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AI編

AI編
AIソフトウェア開発とデータの取扱いに関する留意点

業種や業務、技術カテゴリーなど分野別の知財戦略を専門家にヒアリング。
当該ジャンルの起業・スタートアップに必須の基礎的な知識をお届けします。

テーマ:AI

 スタートアップがAIソフトウェア(学習済みモデル)の開発をする場合、その学習に用いるためにユーザから生データを受領することが少なくありません。また、AIソフトウェアを利用したクラウドサービスを提供する場合にも、ベンダはユーザからデータを受領することがあります。

 このような場合、受領したデータの取扱いが問題になることが少なくありません。具体的には、十分な質または量を持つ学習用データがあれば、良質なAIソフトウェアを生成できる可能性が高まるため、ベンダとしては、これらデータを自らのAIソフトウェアの性能向上に役立てたいと考える一方、ユーザとしては、自らが提供したデータの無限定な利用に難色を示すことがあり、結果、その利害関係が対立することがあります。

 そのため、データの取扱いについて、当事者間で適切な契約を作成することが重要になります。 対象データが、文章・音声・画像・動画などの著作物に該当する場合には、主に著作物ライセンス、すなわち契約が問題になるでしょう。また、たとえばセンシングデータなどの生の観測値を取り扱う場合には人間の創作活動が介在せず、著作権などの知的財産権による保護を受けることが難しい場合もありますが、このようなデータの取り扱いに際しても、契約が重要となります。なお、営業秘密や限定提供データによる保護の可能性もありますが、その保護要件の該当性の判断に際しては、契約の有無及び文言が重要になるでしょう。

 具体的な契約条項を検討する際には、データの取得・保証、利用・保管、第三者提供などの観点からその利用条件(データに関する禁止事項)を設定することになりますが、出発点としては、同じ情報を扱う契約類型としての秘密保持契約が参考になるでしょう。

 たとえば、ベンダがユーザから受領した生データを自社技術の向上や保守で利用したい場合などは、契約上そのような利用について、同意を明示的に取得することが重要です。事後的な契約変更は必ずしも容易ではない場合もあるため、将来的にデータを利活用する可能性があるならば、その利用目的を幅広く設定することが望ましいといえます。

 他方において、あまりにも広範な利用目的を設定するとユーザがその利用を忌避する可能性もあるため、まったく制限のない利用は難しいでしょう。適切なバランスは難しいところですが、事業初期は利用目的を広めに取り、自社のビジネスモデルが固まった段階で、可能な限り早期にユーザに配慮して利用範囲を狭めていくなどの対応も考えられるでしょう。

 特に、ユーザ側に立つようなスタートアップの場合は、自らが提供するデータがその提供目的と比して必要以上に広範でないかを確認したうえで、データを開示するか否かを検討することが大切です。ただし、一度外部に開示したデータに適切なコントロールを及ぼすことは往々にして難しいため、契約があることに安心して無限定にデータを提供するのではなく、外部流出させてはならない重要なデータを提供しないよう、その開示範囲を慎重に検討のうえ、対応する必要があります。

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