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イベント告知・レポート

VCへの知財専門家派遣プログラム 公募説明会・勉強会第1回 ~スタートアップの成長を知財戦略で加速~ イベントレポート

特許庁スタートアップ支援班は2025年5月23日、「VC-IPAS(ベンチャーキャピタルへの知財専門家派遣プログラム)」に関する公募説明会・勉強会を開催した。会場は東京・虎ノ門、オンラインとのハイブリッド形式で実施され、VC・CVC関係者ら約100名が参加した。
プログラム概要の紹介に加え、知財専門家による講演や、VCから見た支援効果の共有など、現場に即した知見が数多く披露された。

イベントのタイムテーブル
10:00~10:05 開会挨拶(特許庁)
10:05~10:20 VC-IPASの事業概要(有限責任監査法人トーマツ)
10:20~10:50 セミナー「スタートアップにおける知財の必要性」
10:50~11:15 パネルディスカッション(VC×知財専門家)
11:15~12:00 募集要項・留意事項の説明/第2回勉強会案内

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開会にあたり、特許庁 総務部企画調査課スタートアップ支援班長の関口英樹氏が登壇。VC-IPASは、スタートアップへの成長支援に「知財」の視点を加える制度として、2018年度より実施されてきた「IPAS」の知見を活かし設計されたと紹介した。

20250523_02.jpg特許庁総務部企画調査課 スタートアップ支援班長 関口英樹氏

知財戦略は技術系スタートアップにとって成長の鍵となるが、創業初期に十分な対応をとるのは難しい。そうした課題に対し、ビジネスと知財の両専門家がチームを組むことで、事業戦略と一体化した支援が可能になるのが本制度の特長だ。

本年度は昨年に続き、半年間の派遣を基本とする「半年コース」に加えて、短期間・スポット的な支援に対応する「短期コース」も新設し、より柔軟に活用しやすくなった点も紹介された。関口氏は、「知財を支援の強みに変える機会として、多くのVCにご活用いただきたい」と呼びかけた。

知財専門家による講演「スタートアップにおける知財の必要性」by弁理士法人瑛彩知的財産事務所 竹本如洋弁理士

「スタートアップにおける知財の必要性」と題し、弁理士法人瑛彩知的財産事務所の竹本如洋弁理士が講演を行った。

20250523_03.jpg弁理士法人瑛彩知的財産事務所の竹本如洋弁理士

竹本氏は、まず日本国内の特許出願件数が減少傾向にある中で、スタートアップによる出願は増加している点に言及し、スタートアップと知財の親和性の高さを強調した。

知財の取得は、製品やサービスの差別化にとどまらず、ライセンス交渉やM&Aにおける交渉材料としても有効に機能する。とくに近年では、PCT出願を戦略的に活用し、知財そのものが買収対象となることを想定した動きも見られるという。

また、特許は一度出願して終わるものではなく、事業の進展に応じて請求項を修正し、価値を高めていくことができる「育てる資産」であると述べた。日々の業務の中で「これは特許になるのではないか」という視点を持つことが、知財を起点とした競争優位の構築につながるとした。

そのほか講演では、知財が資金調達や企業評価に与える影響、米国企業における無形資産の比率上昇なども取り上げられ、スタートアップ支援に関わる投資家にとっても示唆に富む内容となった。

パネルディスカッションで見えてきたVC-IPASを通じた知財支援のリアル

パネルディスカッションには、弁理士法人瑛彩知的財産事務所の竹本如洋弁理士と、2024年度にVC-IPASの支援を受けた株式会社ディープコア Executive Directorの左 英樹氏が登壇。VCと知財専門家それぞれの立場から、スタートアップ支援における知財の役割や、支援をより効果的にする連携のあり方について議論が交わされた。

20250523_04.jpg株式会社ディープコア Executive Directorの左 英樹氏

左氏はまず、ディープコアが昨年度VC-IPASの支援を受けた経験を振り返り、「正直、あまり他のVCに教えたくないほど素晴らしいプログラム」と高く評価。実際の支援としては、投資先スタートアップに対して、侵害リスクの洗い出しやクロスライセンス戦略の助言、知財活用による競争優位性の確保などを受けたと説明した。

特に印象的だったのは、知財リスクが顕在化した際のダメージがスタートアップにとって致命的であるという点だ。限られた資金で事業を進める中、訴訟リスクなどが発生すればランウェイを失いかねない。そのため、事前の侵害調査やセカンドオピニオン取得の重要性が強調された。

また、特許の分割出願などによって知財活用を「時間稼ぎの手段」として使うことで、結果的に競合他社への牽制にもなり得るといった、知財の戦略的な使い方も支援の中で実感できたという。

ディープコアでは、支援内容を単発の対応に終わらせず、知見をチェックリストとして可視化し、社内で共有・活用している。新規投資時のデューデリジェンスよりも、既存投資先の支援を中心にこのリストを使い、投資担当者が再現性を持って知財支援を行える仕組みを構築したという。

これにより、知財の観点が個人に属するのではなく、組織として活用できるアセットへと昇華されつつある。左氏は「ファンド内に知財の知見がたまる構造ができたことは非常に大きい」と述べた。

"知財のお医者さん"である専門家との連携を強めるには?

竹本氏は、昨年度VC-IPASの支援において、VCの投資検討会議に合わせて、候補スタートアップの知財リスクや市場性を1枚の資料に整理し提供していたと説明。これにより、投資判断に知財の視点を加えることが可能になったという。

また、個別のスタートアップ支援だけでなく、VC内で発生する知財に関する日常的な疑問に応える役割も担っていた。例えば「ドローン領域における特許の傾向は?」「この技術分野での差別化の余地は?」といった業界横断的な問いに対応することで、VCの知財リテラシー向上にも貢献していたという。

今後のVC-IPAS活用に向けて、左氏は「新規投資検討段階でのデューデリジェンスにも支援の幅を広げていきたい」と語った。

一方、竹本氏は「知財は課題の種類が多いため、支援を求める側が“どこに困っているのか”を明確にすることで、専門家の力をより引き出せる」と強調。医療に例え、「“とにかく健康にしたい”より、“お腹が痛い”と伝えるほうが適切な治療につながる」と語り、VCと知財専門家が互いにリソースを理解し合うことの重要性を指摘した。

VC-IPAS関連情報

▼講演のアーカイブ動画公開中▼

▼VC-IPASについて▼
https://www.jpo.go.jp/support/startup/vc-ipas-2025.html
2025年度募集要項・応募フォームのダウンロード(ZIPファイル)
https://www.jpo.go.jp/support/startup/document/vc-ipas-2025/obo_vc-ipas-2025.zip

▼アクセラレーター等向け知財専門家短期派遣プログラム▼
https://www.jpo.go.jp/support/startup/vc-ipas-accel-2025.html
募集要項・応募フォームのダウンロード(ZIPファイル)
https://www.jpo.go.jp/support/startup/document/vc-ipas-accel-2025/obo_vc-ipas-accel-2025.zip


▼便利な参考資料はこちら▼
ベンチャーキャピタル(VC)の知財業務メニューブック〜スタートアップを成功に導くVC〜(PDF:1,552KB)
https://www.jpo.go.jp/support/startup/document/vc-ipas-2025/menu-book.pdf
キャピタリストのための知財トピック実践チュートリアルースタートアップを成功に導く知財専門家活用術―(PDF:3,370KB)
https://www.jpo.go.jp/support/startup/document/vc-ipas-2025/tutorial.pdf

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