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一歩先行く国内外ベンチャー企業の知的財産戦略事例集

化学

07:マイクロ波化学株式会社
~製造プロセスを提供する企業ならではの独自戦略~

会社紹介

2007年に大阪大学発のベンチャー企業として設立。電子レンジにも使われているマイクロ波の「内部から直接、特定の分子だけにエネルギーを伝達する」という性質に着目し、工業プラントへの活用を研究。化学反応を分子レベルでデザインすることで、省エネルギー・高効率・コンパクトなものづくりを実現するテクノロジー・ベンチャー企業として活動を続けている。

主な製品・サービス

・マイクロ波を活用した工場プロセスの開発

独自開発したマイクロ波に最適な反応系、触媒や制御システムなどを活用し、開発からプラントの立ち上げまですべてを対応可能。

タッチパネルの高精細化に欠かせない「銀ナノワイヤー」や次世代素材「グラフェン」、低級油からつくる「脂肪酸エステル」など、さまざまな製造プロセスでの活用実績がある。

1. 事業方針不確定な技術プロセスを広めるための実証的な研究開発

ベンチャー企業では一般的に、重いアセット、つまり工場を持ってはいけないという原則がある。ベンチャーキャピタルから資金を集めて工場を建設しても創業当初では注文がとれず、工場が休んでしまうからだ。同社でもこの原則にならい、創業時は研究開発を第一優先として、概念設計をライセンス化するビジネスをめざしていた。しかし当然のことながら、ライセンスできるものは確立された技術であり、マイクロ波というまだ確立されていない技術のライセンス化は受け入れられない。加えて、プラントの工場長などに話を持っていっても、不透明な新しい技術のリスクを引き受ける工場はなかなか存在しなかった。

そこで、ベンチャーキャピタルから資金を集めて2014年に自社工場を設立。ここに実際に顧客の目で見学してもらうことで、マイクロ波を活用した生産工程を実証する方針に転換した。これ以降、与信の厳しい大企業等からも声がかかるようになり、ビジネスが加速。いまでは、太陽化学や岩谷産業など多数の企業の敷地内に共同でプラントを設立しながら、開発を進めている。もちろん並行して基礎研究も続けているが、不確定な技術のプロセス開発を展開する同社では、より多くのプラントを建設しながら独自技術やノウハウを蓄積し、安定稼働させていくことをいちばんの課題としている。

2. 知財戦略変化するビジネスモデルにあわせて広範囲な基本特許を取得

同社の知財戦略は権利行使の視点からスタートし、特許で自社の技術をいかに証明するかという考えを基盤として展開している。特に大きく特許取得に動いたのは2011年で、広範囲にわたって同社の技術的な核となる基本特許を取得した。この特許取得にあたっては、2008年からどのような特許を出すのが効果的かという戦略協議を弁護士事務所と何度も重ねることで実現している。

また、同社でのビジネスはモノ売りではなく、不確定な技術を核としたプロセスを展開しているため、上位概念での特許取得こそ重要である。

例えば、マイクロ波のリアクターを取得した基本特許では、基本的な設計の段階で、ほぼ同社の特許に抵触するような広範囲な特許を取得している。そのうえで、マイクロ波のビジネスの進展に伴って出願することで、変化するビジネスモデルに対応して知財の権利化を進めてきた。

また、同社でのサービスは化学メーカーやエネルギー産業がターゲットとなるため、海外での市場規模が非常に大きい。日本国内のみの特許ではビジネスチャンスが狭くなってしまうため、基本特許を押さえた段階から、海外にも積極的に展開していくという知財戦略をとっている。

3. 活動体制想いを同じくするパートナーと組むことで、高い相乗効果

知財担当者による緻密な戦略立案

同社では大手企業の知財の本部長を務めていた知財担当を中心に知財戦略を展開。ビジネスモデルが流動的な同社にあわせ、製品売りや装置売りの場合のプランやライセンス供与をしていく場合などさまざまなプランに合わせた出願戦略を立案し、経営者とも合意形成している。都度浮かび上がってくる課題に対しては定期的に開催する発明委員会で話し合って対応していくが、社員数が少ないベンチャー企業の機動力を生かし、日々相談しながら判断することも多い。スピード感が要求されるベンチャー企業の事業活動のなかで、常に動きながら考えている。

マインドを共有した有名弁護士事務所とのパートナシップ

また、同社では有名弁護士事務所とパートナーシップを組んでいる。本来であれば費用面でなかなか難しい契約だったが、同社の事業内容や想いに興味を持ち、パートナーとなってもらうことができた。会社のマインドそのものに共感を持って活動することで、ビジネスとしても効果が生まれ、お互いの力を引き出すことができている。

社内の知財リテラシー向上

転職入社が多いため、社員の知財に関するリテラシーにはバラつきがある。そこで、知財の知識を均一化するために広くOJTによる教育を行うほか、弁理士の先生を呼んで社内勉強会を行うなどの活動をしている。

4. 活動の変遷ビジネスモデルの変遷にあわせた知財戦略

同社の知財活動はマイクロ波技術の権利化から始まった。しかし、まだ不確定な技術を特許化することができなかったため、まずは自社工場設立による実証をめざした。そのうえで、2011年に広範囲に渡る基本特許を取得し、ビジネスの核を確立。現在では三井化学(株)などの大企業と共同開発を行っているが、同社にとって重要なプロセス部分の技術については単独出願できるような契約を締結している。

5. 知財の活用補助金獲得など、資金調達時に有効

・資金調達

同社ではこれまで、グラント(公的機関からの補助金)の獲得において知財を活用してきた。特に、2011年に基本特許を取得するまでは特許で技術を世の中に出すことが本当に良いのか迷っていた時期だったが、コア技術を隠しながら特許出願するなどの工夫をすることで、グラントの獲得に役立ててきた。

また、海外のベンチャーキャピタルでは知財戦略を厳しく見る傾向があることを経験。しかしそのぶん、自社の競争力を示すことのできる知財には大きな価値があると考えている。

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