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イベントレポート

J-Startup hour <IP-Techからみたベンチャー企業にとっての知財>

1月23日にベンチャーカフェ虎ノ門にて、「IP-Techからみたベンチャー企業にとっての知財」と題して、弁理士であり起業家のお二人を交えたパネルディスカッションが開催された。

 昨今、知財業務とテクノロジーを掛け合わせたIP-Techという業界が立ち上がってきており、こうしたIP-Tech業界とともに今まで大企業相手に仕事をされていた弁理士先生が少しずつスタートアップの支援に取り組まれている。新たなイノベーションを創出する担い手としてベンチャー企業への期待が高まる中、ベンチャー企業は各ステージごとに何をやるべきか、ベンチャーに必要な知財戦略、またIP-Techとして起業されたきっかけといった話題を中心に、実際に弁理士でありながら起業された、株式会社AI Samurai 代表取締役社長の白坂 一氏、 Cotobox株式会社 代表取締役CEOの五味 和泰氏のお二人を招き、特許庁 企画調査課 小金井 匠がモデレーターとしてトークセッションを繰り広げた。

 まず初めに小金井から特許庁のスタートアップ施策について紹介した。

 特許庁では、スタートアップを対象に1.知財戦略(IPAS) 2.海外展開(JIP) 3.情報提供(IP BASE) 4.スーパー早期審査 5.減免制度という大きく5つの施策を持っている。また、IP BASEでは情報発信はもちろん、会員向け知財勉強会も実施している。その他、ベンチャー企業の知財戦略事例集や投資家向けの手引きや勉強会のレポートも掲載している。

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 続いてAI Samurai白坂氏より自己紹介。

 【白坂氏】国家公務員として防衛大学校(航空要員)を経た後、弁理士としても事務所を創業。特許の検索ツールは約20年間、大きな進化をしていない状況だったため、AIならではの進歩性をジャッジできるシステムを開発することが技術躍進の意味で王道ではないか、と考えサービスを開発した。現在、日米の調査ができるが、今年4月から中国も対応できるようになり、約10秒で特許取得可能性のジャッジが可能。また、明細書を自動で作成するようなシステムも開発中。日本の特許出願を増加させるのが目標。第4回JEITAベンチャー賞やグッドデザイン賞も受賞。

 続いてCotoboxの五味氏より自己紹介。

 【五味氏】AIを使った知財プロセスの自動化を目指し、現在は商標のサービスに特化しサービスを提供している。弁理士資格を持ちながら、2016年2月にCotoboxを設立し、2017年11月にサービスを公開した。商標の調査、出願依頼、管理サービスを提供しており、「人と知財を結ぶ」というミッションを掲げてサービスを開発している。知財はビジネスにおいて重要な要素だが、知財をうまく活用できているのは大企業など一部の企業に限られている。そこで、誰もが簡単に知財にアクセスできる・取扱える世界を実現したい、という想いからこのようなサービスを開発した。昨年には、ロゴ商標検索も対応可能になった。

 商標制度は知財の中でも最もハードルが低いと思っているため、ビジネスにかかわる全ての人にもっと使ってほしい。しかし、実際に商標の出願件数は過去10年増加しているものの、商標制度を利用している会社は非常に少ない。その背景には、そもそも制度が分かりにくい、手続きが複雑、外部の専門家にお願いすると高額などの問題があり、商標権取得の優先順位が下がってしまっている、とのこと。

 ~簡単に商標の検索方法の御紹介~
 事業部の担当者自ら検索して出願依頼できるため、最短1日で出願まで至り、費用も抑えられる。また、自動化により弁理士自身の報酬は下げずに、事務所の固定費を下げて安さを実現している。

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(左から株式会社AI Samurai 代表取締役社長の白坂氏、Cotobox株式会社 代表取締役CEOの五味氏)

続いてここからはパネルディスカッション。

 本日のトピックスは、①事業計画と知財戦略、②これからのスタートアップ×知財戦略ということで、知財業界で起業をされているお2人ならではの御意見を頂いた。

 まずは①事業計画と知財戦略。各ステージごとに何をやるべきかについてそれぞれ特許、商標のシステムを提供しているお二人の話を伺った。

 【白坂氏】最近のスタートアップの事業計画の遂行において、資金調達をするかしないか重要な判断となります。開発系スタートアップなら、出資を受けないとなると会社を黒字化させるか融資を探すことが必要です。仮に投資を受ける場合はその投資ラウンドに合わせた知的財産戦略を考えた方が良いと考えます。シリーズAの段階では、最初の日本の特許を大事にしっかり内容を練って、出願すべき。海外を検討しているなら、PCT出願をするのが良いと思います。個人的にはスタートアップの海外への直接出願はあまりオススメしていないです。理由は、100万~200万円すぐに費用がかかってしまい、本当にその投資分が回収できるのかという疑問があるからです。自身も富士フイルムで勤務していましたが、大企業の何件も出願をしていても海外特許による特許活用の費用対効果は難しい印象を持っています。スタートアップにとって、シリーズA~Bの段階までは、日本の特許を的確にとりつつも、チャンスがあればPCT出願で海外に1~2件出すという知財戦略の方がコスト的な面で事業を加速させる意味でも良いと思っています。もちろん、バイオ分野などシリーズAから特許出願を加速させないといけない技術分野もあるかと思います。

 【五味氏】初期段階やアーリーステージでは、金銭的余裕がないため、複数の特許や商標出願をすることは難しいですが、例えば自治体の助成金制度を有効活用し、弁理士費用の負担を減らすのはひとつの手です。またアーリーステージであれば後から問題を起こさないためにも商標(会社名やサービス名)は確実に取得しておくべきです。特許については、サービスがピボットする可能性がある場合や、コア技術やユーザーニーズが探っている段階であれば、コスト面も考えてあえて特許出願しなくても良いと思います。専門家に相談しながら取得する・しないの判断を。

 【白坂氏】前向きに言うと、IT分野の傾向として、発明者の方の最初の特許出願は一番良い出願ということが多い。お金が無くても1件目の特許出願は気合いを入れるべし!

 【小金井】スタートアップといえども、やはりビジネスなのでお金との関係はあり、なんでもかんでも出願すれば良いというものではないですね。

続いて、ベンチャーあるある知財の失敗というところで、回収に至るまでのタイムスパンや上場、M&Aという話も含め、知財の失敗事例について伺った。

 【白坂氏】投資家との関係で言うと、株主である投資家と社長の関係は時期によって大きな変化があります。よく、M&Aをすると成功したね!と言う方がいるが、投資家がM&Aの費用をなるべく取ろうとした場合は、実は創業者にお金があまり入っていないM&Aもよくあります。投資家との関係は入り口と中間期と出口でけっこう変化します。場合によっては裁判に発展するケースも・・・。私も残高がなくなりそうになった時に、投資を継続してもらえなかった経験もありましたが、特許出願をしていたことで新たな投資家がでてきました。投資家との関係は、ステージによって良い関係であったり悪い関係になったり振り子のように関係性が変化するんだと思います。そういった時に知財を武器にして、事業を加速させつつも、追加の資金調達や株主と良い意味での緊張関係を構築するのがよいのではないでしょうか。お金がなくても、知財という財産をもって戦える、自己実現を遂行するシチュエーションを作ることは、経営者としても大切だと思います。

 【五味氏】事例の1つとしては、商標出願前にプレスリリースしてしまったということがありました。その社長は知財の知識はあったので、早めに商標出願をと考えていたようです。しかし実際には、リリースしてから2ヶ月後に出願依頼がありました。そのとき、Cotoboxで検索してみると他社が先に同一商標を出願していました。このようにほんの数ヶ月程度の違いで他社に出願されてしまう事例が多くあります。また別の事例として、同じ日に同じ名前が出願されたことが過去2年の間で2回もありました。

 【白坂氏】商標は同日に同じ出願が出るとくじ引き大会になるんですよね。笑

 【五味氏】意外と、近い名前や完全に一致する名前が短い期間で複数件も出されることが結構あります。特にスタートアップ界隈では、サービスを連想させる動詞などの品詞をそのままサービス名にしたり、AI、ドローン、DXなどの新規の技術や概念カテゴリーを含むネーミングにしたり、どうしても発想が似てしまう。そのため、ほんの1〜2ヶ月で同じような商標が出願され、被ってしまうことがあります。他社に先に出願されている場合には、弁理士が商標を変えるようアドバイスしています。

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 【小金井】どうしても知財は早い者勝ちのようなところがありますが、商標はアイデアレベルからすぐに出願できるものも多いため、特に気を付けたいところですね。

 また、お二人はもともと弁理士としての仕事をされていたが、IP-Techという業界において起業されたきっかけは何か。

 【白坂氏】2011年の4月に富士フイルムを辞めて独立し、特許事務所の所長になりました。防衛大を卒業している自衛隊が震災などでがんばっている姿を感じ、日本の知財力向上で貢献したいと思い、独立をしました。現在もそうですが、日本の特許業界は約85%が大企業出願で、残り15%が中小企業でその構造はいつか変化していくと思っていました。中小企業の知的財産をサポートしつつ、大企業が米国訴訟に巻き込まれているのをみて、米国訴訟支援会社の上場企業のフロンテオの関連会社の社長にさせてもらい、フロンテオのアメリカでのナスダック上場参加の経験もさせてもらいました。当時、韓国政府のKIPA(韓国発明振興協会)が、アメリカと韓国の特許を分析するソフトウェアを作っていました。韓国では、特許を購入してライセンス交渉を行うNPE組織も運営され、そこでも特許のデータ分析は進んでいました。日本もコンピューターで分析して良い特許を見つけたり、良い発明を評価したりすることができれば良いという想いがきっかけとなりました。

 【五味氏】弁理士を10年やっていましたが、根っからの安定志向のため、特許事務所を独立開業することは当時考えていませんでした。でも、アメリカのロースクールへの留学がきっかけになりました。留学先でリーガルテックの会社やスタートアップのコミュニティがいくつかあり、そこに参加しました。参加した理由としては、法律×テクノロジーであれば特許や技術の話題になるし、英語が苦手であっても、コミュニケーションが取りやすいのではという思いがあったから。いつの間にか、自分のアイデアを英語でピッチするようになり、どんどんスタートアップのコミュニティに入り浸りました。そこで、リーガルテックの流れが日本に絶対くるなと感じたのがポイントであり、弁理士である自分が、今まで感じていた課題を解決したいと思った領域が商標でした。商標は高額であるというイメージがあり、弁理士が提供した価値の対価がなかなか依頼者に伝わらない。一方で、弁理士が1時間以内で作業できる案件があるのも事実です。つまり、弁理士が個々にカスタマイズされた基準でサービス提供しており、その内容が不透明という現状があります。このようなサービス自体に無駄が含まれている可能性が大きい状態で、中小や個人事業者は納得してお金を払い、その体験が満足できるのかという疑問がありました。そこで、今まで既存サービス(弁理士)にアクセスできないセクターに対して、簡単・便利・リーズナブル、そして革新的な代替サービスがあれば、顧客体験をグッと上げることができると考えました。その結果、小さい事業者も知財の面で勇気づけることもでき、多くの人の知財リテラシーが向上すれば、知財業界はまだまだ盛り上がるはず。

 【小金井】今、お二人は実際にベンチャー企業という立場で活動されていらっしゃいますが、ベンチャー企業の中では知財の重要性を知りながら、何から始めれば良いかわからないという方も多い。これからのベンチャー企業はどう知財戦略に取り組めば良いでしょうか。

 【白坂氏】ベンチャー企業にとって特許と商標どちらが大事かというと商標。商標を取られてしまうと結構面倒で、商標をしっかり取っていないと致命傷になります。裁判の勝ち負けも商標はわかりやすいため最低限商標は取っていただきたい。その際はぜひCotoboxを!また、特許については最初の特許が重要。とくにIT系。最初の特許を特に重要視して、かついろいろな事を書いて、20年後の未来をイメージする。特許は実製品だけではなく、将来のアイデアも権利化できるという観点から、スタートアップは自分のリソースをイメージしながら特許の内容を考えていただきたいです。
 【小金井】たしかに、今後の方針としてアイデアベースでも出願を検討するのは良いですね。

 【五味氏】白坂さんに1つ質問したいのですが、白坂さんの会社名とサービス名を変えた経緯は何だったんですか?

 【白坂氏】もともとGOLD IPという会社名でしたが、展示会などではインターネットプロトコルのIPと勘違いされました。なかなか知的財産=IPというのが特許業界以外では分からない方も多い。また、GOLDと付いていると金銭主義者と思われるのではないかという懸念も。笑 弁理士などの士業はサムライ業といわれることも多いため、日本独自のAIでサムライ業に変革をという想いから、AI Samuraiという名前にしました。

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 【五味氏】その時に商標登録にあたり大変ではありませんでしたか?

 【白坂氏】実はインターネットで見てみるとAI Samuraiという名前と類似したものはいくつか存在します。特許は新しくないと権利を取れないが、商標は新しくなくても正当な権利として取得できます。GOLD IP時代にAI Samuraiという名前が良いなと思ったのですが、似た名前があったため、AI Samuraiの出願だけしておいて、仮に取れたら自己のブランドとして保護するという知財の戦略を選択しました。

 【五味氏】このようにネーミングを考えた時に、先に商標出願しておくというのが重要ですね。初期費用は数万円かかってしまうが、知財としてまず何をやるべきかという問いに対しては商標と答えます。特許に関しては、ベンチャーの想いをわかってくれる弁理士先生が私の隣にいますので、ぜひ白坂さんに御相談を。

 ~ここからは質問タイム!参加者からの質問に回答した~
 
 質問①
 Cotoboxを通じて商標登録ができるのは日本の商標だけか?
 

【五味氏】現状、受け付けているのは日本の商標のみです。しかし、提携弁理士がいるため、出願・登録したものは、そこからの外国出願は可能です。またシステム開発中ですが、今年中には画面上からでも外国の出願ができるようにする予定です。


 質問②
 なぜ香港にオフィスを作ったのか?(五味氏への質問)
 

【五味氏】2019年の春まで香港のアクセラレーションプログラムに参加しており、そのコネクションで香港のJETRO、香港政府系のスタートアップ支援機関や会社、深センのスタートアップと交流がありました。その時に、会社を作ってはどうか?という話になり、会社を設立したという経緯があります。まだリソースが足りておらず本格活動していないですが、今年はその会社を有効活用していきたいです。


 質問③
 クレームチャートの比較は○△×で表現されるのか

【白坂氏】クレームチャートという発明と文献の比較の際に、あっているかどうか、○△×で専門家の方は良くそれで付けますが、それだと最初全部△になってしまうため、クレームチャートにパーセンテージを付けて表現をしました。


 質問④
 AIということで学習させるデータが必要だと思うが拒絶理由通知も含んでいるのか?
 

 【白坂氏】拒絶理由通知そのものは学習対象から外しています。文字単位や文章単位で関係ある(GOOD)・なし(BAD)を付けると、学習効果が高いです。人間参画型のAIシステムが流行っていますが、文献単位でGOOD・BADをつけても学習効果は浅く、発明の構成要件ごとに、GOOD・BADを付けることで、どんどんAIの頭が良くなっていくしくみとなるように努力しています。


 ~特許庁から最後に一言~

【小金井】IP-Tech、弁理士を効率的に使って、必要十分な知財を取得していただき、最終的にスタートアップが成長していくことを願っています。



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