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一歩先行く国内外ベンチャー企業の知的財産戦略事例集

バイオ

10:ペプチドリーム株式会社
~戦略的な特許ポートフォリオによって、独自のビジネスモデルを構築~

会社紹介

東京大学発の技術をベースにして2006年に設立されたバイオ医薬品企業。独自の創薬開発プラットフォームシステム:PDPS (Peptide Discovery Platform System) をもとに、特殊ペプチド治療薬や低分子治療薬を開発している。世界中の戦略的パートナーと緊密な連携を取りながら、疾患領域や薬物の投与経路等を問わずに、それぞれのターゲットに対するヒット化合物の探索等に取り組んでいる。

主な製品・サービス

同社の創薬開発プラットフォームシステムPDPSは以下に挙げる3つのコア技術のほか、複数の知財をもとに成り立っている。

・フレキシザイム技術

ほぼ全てのtRNA上で天然アミノ酸と特殊アミノ酸を高効率で結合させることができる人工RNA触媒「フレキシザイム」により、特殊ペプチドを創生する技術。

・FIT (Flexible in-vitro translation) システム

特殊ペプチドを創薬開発に活用するためにライブラリ化する技術。1本の試験管の中に,数千億から兆単位の数におよぶ特殊ペプチドを創出することができる。

・RAPID(RAndom Peptide Integrated Discovery) ディスプレイシステム

FITシステムによって創製された特殊ペプチド・ライブラリーから、創薬ターゲットとなるタンパクに対して親和性を示す特殊ペプチドを高速でスクリーニングできる技術。

1. 事業方針研究結果を収益へと結びつけるビジネスモデル

同社はベンチャー企業が事業を進めるにあたり、「技術を開発する人」と「ビジネスを考え遂行する人」が十分に話し合って、お互いが納得できる関係性を構築することが最も重要なポイントだと捉えている。同社では「研究」は発明者・アカデミアが担う領域、「開発」はベンチャー企業が担う領域と明確に区分した事業展開によって、数々の成功を収めてきた。

「開発」に注力する同社ではビジネスモデルの構築に尽力し、世界的な大企業へのライセンス貸与などで早々に売上をあげることに成功。また、投資期間が長期におよぶ創薬事業において、創薬パイプラインを常時50~60本確保することで安定した経営を実現している。

これにより、ベンチャーキャピタルや研究助成金へ過度に依存することのないビジネスを展開。安定した事業基盤と売上の確保によって、大企業とのアライアンス締結時にも対等な交渉ができている。

2. 知財戦略個別の特許をまとめ上げてビジネス化できるプラットフォームへ

・複数知財をパッケージ化した特許ポートフォリオを構築

同社では、コア技術を組み合わせた特許ポートフォリオをつくり、創薬開発プラットフォームPDPSを構成。知財をパッケージ化したツールをつくりあげることで、単独の知財権では得られにくい強固な参入障壁を形成。これを梃子に、グローバルで多くのメガファーマとの新薬共同開発ビジネスを実現してきた。基礎研究成果のビジネス展開を常に考え、戦略的に実用化へ取り組んできたことが実を結んでいる。

また、このパッケージ化には、特許期限が切れてしまう前に同社技術をデファクトスタンダードとして浸透させようとする展開や、個々の特許だけではどうしても生じてしまう抜け道をふさぎ、自社の知財をより堅牢化しようとする戦略も見据えられている。

・大学TLOとの有意義な連携

同社では、東京大学の技術移転機関:TLO(Technology Licensing Organization)と密接に連携。特許出願・管理などのコストは負担するものの、業務はすべて大学側に任せて活用している。ただし、特許出願前には連絡をもらい、出願する特許事務所と密にコンタクトをとって確認をするなど、特許の目利きとしては機能している。

3. 活動体制大学TLOとの包括的な連携

同社では自社内の知財管理を限定的とし、大学のTLOと包括的に連携している。

具体的には、同社の事業上の核となる技術の多くはTLOからライセンスを受ける形で継続的に保有し、TLOがその管理等の労力を負担している。他方、同社がハブとなり多くのグローバルな製薬メーカーから開発資金を得て、それをTLOにロイヤリティとして払うことで、TLOは多くの収益を得ている。

また、同社では研究資金のやり取りは完全に企業と大学側で分離する方針をとっており、それぞれが独自の研究資金を確保している。アカデミアの研究の自由を守り、利益相反を回避するためである。

4. 活動の変遷創薬開発を成し遂げるために、独自のビジネスモデルを構築

同社はフレキシザイム技術が完成していた状態で創業している。ビジネス開始前に十分な市場調査を行い、抗体医薬が隆盛していたが、先が見えていた状況を認識していた。ベンチャーキャピタル側から当初提示されたビジネスモデルは、フレキシザイムによって生まれる新しい特殊ペプチドをライブラリーとして販売することだった。

しかし、それでは研究におけるパーツのサプライヤーとして終始してしまう。これでは、同社の夢である「新しい分野における創薬開発」は実現でき ないと判断し、独自のビジネスモデルを模索していった。その結果生み出された戦略が「PDPS」であり、この特許ポートフォリオによって現在では世界の名だたる製薬会社とのアライアンスを築き上げ、同社が創薬分野における「プラットフォーマー」となる形を構築している。

5. 知財の活用世界有数のメガファーマとの対等なアライアンスを締結

・大企業とのアライアンス締結

同社では特許ポートフォリオを徹底的に固めていくことで、大企業との対等なアライアンスを締結させてきた。特にバイオや製薬業界では契約締結時には非常に厳しい審査が行われる傾向があり、少しでも特許に穴が見つかると大幅にディスカウントされてしまう。そのため、まずポートフォリオを完璧と言えるまでに固めてから交渉に臨むことを徹底してきた。その結果、同社では提携先企業から「我々が持っていないものを全てあなたたちが持っている」と言われるほどの特許ポートフォリオの構築に成功した。また、複数の創薬パイプラインや共同開発を確保して事業基盤が安定していることも、強気の交渉に臨める一因となっている。

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