文字の大きさ

English
  • IP BASE

イベント告知・レポート

J-Startup hour <STARTUPs×知財戦略 ~IPAS成果報告~>

5月23日にベンチャーカフェ虎ノ門にて、「STARTUPs×知財戦略 ~IPAS成果報告~」と題して、IPAS2018の成果報告会が開催された。

特許庁の目玉ベンチャー支援事業の一つ、”知財アクセラレーションプログラムIPAS”。IPASとはどのようなプログラムなのか、スタートアップはIPASから何を得たのかをテーマに、IPAS2018に参加した株式会社カウリス 代表取締役 島津 敦好氏、デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社 公認会計士 松本 雄大氏、特許庁 企画調査課 菊地 陽一氏、株式会社Publink 代表取締役 栫井 誠一郎氏(モデレータ)がトークセッションを繰り広げた。

まず、特許庁の菊地氏よりIPASの内容とメリットを説明。IPASではスタートアップにビジネスの専門家と知財の専門家のチームを送りこみ、3ヶ月のメンタリングを実施する。ビジネス戦略にあった知財戦略の立案、実施をサポートすることで、スタートアップの成長を加速化させるプログラムだ。昨年度スタートしたばかりのプログラムだが、参加者からは、“自分たちが今実際に悩んでいる課題を解決してくれる”、“事業計画にあった知財戦略を立案できた”と好評を博した。

01.jpg

 デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社の松本氏からは昨年度IPASで得られた成果事例を紹介。技術系スタートアップであっても知財戦略の専門家が社内にいる企業は少ない。知財戦略を立案するには、ビジネス面、技術面、知財法務面の三つの知識が必要になる点でスタートアップにとって難易度が高い。IPASではビジネス専門家と知財専門家をチームとして派遣し、スタートアップと一緒になって知財戦略を考える。そこでは、まず事業性を評価した上で、ビジネスと技術のそれぞれどの領域で競争優位性を築くかについて戦略を立案し、それを知財法務に落とし込んでいく。

特許庁の「IP BASE」のホームページで公開されている2018年度のIPAS成果事例集に、スタートアップのステージごとに陥りやすい課題とその対策、ノウハウがまとめられている。例えば、事業の初期段階では、共同開発のパートナーとの契約で、知財の帰属についての取り決めが十分に行われていないままで研究開発をスタートしている場合がある。

しかし、知財の帰属は共同開発を開始する前に詰めなければいけない条項である。詰めていなかったのであれば、共同開発をその時点でやめるか、あるいは、落としどころを探って契約書に盛り込むようにしないといけない。次は事業をスケールしていく段階の落とし穴。スタートアップは、事業を途中でピボットしながら早いスピードでビジネス展開していく。

そうすると、以前に出願した特許の内容と現在の事業とでずれが生じてしまう場合がある。このときに特許の分割出願という手法を活用する場合がある。一定の条件はあるが、現在の事業内容に合うように特許請求の範囲を請求し直せる。ビジネス・技術・知財法務を理解している専門家がいるからこそ、このような対応ができる。最後に、スタートアップが特許出願直前になってようやく知財専門家に相談するために起きてしまう失敗がある。出願時には学会で発表してしまったり、広告を出してしまっていたり等、自分で既に公表してしまってから知財専門家に相談に行くスタートアップが多い。

このような事態を避けるには、事業戦略を練る段階から知財専門家に入ってもらうのがよい。どう情報を外部に出すか、どのタイミングで特許を出願するかを一緒に考えてくれる。なお、もし特許出願前に公表してしまった場合もリカバーできる場合もあるので、すぐに知財専門家のところに相談してほしいとのことだ。

02.jpg

株式会社カウリス島津氏からは、昨年度IPASに参加して得られた成果を報告。カウリスはネットバンキングやクレジットカードを展開する金融機関をはじめ、幅広い事業者に不正アクセス検知サービスを提供するサイバーセキュリティーのスタートアップ。IDとパスワードだけの認証では不正アクセスを防ぎきれないが、指紋認証やSMS認証など追加認証が増えると、セキュリティコストが上がってしまう。

そこで、独自のパラメーターを基に本人らしさを判定。危険度が高いユーザーだけを検知し、追加認証をするサービスをSaaSで提供している。知財を注視するようになったきっかけはエンジェル投資家から出資の条件として競合企業の特許と抵触しないか確認するようアドバイスを受けたこと。IPASに応募したのも、海外展開を視野に入れるなか、競合企業がもつ国外の特許網を確認したかったからだ。

IPASの成果の一つは、海外関連特許約4000件を対象にパテントマップを整理し、進出予定国に問題となる競合の特許がないことを確認できたこと。島津氏自身、関連する国内特許380件については一ヶ月半かけて全て読み込み、権利の内容を精査し、権利に抵触せずに国内事業開発を進められることを確認した。しかし、海外特許4000件を前に途方にくれかけた頃、IPASメンターのサポートを受けられた。

そして、二つ目の成果は特許庁のスーパー早期審査を利用して事業のキーとなる特許を適時に取得できたこと。資金調達や大手との提携のタイミングで、自社がこの特許をもっていたことが信頼構築につながり、交渉がスムーズに進んだという。

03.jpg

発表に続いて、会場からの質問タイム。

“アプリ開発においては知財をどのように抑えるのが有効か?”との問いに対しては、島津氏が回答。要素を組み合わせてアプリを開発していく場合、スタートアップであればまずは全ての要素を入れた内容で特許出願すること。そこから、分割出願などを使って権利化すべきところを権利取得する。

この方法で、競合相手の製品開発の動きを見ながら、相手を牽制するあるいはクロスライセンスの材料となるような特許を取得することも可能。他企業の特許で周りを押さえられて動きが取れなくなったというスタートアップの話もたまに聞くが、このような状況に陥らないよう、先を見据えた戦略を練らなければいけない。

IT、ソフトウェア系に強い弁理士などに早めに相談することが必要。他方で、他社の特許があったからといってすぐに諦めなくてもよい。相手の特許を迂回する方法はないか、クロスライセンスで応戦できないか、状況を打開する策はあるはずだ。“まず特許を調べて自社の置かれている状況を把握すること。そうすれば打開策が見えてくる”と島津氏はいう。

続いて、“IT系スタートアップが知財を取得する意義は?“との場内からの質問に対しては、まず商標が業界によらず必ず取り組むべき知財、と菊地氏が回答。自分たちの会社名やサービス、商品名が、他人の権利を侵害していないかをまず調べるべき。これを怠ると、せっかく自分たちの知名度が上がった時に名前を変更せねばならずもったいない。

また、他の人が自分たちの名前を模倣しないように商標権を取得することも当然やるべき。商標は他と比べて労力、費用がかからないにも関わらず、事業を危うくするケースが多いので必ず取り組んでほしい。特許についても、会社のフェーズに応じて段々と取り組んでいってほしいとのことだ。

続けて島津氏からもコメント。まずは競合相手を整理することが必要。国内なのか海外なのか、同じスタートアップなのか大手なのか。海外勢であれば対抗策を練ることは必須。

海外勢は、自分たちの事業が成長し賠償金が取れるようになった頃に間違いなく攻撃してくる。逆に事業が大きくなるまでは何もしてこないと想定できるので、対策を練る時間はあるといえる。相手が日本勢であれば訴訟にまで発展するケースは比較的少ない。しかし、マネーフォワードとfreeeの訴訟があり、国内のIT分野の事業でも訴訟に至ることが増えていくのでは、とのことだ。

04.jpg

続けて島津氏からもコメント。まずは競合相手を整理することが必要。国内なのか海外なのか、同じスタートアップなのか大手なのか。海外勢であれば対抗策を練ることは必須。

海外勢は、自分たちの事業が成長し賠償金が取れるようになった頃に間違いなく攻撃してくる。逆に事業が大きくなるまでは何もしてこないと想定できるので、対策を練る時間はあるといえる。相手が日本勢であれば訴訟にまで発展するケースは比較的少ない。しかし、マネーフォワードとfreeeの訴訟があり、国内のIT分野の事業でも訴訟に至ることが増えていくのでは、とのことだ。

05.jpg

最後に、菊地氏より2019年度のIPAS公募を紹介。今年度は参加者数を増やすなど規模を拡大し、また、メンタリング前に知財のプレ調査を実施するなど内容もより充実させたものになっているという。今年度第二期は夏頃募集開始を予定している。知財戦略に関心があるスタートアップはぜひ応募してほしい。

UP