イベント告知・レポート
VCへの知財専門家派遣プログラム 公募説明会・勉強会第2回 ~スタートアップの成長を知財戦略で加速~ イベントレポート

特許庁スタートアップ支援班は2025年6月9日、「VC-IPAS(ベンチャーキャピタルへの知財専門家派遣プログラム)」に関する勉強会の第2回をオンラインで開催した。第1回に続き、VC・CVC関係者を中心に多数の参加があり、知財DDや契約チェック、ベンチマーク分析など、より実務に即した専門講義が行われた。
医薬・バイオ分野に特化した視点や、支援者が押さえておくべき契約実務の要点も網羅され、スタートアップ支援における知財の可能性を多角的に学ぶ機会となった。
イベントのタイムテーブル
13:00~13:02 開会挨拶
13:02~13:17 事業の説明
13:17~13:47 講義① VCが押さえておきたい知財DDのポイント (ミノル国際特許事務所 安彦 元氏)
13:47~14:17 講義② ベンチマーク分析の実施ポイント (インハウスハブ東京法律事務所 西田聡子氏)
14:17~14:47 講義③ 医薬・バイオ分野における知財の要点 (大澤国際特許外国法事務弁護士事務所 大澤健一氏)
14:47~15:17 講義④ スタートアップ支援における契約書チェックの観点 (西村あさひ法律事務所 松下 外氏)
15:17 アンケートのお願い/プログラム終了
冒頭では、特許庁 総務部企画調査課スタートアップ支援班長の関口英樹氏が登壇し、参加者への感謝を述べたうえで、VC-IPASプログラムの趣旨と本勉強会の位置づけを説明した。
関口氏は、VCが出資のみならず、スタートアップの成長や企業価値向上に向けて幅広い支援を行っていることに触れ、「成長支援のツールの一つとして知財を加える道しるべとなることを目指し、令和5年度からVC-IPASを実施してきた」 と述べた。特に技術系スタートアップでは、コア技術や知財の活用が事業発展の鍵となる一方で、本業に忙しい中で適切な知財戦略を策定・遂行することは容易ではないと指摘した。
同プログラムでは、特許庁が過去に実施した「知財アクセラプログラム(IPAS)」で培ったノウハウを活かし、VCと知財専門家が連携して、支援先スタートアップのへの知財サポート、デュー・デリジェンス等の知財業務への活用、スキームの導入に向けた支援をしているという。
今回は、採択VCが初期に受ける講義を先行して体験できる構成としており、「本日の勉強会で知財を活用した支援のイメージをつかみ、知財を強みとするVCを目指してほしい」 と呼びかけた。
講義①:VCが押さえておきたい知財DDのポイント
(ミノル国際特許事務所 安彦 元氏)
1つ目の講義には、ミノル国際特許事務所所長、弁護士の安彦 元氏が登壇した。スタートアップへの投資判断において、VCが重視する「知財デューデリジェンス(DD)」について、実務の現場での経験を踏まえた解説が行われた。企業のステージや技術分野、ビジネスモデルによって着眼点が異なる点を指摘しつつ、知財の保有状況や係争リスク、他社特許との関係性といった基本的なチェック項目が紹介された。
加えて、限られた時間や情報の中で、どのように効率的かつ実効的なDDを行うべきかという実践的な視点から、支援者としての立ち位置や留意点についても言及があった。
講義②:先進企業の知財活動を分析するベンチマーク分析実施のポイント
(インハウスハブ東京法律事務所 西田 聡子氏)
2つ目の講義には、インハウスハブ東京法律事務所のパートナー弁理士であり、工学博士、AIPE認定 知的財産アナリスト(特許)でもある西田聡子氏が登壇。企業の知財活動を客観的に評価する手法として注目される「ベンチマーク分析」について、理論と実務の双方に通じた立場から解説を行った。
講義では、特許情報を基にしたベンチマークの基本的な進め方に加え、業界構造や技術領域ごとの特性を踏まえた分析設計のポイントが紹介された。分析結果の活用場面としては、競合比較や技術トレンドの把握に加え、スタートアップへの助言・支援の現場での応用可能性が示された。支援者としてベンチマークを活用する際の注意点や、データの扱いにおける解釈の幅についても具体的に言及され、参加者の関心を集めた。
講義③:医薬・バイオ系分野においてキャピタリストが押さえておくべき知財のポイント
(大澤国際特許外国法事務弁護士事務所 大澤 健一氏)
3つ目の講義には、大澤国際特許外国法事務弁理士事務所の所長であり、米国(ニューヨーク州およびDC)の外国法事務弁護士資格を有する大澤健一氏が登壇。自身の実務経験を踏まえ、医薬・バイオ系スタートアップ特有の知財戦略と、投資判断における注目ポイントについて講義が行われた。
この分野においては、規制や臨床といった外的要因の影響が大きく、特許だけでは企業の競争力を測りきれないという課題がある。そうした中で、どのような知財ポートフォリオを構築すべきか、またキャピタリストはどのように評価すべきかについて、海外事例なども交えながら整理がなされた。研究開発の初期段階にある企業の価値をどう見極めるかという点でも、示唆に富んだ内容であった。
講義④:スタートアップ支援においてキャピタリストが押えるべき契約書チェックのポイント
(西村あさひ法律事務所 松下 外氏)
最後の講義には、西村あさひ法律事務所のパートナー弁護士であり、ニューヨーク州弁護士でもある松下 外氏が登壇した。スタートアップとの協業や投資において不可避となる契約書のチェックについて、実務者の視点から具体的な論点整理がなされた。
講義では、特に将来的なM&Aや資金調達を見据えた契約書の位置づけに触れ、初期の段階から契約条項に注意を払うべき重要性が強調された。表明保証や知財の帰属、競業避止条項など、支援者として見落としがちなポイントについても実例を交えながら解説された。契約書は単なる形式的な文書ではなく、スタートアップの成長を阻むリスクの源泉となり得ることから、その本質を見抜く視点の重要性が示された。
VC-IPAS関連情報
▼VC-IPASについて▼
https://ipbase.go.jp/for-vc/
▼便利な参考資料はこちら▼
ベンチャーキャピタル(VC)の知財業務メニューブック〜スタートアップを成功に導くVC〜(PDF:1,552KB)
https://www.jpo.go.jp/support/startup/document/vc-ipas-2025/menu-book.pdf
キャピタリストのための知財トピック実践チュートリアルースタートアップを成功に導く知財専門家活用術―(PDF:3,370KB)
https://www.jpo.go.jp/support/startup/document/vc-ipas-2025/tutorial.pdf