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イベントレポート

J-Startup hour <VB投資家×知財戦略~投資家による知財戦略支援とは~>

8月8日にベンチャーカフェ虎ノ門にて、「VB投資家×知財戦略」と題して、6月に特許庁が公表した、「ベンチャー投資家のための知的財産に対する評価・支援の手引き~よくある知財の落とし穴とその対策~」の紹介及び、投資家による知財戦略支援について、3名の専門家を交えたパネルディスカッションが開催された。

昨今新たなイノベーションを創出する担い手としてベンチャー企業への期待が高まりつつある中、ベンチャー企業を支援するVB投資家の一部において、知財を活用した新たな支援スキームがとられ始めている。そこで、資金調達に知財がどう影響するのか、VCの知財支援はどうあるべきか、それを受けてスタートアップはどうすべきかとった話題を中心に、実際に積極的な知財支援を行っているVB投資家でもあるモバイル・インターネットキャピタル株式会社の元木 新氏、内田・鮫島法律事務所 弁護士・弁理士 高橋 正憲氏、IPAS2019第一期採択企業であるスペースリンク株式会社 代表取締役 阿部 晃城氏、特許庁 企画調査課 菊地 陽一(モデレータ)がトークセッションを繰り広げた。

まず、特許庁の菊地より、投資家による知財戦略支援の必要性と投資家向け手引書について紹介。新しい発明ができた時にやみくもに特許を取るのではなく、ビジネスモデルやどこをオープンorクローズにするのかを考えることも大切であること、海外各国での戦い方、ブランディング、また、共同研究の際の契約や人材面も含めてすべて一人で完璧に実践するのは難しいこと、ここに投資家の視点が入ると、市場やアライアンスも踏まえた支援ができるため、投資家が知財支援に関わっていくことは非常に意味があることなどが語られた。

これよりモバイル・インターネットキャピタル株式会社の元木氏、スペースリンク株式会社の阿部氏、内田・鮫島法律事務所の高橋氏によるパネルディスカッション!の前に簡単な自己紹介。

モバイル・インターネットキャピタル株式会社の元木氏はシリーズAからBを中心にベンチャー投資をしているベンチャーキャピタル。主にIT分野に特化した投資を行っている。

スペースリンク株式会社の阿部氏は、もともと創業者の父が宇宙機器開発の裏でずっと進めていたバッテリーの研究が実を結び、急速充電・絶対燃えない・長寿命の3つの特徴を備えた電池の開発に成功。現在このバッテリー「グリーンキャパシタ」の量産を目指している。

高橋氏が所属する内田・鮫島法律事務所は、代表の鮫島氏が下町ロケットの神谷弁護士のモデル。実際、下町ロケットのような大企業と中小企業の話は非常に多い。高橋氏自身は知財訴訟と知財戦略を半々の割合で業務を行っており、さらに知財戦略の中ではベンチャー企業と大企業が半々。

いよいよここからトークセッション。

まず一つ目は「スタートアップが知財戦略にどう取り組むべきか」というテーマで、知財戦略における昔の失敗例も語っていただいた。

【阿部氏】スタートアップやベンチャーは人的リソースが足りない。また、エンジニアが開発した技術やアイデアをどう知財にするか、という際に、本人が一番技術を把握しており知財もわかっているという自信から、自分で書いた方が早く、良い明細書が書けると思ってしまう傾向があった。しかし、実際にビジネスで使用していくなら明細書をしっかり書ける弁理士先生と出会ってお願いした方が良い。ただし、ただ権利化するだけでは意味がなく、ちゃんとビジネス的な要素を考慮して明細書を書いてくれる弁理士先生が必要。その点、弊社は鮫島先生との出会いがきっかけで会社全体の知財に対する意識が変わり、現在はしっかり取り組めている。

【高橋氏】事務所には知財戦略で上手くいかなくなり、どうしようもない状態になった方がくることが多く、社長が知財を考えているベンチャーというだけで上位層に相当し、知財に対して何も考えていないベンチャーがほとんど。ベンチャーの方は、まずは、知財を考えるきっかけがあるかどうかが重要。考えていないベンチャーは、最後、上場間際で大変な目に遭うことや、無茶な契約をしていてもう変えられない・・・という問題が発生してしまう。また、途中から上手くいった例としては、投資家の方がスタートアップのAラウンドに資金を入れる直前に、この会社の知財はどうか、と仕事の依頼をくれた例。当初、知財の評価は良くなかったがBラウンドに向けて、2~3年間、投資家と一緒に特許戦略、契約戦略を行い、次の投資の時に花開いたという例。個人的には、ベンチャーが知財に目を向けているだけで勝ち組だと思う。

【元木氏】最初は興味を持つということが重要であり、それがないと戦略に話が入れない。何か良い事があるから話を聞いてみようという方向に仕向け、興味を持って取り組んでもらえるようにエサをまくことも必要。また、投資家も、一回投資して終わりではなく、定点観測をしていくことが重要。スタートアップは、視野を広げて自社に取り込んでいく姿勢が必要であり、知財についても、投資家が言うことならスタートアップとしてもやってみようという原動力に影響する。しかし、このような投資家はほとんどいないのが現状。知財に対する意識の高さは、投資家もスタートアップと同じようなレベル。

二つ目は「資金調達は知財にどう影響するのか?」というテーマで、資金調達で活用できた例も含め語っていただいた。

【阿部氏】自社は、これまでのシード・アーリーステージでは資金調達に影響はなかったと感じている。VCにとっては、支援することがひとつの醍醐味だと思っているが、VCが「どんな課題があるのか?」とベンチャーに聞いてくる時は、知財のことについても考えているかどうかを聞かれていると思っている。自社の課題について把握しているのか。一言でもいいから言えることは重要。そうすることで、一緒に課題解決に向けて投資もして頂けると期待している。でもこれからは違う。これまで10億くらいは開発のための調達をしているが、実際に蓄電デバイスの量産をするためには何千億円もの資金調達が必要で、ベンチャーが単独でメーカーになるのは非効率な業界。量産パートナーと連携していくのが、自分たちのやるべきことになる。さらに、大手企業からしたら特許を持っていないベンチャーは怖くて組みたくないという声もあるため、信頼関係を築く上でも、特許を取得することは非常に重要だと感じている。ビジネス的な思考と知財戦略マインドを持っている弁理士、弁護士先生と連携をとって出願をすることがこれから必要だが、権利化するべきかノウハウとして秘匿するかの判断、その管理方法に課題を感じている。そんな中、今回IPASに採択され支援を受けることができるので、とてもありがたい。

【高橋氏】知財は資金調達にとても影響する。資金調達絡みの相談の数がここ数年で急増している。今はベンチャー企業からの依頼だけではなく、投資家からの依頼も増えている。技術ベンチャーは特許を見て投資を検討されると思って良い。投資を受けられなかった例として、コア特許を大学と共同出願してしまった例がある。共有特許にかかる技術は共有特許権者と意思決定の内容・スピードが合致しないと経営に意志が生かせない。この事例では、大学側と意思決定の内容・スピードの平仄が合わず、投資に至らなかった。経営に直結するコア技術は、単独出願を目指すべきであっただろう。

【元木氏】投資家視点で見ると、サービスの競争優位性を定量的に把握できていないというまずい状況がある。極端に言うと、投資家は自分の頭で考えておらず、知財評価を投資家ができるかというとそのレベルに達していない。調達に寄与するかという視点で言うと正直なところ+αくらいの感覚が実態。しかし、知財を取っていないと、その会社にコア技術はないのか、とも思う。

続いて三つ目は「VCによる知財戦略支援で何を期待するか」というテーマで語って頂いた。

【高橋氏】元木氏のような投資家はほとんどいない。知財の支援は特許・ビジネス・契約が一体。投資家に支援してもらうメリットは、将来的なラウンド、その後の量産、サービス化まで投資家の方が引っ張っていってくれる点。投資家はビジネス面でのスケールさせるためのストーリーを描く力が極めて高い。そこに知財の観点があるともっとスムーズにスケールが進むのではないか。

【阿部氏】投資家には出口の視点がある。出口戦略と知財戦略がイコールになっているのが最もコスパが良い知財戦略。出口戦略がしっかりしている方が気づきを与えることがまずは重要。

【元木氏】VCはスタートアップのスピード感に合わせてどう策を打っていくかが重要であり、支援者もスタートアップのスピード感に付いていかなければいかない。2人3脚で息を合わせて進めていくことが求められる。

【高橋氏】支援側としても、スピード感を合わせていくことは日々やっている。また、社内に知財担当の方がいる、知財顧問がいる、というケースも注意を要する場合がある。知財イコール特許と思っている方がかなり多く、実は、特許に加え、契約やビジネスをリンクさせて検討を進めることが重要。

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ここからは会場からの質問受付タイム。

1. 特許を取らずクローズにする部分と特許で明らかにする部分のバランスは?

この質問に対しては、分野による、と高橋氏が回答。ITは1年2年で追いついてしまうため、特許を取ることを進めている。3年隠し切れるなら隠してくださいと言っているが、そのような技術はほとんどない。

2. ベンチャーにとっても投資家にとっても、修羅場に近い状態になっても本当にやり切れるのか?

2つめの質問に対しては、まず元木氏からリスクをどうとるか、と回答。追い込んで投資していかなければならないが、ビジネスリスクのひとつにしかすぎないので、投資する、しないの問題はそれほど大きくない。

阿部氏はやり切るしそのための努力もすると回答。やり切るから投資してください、と言う文脈で投資判断に影響するかはフィットするかしないかの差。
 高橋氏からは法律事務所においては、1ヶ月で何千件のデューデリジェンスが来た時にはコストリターンの関係であると回答。しかし、本当にその数の特許を見なければならないのかというところから始まり、お金をこのくらいかけて弁護士を何人投入して、この期間でという話になり、このあたりの特許はこの辺を見ようというスクリーニングをしてみるという活動をしている。

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