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ベンチャー投資家のための知的財産に対する評価・支援の手引き

4章:知財評価・支援のための体制

社内外で技術・知財の評価・支援ができる体制をつくる

ベンチャー企業の技術・知財を評価し支援をするため、社内外で評価・支援ができる体制をつくることが重要である。

社内の評価プロセスを仕組み化しノウハウ共有しよう

技術、知財評価のプロセスについて仕組み化をしよう。とくにシード・アーリーステージでは技術や市場がピボットし、その都度必要な知財が変化する。また、ミドルステージ以降でも追加的な技術開発によって多くの知財が追加的に必要になるケースも存在する。

こういった環境の変化に対応できるように定期的な評価や支援ができる体制を構築することが重要である。知財の評価は投資時のみ行うものではなく、継続的な取組が求められる。また、社内知財担当者に一任するのではなく、組織として知財戦略に対応できるようノウハウ共有をすることが有用である。

参考事例
投資プロセスに社外アドバイザーによる知財評価を必ず入れる

米国のあるベンチャーキャピタルでは、投資プロセスのはじめの段階で知財のデューデリジェンスを行うことにしている。この際に、社内だけではなく、必ず社外の専門家であるアドバイザーから、技術や知財、市場についてのレファレンスを取るプロセスを入れている。アドバイザーには、市場の観点から評価してもらい、その後、知財をプロテクト用に使うのか、ライセンスを目的に使うのか、活用に踏み込んで評価を行う。

(海外ベンチャーキャピタル)

知財専門家と協働しよう

知財支援には弁護士や弁理士といった専門家と連携することが重要である。投資家は適切な知財専門家とのネットワークを構築しておくことで、必要なときに連携をすることができる。
また、投資家と知財専門家では視点が異なるため、知財専門家にすべてを委ねるのではなく、起業家を含めて3者で議論することで知財活用が実現される。

参考事例
VC内部の知財弁護士が知財戦略を支援し、EXITにつなげる

米国のあるベンチャーキャピタルでは、マネージングディレクターとして知的財産を専門とする弁護士を雇用している。これにより、投資先の知財戦略の支援を効率的に行うことを狙っている。知財弁護士の支援内容は、投資先の知的財産の評価、知財戦略の策定や実行など広範囲にわたっている。とくに、特許権は保護期間が限られているため、追加の権利を取らなければ後発企業の参入を許すことから、基本特許だけでなく知財ポートフォリオを構築するための助言を行っている。 支援事例として、知財弁護士が投資先企業の国際出願の早期権利化を助言し、PCT出願から2年で権利を成立させたことにより、大手企業が海外でも知財が保護できていることを高く評価した結果、2億ドルで買収につなげた事例がある。

(海外ベンチャーキャピタル)

参考事例
VCが法律事務所と提携し、知財のハンズオン支援を講じる

リアルテックファンドでは技術の社会実装に必要な様々な支援を行っており、この一環としてリアルテック領域に不可欠な知財ハンズオン支援"Patent Booster"を推進することとした。これにより、事業戦略と一体化した知財戦略を早期に立案・実行する。

具体的には法律事務所と提携し、投資委員会やハンズオン支援の段階、発明の創出段階や新規事業への進出などあらゆる段階で、ベンチャー向けの知財戦略を支援する弁護士が投資先に対して知財戦略の立案、知財優位性の確認、重要特許の権利化等の支援を講じる。

ベンチャー企業サイドが「知財戦略が必要である」と思ったタイミングで知財を支援するのでは遅いため、ベンチャー企業と常時寄り添い、専門的な情報へアクセスできるようにする。

(リアルテックファンド)

おわりに

本手引きのキーメッセージは以下の通りである。

  • 投資家がベンチャー企業の知財戦略構築を支援する意義が高まっている
  • 知財戦略は「いかに広い特許権を確保するか」という観点だけではなく、経営戦略全体を考えていく中の各所で常に知財の要素を考慮すること
  • 投資家の役割は、知財戦略の視点を拓くこと
  • 知的財産の落とし穴に陥らないために、事業計画に知財戦略を落とし込む
  • 投資ラウンドごとに投資家・ベンチャー企業が陥る知的財産の落とし穴がある
  • 投資家がより早い段階で戦略面からの支援を講じることで、落とし穴に陥るのを回避できる
  • 知財専門家との協働を含めて社内外で知財の評価・支援ができる体制・仕組みを構築する

本手引きの作成過程では、多くの投資家や知財専門家からベンチャー企業が陥る落とし穴とその対応事例を収集し、取りまとめを行った。今後は本手引きを活用しながら、投資家と知財専門家がさらに交流を密にして議論を深め、新しい取り組みにつなげていってほしい。また、「ベンチャー投資では、ほかにこんな落とし穴がある」ということがあれば、ぜひ特許庁にもシェアしてほしい。

最後に、本手引きが皆様の知的財産に対する評価・支援の高度化につながり、ベンチャー企業の事業拡大、エコシステムの構築の一助となることを祈念している。

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