に紡糸技術など分野横断的な自社研究開発体制から作り出された人工合成タンパク質繊維。2015年、THE NORTH FACEとのコラボレーションにより製品化に向けた本格的な試作品を発表。人工タンパク質素材使用の衣服として世界で初めて工業ラインで制作された。2016年には、LEXUSが発表した衝撃吸収を軽減するコンセプトシート「Kinetic Seat Concept」の一部に本素材が起用された。

1. 事業方針地球環境の課題解決に貢献できるような価値創出を重視

同社では創業時からフェイズに応じてビジネスモデルを変化させている。リソースの少なかった創業時には、基本技術を開発し、それをパートナー企業にライセンスアウト、パートナーが事業化していくという戦略をとっていた。会社規模が拡大した現在では、地球環境の課題解決という同社ミッションに従い、自社での事業化による商品価値の最大化をめざした事業戦略に注力している。また、事業化の可能性がある出口も豊富なため、さまざまな産業カテゴリーにおける共同研究開発にも力をいれている。

2. 知財戦略量を重視した知財戦略を積極的に推進

・特許数でリーディングカンパニーとしての位置を確立させる

同社では素材分野におけるリーディングカンパニーとしての位置を確立するためには、まず必要十分な出願件数を確保することが重要と考え、量を重視した知財戦略を展開している。量を確保することで必然的に質の確保にもつながるという考えにもとづいて積極的に活動。質と量の双方を重視し、数値目標を立てて最優先で特許取得を推進している。

また、通常は数値化できない技術力の高さという指標も、特許数によって可視化できるメリットがある。この数値をもとに競合のベンチマークをとることで、自社の研究進捗を客観的に測ることにも利用している。

・標準必須特許を意識した戦略

同社は素材メーカーであるため、模倣品排除には標準化が最も有効と考えている。同社でしか実現できない厳しい技術用件やスペックに基づいて「人工的なクモの糸はこうあるべき」という標準化ができることをめざしている。そのためにも、知財化の段階から製造方法の標準必須特許化を意識して活動している。

・内閣府「ImPACT」での知財コンソーシアム

同社は、内閣府が推進する「ImPACT(革新的研究開発推進プログラム)」のコア研究組織に選定されている。ここで同社は商品普及のため知財コンソーシアムを組成。世界で広く研究開発が進むようにしている。

3. 活動体制研究を熟知したスタッフが対応し、全社員への情報共有も積極的に展開

同社の知的財産室には、研究者出身のスタッフが多く在籍。これに加え、特許事務所経験者も在籍することで、研究内容を反映した効果的な出願書類の提出が可能になっている。

研究者出身のスタッフは、OJTのほか外部研修を積極的に活用することで知財ノウハウを習得。特許庁の研修などに参加している。

実際の出願にあたっては、外部の特許事務所と連携。現在では世界的にも有名になった企業をベンチャー企業の時代から支援してきた実績をもつ事務所のためマインドも共有部分が多く、二人三脚で非常に良い連携がとれている。

また、同社の役員は全員、知財が重要という認識をもっているため、全社員への情報共有も推進。特許出願・登録された際には全社員へのメーリングリストで情報を展開するほか、定期的なミーティングで知的財産室から競合の技術・特許の状況を共有したりする場を設定している。

4. 活動の変遷明確な戦略を設定することで 「出し渋り」 から脱却

同社では創業時、確固とした知財戦略を設定していなかった。また、さまざまな要素技術が異なるタイミングで生まれてくるなかで、特許出願の順番を間違えると権利化の範囲やノウハウと特許の区別がおかしくなり、ビジネスモデルも効果的に設定できなくなるととらえていたため、当初は必要以上に特許出願を出し渋っていた。しかし、このままでは競合他社の特許に対して受け身になってしまうと実感。明確な特許取得目標を設定して積極的に出願していく方向に舵をきった。

5. 知財の活用大企業との連携や資金調達で有意に活用

・大企業との共同研究を進める上での攻めと守り

大企業と共同研究の交渉を行う際に、知財を幅広く活用している。自社としてすでにスコープに入っている領域、今後一緒に進めていきたい領域などを知財を通じて明確に他社に説明することで、有意義な交渉を進めることができる。

・資金調達

ベンチャーキャピタルによる資金調達においても、特許が大きく役立っている。特に、特許の「数」を多く取得することによって、技術の細かい部分まで理解いただかなくても、数値でのインパクトによって競争における優位性を評価を受けることができるため、信用獲得のための大きな判断材料となる。

UP