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大学研究者の特許への関心をさらに高めるためには? 特許庁令和6年度『大学の研究者の目線に立った知財の情報提供に関する調査研究』に基づく分析レポート

FY2025 レポート アカデミア

スタートアップ向けの知財戦略ポータルサイト「IP BASE」を展開する特許庁は、2025年9月17日に開催の大学技術移転協議会(UNITT)アニュアル・カンファレンス2025のスポンサーセッションにて、「大学研究者の特許への関心をさらに高めるためには~特許庁令和6年度『大学の研究者の目線に立った知財の情報提供に関する調査研究』に基づく分析~」を実施した。セッションでは『大学の研究者の目線に立った知財の情報提供に関する調査研究』の紹介や、大学研究者の特許への関心を高めることをテーマとするパネルディスカッションを行った。

『大学の研究者の目線に立った知財の情報提供に関する調査研究』報告

はじめに特許庁企画調査課課長補佐の石川薫氏より、令和6年度産業財産権調査研究『大学の研究者の目線に立った知財の情報提供に関する調査研究』調査結果の報告が行われた。

特許庁では、大学研究者の特許に対する意欲や知識が二分化している状況から、特許に対する意欲や知識の低い研究者にどのような情報提供を行うべきかを検討すべく、本研究を行った。今回の研究の大きな特徴は、大学研究者に対して直接アンケートを行った点だ。過去の研究では産学連携部門に対してアンケートを依頼することが多かった。本事業では大学研究者約180人からの回答を分析した。

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特許庁企画調査課 課長補佐 石川薫氏

アンケートの最初の設問は研究者に対して研究の目的を問うもので、「未知の分野を探求して新たな知を発見したい」「研究成果を実用化したい」の両項目について、その意欲を5段階で回答してもらった。「未知の分野を探求して新たな知を発見したい」という項目は、大いに当てはまるが58.1%、当てはまるが40.1%、併せて98.2%が意欲を持っていることが明らかとなった。また「研究成果を実用化したい」という項目は、大いに当てはまるが43.0%、当てはまるが41.3%、併せて84.3%が意欲を持っていることが明らかとなった。

調査チームは、アンケートの回答に基づいて研究者タイプを、1.真理探究タイプ、2.実用志向タイプ、3.バランスタイプの3つに分類した。さらに、この研究者タイプの分類に合わせて、特許に関する情報提供の内容を変えるのが望ましいとの提案を行った。例えば、真理探究タイプの研究者に対しては「特許の視点を取り入れることで、研究の新たなヒントを得られる」「論文以外の成果として加えることができる」などの情報提供が有効である。一方で、実用志向タイプ・バランスタイプの研究者に対しては「研究成果を社会につなげる懸け橋になる」「起業の際に必要」「実用化の視点で研究を見直せる」などの情報提供が有効である等、具体的な情報提供例を述べた。

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本アンケート回答者の約75%は、特許出願の経験者であった。特許出願の経験者に対して特許出願を行ってよかった点について質問をしたところ、社会貢献の観点から「起業を実現できた」「企業とのつながりを作ることができた」「社会実装との結びつきを意識できた」「ビジネスの世界を意識できるようになった」、研究の観点から「研究テーマの展開可能性が見えた」「類似研究テーマの特許調査結果を自身の研究に役立てられた」「研究成果を表現する方法が広がった」「研究者としてのキャリアに必要であるとの実感がわいた」「研究のモチベーション向上につながった」等の意見が寄せられた。

特許出願の経験が無い回答者に対して、出願経験が無い理由について質問したところ、「自身には特許は関係ないものだと思っていた」「興味はあったが研究活動が忙しくて手が回らなかった」「興味はあったが進め方がわからなかった」「興味はあって特許出願を考えたが、制度の問題(新規性喪失等)に直面して断念した」「興味はあったが費用面で断念した」等の意見が寄せられた。

「研究者への情報提供」に関するパネルディスカッション

続いて、さらに金沢工業大学大学院 教授/RA協議会副会長の高橋真木子氏、大阪大学共創機構教授の正城敏博氏、弁理士法人ドライト国際特許事務所代表所長の吉田正義氏をスピーカーに招き、静岡理工科大学学長の木村雅和氏をモデレーターとして、「研究者への情報提供」に関するパネルディスカッションが行われた。

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左から、弁理士法人ドライト国際特許事務所 代表所長 吉田正義氏、大阪大学共創機構 教授 正城敏博氏、金沢工業大学大学院 教授/RA協議会 副会長 高橋真木子氏、静岡理工科大学 学長 木村雅和氏、特許庁企画調査課 課長補佐 石川 薫氏

本セッションでは大きく3つのテーマが設定された。まずは冒頭、石川氏の報告にあった「研究者のタイプ別に見た情報提供方法」について議論が行われた。タイプ別の情報提供の前提となる研究者のタイプを見極める方法について、高橋氏は「過去に大学に発明届を出した経験があるか、実用化を意識した研究費の申請を行っているか、などを事前に確認しておくことが重要だ」と述べた。

正城氏は、真理探究タイプの多い基礎研究に携わる研究者へのアプローチについて、基礎研究の成果が実用化されるまでの「期間」に言及した。基礎研究は実用化までの期間が長く、特許の存続期間内に実用化に至らないケースや、産学連携部門の想定するライセンス営業期間内に実用化が難しいケースが発生し、特許の出願に至らないことがある。このようなケースでは、産学連携部門の立場では特許出願は難しいが、その研究成果が社会実装と繋がっていないと研究者が誤解をしないよう丁寧なコミュニケーションが必要である、と述べた。

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大阪大学 共創機構 教授 正城敏博氏

続いて「研究者の特許出願に対する誤解を解くには」というテーマで議論が行われた。吉田氏は「多くの研究者が拒絶理由通知書に対して誤解している。拒絶理由通知は特許庁の審査官との会話である」と語る。明細書を研究者が考える研究成果のポイントより広めの内容で出願を行い、審査官のコメントを見ながら最適な権利範囲に修正していくものであり、権利化のプロセスの中で拒絶理由通知書は必ず来るもの、と研究者に理解してもらう必要がある、と述べた。

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弁理士法人ドライト国際特許事務所 代表所長 吉田正義氏

正城氏は、特許に対してネガティブな印象を持っている研究者について言及し、「自分たちの研究成果は論文として周知して広く使ってもらいたい、と考える研究者が一定数いる。研究内容によっては論文として周知する形が良いが、特許化して実用化を大学でうまく管理する方が社会に広まるケースもあることを理解してもらう必要がある」と述べた。

最後は「大学の知の社会実装のこれからに向けて期待すること」をテーマに議論が行われた。高橋氏は、「研究にとって特許の“旬”を拾ってあげることが重要」と述べ、産学連携部門が学内で旬を迎えた研究に対して適切にサポートを行い、研究者からの評価を高めていくことで、徐々に学内の知財マインドを高めていくことが重要である、と述べた。

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金沢工業大学大学院 教授/RA協議会 副会長 高橋真木子氏

木村氏は「知財本部や産学連携本部が、研究者にとって何かあったときに相談してみようと思える組織になっていることが重要。特許出願につながらなくても、研究のアイデアが広がったりすることもある」と述べ、セッションを締めくくった。

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静岡理工科大学 学長 木村雅和氏

文●山田光利 編集●合同会社二馬力 撮影●mao

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