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イベント告知・レポート

オープンイノベーション成功の鍵を探る〜IP BASEセッションin CEATEC 2025レポート〜

FY2025 レポート オープンイノベーション
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スタートアップ向け知財戦略ポータルサイト「IP BASE」を運営する特許庁は、2025年10月16日に幕張メッセで開催された「CEATEC 2025」にて、「【特許庁 IP BASE】オープンイノベーション成功の鍵を探る」と題したセッションを行った。

大企業とスタートアップによるオープンイノベーションはビジネス展開に新たな可能性をもたらす一方、企業文化や行動原理の違いに起因する障壁も多く、良い協業関係を構築するためには多くの課題が存在する。本セッションではパネリストとして、KDDI ∞ Laboを推進する川名弘志氏(KDDI株式会社)と、起業家であり知財マッチングサービスを運営する渡部一成氏(株式会社白紙とロック)をお迎えし、オープンイノベーションにおける成功の鍵はどこにあるのか、それぞれの立場から幅広くお話しを伺った。

オープンイノベーションの現場で" 使える "無料ツールを紹介

パネルディスカッションに先立ち、セッション冒頭には特許庁 総務部 企画調査課 活用企画班 活用企画係長の山口 大氏が登壇。「今日紹介するものは全て、特許庁オープンイノベーションポータルサイトから無料でダウンロード、見ることが出来るので是非活用してほしい」として、特許庁が現在注力しているオープンイノベーション施策を3つ紹介した。

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1. オープンイノベーション促進のためのモデル契約書
2020年、公正取引委員会や未来投資会議から「スタートアップと大企業の契約の適正化を図るべき」という検討結果が出されたことを踏まえ政府が取り組んだ施策が、本モデル契約書だ。ゴールドスタンダードではなく、契約時の“新たな選択肢”を提示するものとしてつくられており、契約する両者どちらかに利が偏ることのないよう、事業価値の総和を最大化することを基本理念としている。解説パンフレットでは、実際に利用する場合にチェックするポイント、内容変更する場合のケーススタディやオプション条項も書かれている。

2. オープンイノベーション促進のためのマナーブック
オープンイノベーションに取り組む事業会社、スタートアップ、大学が、良好なパートナーシップを構築するために意識すべきポイントを「マナー」と表現して紹介した内容となっている。契約段階に至る以前の、交渉段階や連携検討段階において、コミュニケーションでお困りの担当者に活用してほしいと考えてつくられた。

3. ステークホルダー全員参加型 グロース戦略のポイント、M&A を活用してディープテック・スタートアップを発展させる!
スタートアップのEXITの1つであるM&Aについて、スタートアップを取り巻くエコシステム全体の発展や循環を加速させるものとした上で、各プレイヤーや支援者に求められる考え方・役割、またグロース戦略において意識すべきポイント等を取りまとめたパンフレット。2025年4月に公表し、同時にOIモデル契約書もアップデートを行っている。

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大企業、スタートアップ、双方から見たオープンイノベーションのリアル

続くパネルディスカッションでは、KDDI株式会社 コーポレート統括本部プロフェッショナル(知的財産戦略担当)弁理士 川名弘志氏、株式会社白紙とロック 代表取締役 CEO 渡部一成氏がパネリストとして登壇。特許庁 総務部 企画調査課 スタートアップ支援班長 湊 和也氏がモデレーターを務めた。

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KDDI株式会社の川名氏は、CFO配下の部署で全社的な知財活動推進を行っている。スタートアップと大企業のオープンイノベーション支援についても長く取り組みを続けており、これが評価され第5回IP BASE AWARDスタートアップ支援者部門グランプリに輝いた(※IP BASE AWARD受賞インタビューはこちら)。携帯電話、また通信事業者としての印象が強い同社ではあるが、成長戦略の要として、国内スタートアップとの新規事業共創を積極的に行ってきた。このキーとなっているのが、オープンイノベーションだという。

KDDIの本質的な強みは、固定電話時代から培ってきた通信事業者として抱える携帯電話契約数7000万件の顧客アカウントや通信基盤、また多領域に渡るパートナーとの繋がり、また自社ブラン ドへの信頼という無形資産だ。川名氏は自社のオープンイノベーションについて「協業するスタートアップの方々は通信以外の領域の専門家やメーカー。彼らとの協業の際には、先方の技術力や開発力にKDDIの通信技術や基盤、そしてこれら無形資産の強みを生かすことで、サービス企画、新規事業の開発、提供をすることでエコシステムをまわすというスタイル」と語った。

連続起業家であり、株式会社白紙とロック代表取締役CEOをつとめる渡部氏は、取得特許の売却、事業売却・譲渡やM&AでのEXIT経験をもとに、現在はオープンイノベーションのサポート、IPマーケットの運営を行っている。知的財産の活用とビジネス化を促進する目的を掲げたこのプラットフォームには、農業をはじめとする一次産業からサービス業、製造業、情報通信、エンタメ、建設、薬、素材など、多くの企業が自社特許を登録している。

事業売却・譲渡やM&Aという節目で知財を活用してきた経験を持つ渡部氏ではあるが、多くの権利者の目的を間近に見ることで「権利者の、知財に対する期待は様々」と語る。「特許を売却したい、ライセンスでマネタイズしたい、という目的は分かりやすいが、その他にも『この技術を提供するので、新しいことを何かやりましょう』というところに期待してIPマーケットに登録している会社も多くある。ここがまさに、今回テーマとなっているオープンイノベーションと合致しているのでは」とコメントした。

オープンイノベーションのスタートには、双方の目線合わせ、対等なパートナーであるという認識が重要

パネルディスカッション1つ目のテーマ「大企業とスタートアップのオープンイノベーションにおける失敗事例」では、まず起業家側・スタートアップ視点からの「失敗」について聞こうと、特許庁・湊氏より渡部氏にマイクが渡った。渡辺氏は「失敗事例の話をする前に、今日この場において、なにをもって“成功”とするかの認識合わせをしたい」として、1.大きいイノベーションを起こして目に見える成果が出た、2.両社が取り組みをスタートさせた、という2つの選択肢を提示。登壇者間で「2.取り組みスタート」を“成功”とすることに決まった。

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株式会社白紙とロック 代表取締役 CEO 渡部一成氏

渡部氏は、スタートアップと大手企業とのボトルネックとなる課題について「スタートアップと大手企業では、スピード感の違いが大きくある。スタートアップは資本・資金がなく、物事を進めるのに時間をかけるということが、難しい。一方で大手企業は、良い悪いではなく、プロセスやセキュリティ等々、スタートを切るのに時間がすごくかかる。大企業出身者がスタートアップ側にいれば目線合わせもしやすいが、これが理由で空中分解することが多いのでは」と実体験を交えながら語った。

オープンイノベーションのスタートが困難になる理由について、川名氏からは「スタートアップは大企業から見ると、下請けなのかパートナーなのか線引きできないというのがある。下請けとパートナーでは、リスクの取り方も違ってくる」「スタートアップとどのような契約を結びたいのか、現場部門と法務、知財部門の意図が食い違うと難しくなる」と、大企業側の目線から課題が共有された。

モデレーターの湊氏が「スタートアップが、下請けではなくパートナーとなるためには、どうしたら良いと考えますか」と聞くと、川名氏は「交渉力をもつこと。大企業が欲しがるような技術を持つ、エビデンスを示すことだと思う。説得力あるアピールをすることで、対等な交渉をできる相手であると示すことができる」と、自身の考えを述べた。

オープンイノベーションにおける役割分担、目線合わせ、その上での出口戦略

2つ目のテーマは「オープンイノベーションにおいて、大企業とスタートアップそれぞれが抱える問題」。話題提供を求められた川名氏は、自身が関わる大企業とスタートアップが出会うマッチングの場「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)」の紹介から、マッチングの具体的な成立率や、大企業側がマッチング成立において重要視する視点について共有した。

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KDDI株式会社 コーポレート統括本部プロフェッショナル(知的財産戦略担当)弁理士 川名弘志氏

「KDDI ∞ Laboは、大手企業100社位が集まり、提供できる資産/アセットと自社の課題を提示して、解決してくれるスタートアップとのマッチングを行うプログラムである。毎年スタートアップ数百社がエントリーし、年間数百件ものマッチングが行われている。このうちビジネスになるものは決して多くないが、より拡大させていくにはこうしたマッチングの機会を数多くつくることが大事だと思う」(川名氏)

オープンイノベーションに大企業が求めるポイントとして、効率よく自分たちのパートナーを見つけ、素早くスタートアップ側と契約等のスタートラインを切る、という2点が大きくあると川名氏は語る。またPoC等の実施フェーズに入ってからする、ビジネスのスケール規模感や将来性を見据えた目線合わせは、両社が息の長いビジネスにしていくために非常に重要だと強調した。

渡辺氏が目標地点を見据えた話し合いについて「意外に、スタートアップは長期的に目標地点を見ているが、大手企業は短距離で利益をとっていきたいと思っていたりして、自分も驚いたことがある」とコメントすると、川名氏は「(大企業の)経営層は年単位の長期目線だが、担当者層だと上期といった短期間目線になりがちかもしれない。会社の体質もあると思う」と語り、KDDIの場合は、出資後も数年間に亘ってサポートや支援を行うなど、長期的な視点でスタートアップの成長を図ることを前提としていることを紹介した。

また、渡辺氏がスタートアップ側のやるべきこととして「スタートアップは今やっていることと目指しているところにかなり差があるので、ビジョンの共有というのはすごく大事。大企業に相手してもらうのはなかなか難しいかもしれないが、『自分たちは本気でここまで見据えている』という話をちゃんとしていくしかないのかなと思う。共通認識もって初めて出口戦略を話せるのではないか」と語ると、川名氏が「すごく大事だと思う」と大きく頷く場面も。

「自分は、オープンイノベーション促進の主役はスタートアップだと思っている。何故なら、大企業というのは、数年で担当者が変わってしまうから。組織の長も変わる。最初に取り組み始めた熱量を保ち続けるのは、“組織”としては難しい。だから、スタートアップが主役となって大企業がきちんとサポートするという役割分担の方が、うまくいくと思う。実はKDDIは、出資先のスタートアップに副業としてジョインするというルートがある。半年契約ではあるが、望まれれば担当をずっと続けることができる。私自身、2023年からこれまで2年以上支援し続けているスタートアップがある。支援先に“仲間”として入っていくと、愛着もできてくるもの。こういうフローがあると、永続的な支援ということにも繋がっていくのかなと思う」(川名氏)

「オープンイノベーション」を取り巻く環境変化、そして変わらぬ重要性

ディスカッションの最後に、登壇者より「オープンイノベーション」を検討する大企業やスタートアップに向けたメッセージがあった。

「オープンイノベーションというのは、イノベーションを起こすための手段のひとつであると思う。企業ごとに相性やタイミングというものがあり、また以前に比べ、イノベーション促進のためのプラットフォームや支援など、いろいろな選択肢が出てきている。スタートアップは自分たちに1番合った方法をいち早く選択して、相性の良いパートナー企業に出会って、成長を加速させていくのがいいのではないかなと思う」(渡辺氏)

「現在の大企業は、研究開発費の7割以上を既存事業に割いていて、新規事業予算はわずか。つまり、既存事業の延命措置に使っているとも言える。大企業はスタートアップの成長意欲をオープンイノベーションというかたちで取り入れ、彼らと共に成長するということをしていかないと、日本の経済成長というのは難しいということではないか。資金もあり人もあり設備もある大企業が、オープンイノベーションのとっかかりをつくっていくことが重要だと思う。

現在、M&Aが注目されているが、近年は大企業によるスタートアップM&Aだけでなく、スタートアップが他のスタートアップをM&Aする動きが出てきている。これは今年、新たに「上場5年経過後に時価総額100億円以上」という上場維持基準が示されたため。今後、複数社スタートアップによる大きいスタートアップと大企業が、オープンイノベーションに取り組むという世界も近いのではないかと考えている」(川名氏)

文●かのうよしこ 編集●合同会社二馬力 撮影●mao

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