イベント告知・レポート
「急成長スタートアップの知財戦略 ~AIで加速する事業に知財をどう活用するのか?~スタートアップ知財セミナー in 東京」特許庁・日本弁理士会共催セミナーレポート
スタートアップ向け知財戦略ポータルサイト「IP BASE」を運営する特許庁と、日本弁理士会は、2025年10月31日(金)、東京ビジョンセンター東京虎ノ門にて、知財セミナー「急成長スタートアップの知財戦略 ~AIで加速する事業に知財をどう活用するのか?~ スタートアップ知財セミナー in 東京」を共催にて開催した。AIを活用するスタートアップの立場から、株式会社estie、株式会社LayerX、株式会社HQ、ビジョナル株式会社の4社がパネリストとして登壇した。
冒頭、日本弁理士会関東会 副会長の安高 史朗氏の挨拶、特許庁 総務部 企画調査課スタートアップ支援班長の湊 和也氏による講演が行われた。続いてグローバル・ブレイン株式会社の廣田 翔平氏をモデレーターとして、スタートアップ4社によるパネルディスカッションが行われ、2つのテーマ「なぜ知財活動に取り組むのか」「知財活動を進めるための体制・仕組みは?」について各社の意見を伺った。
AIスタートアップが知財活動に取り組む理由
最初のテーマは「各社がなぜ知財活動に取り組んでいるのか」。スタートアップは時間、人材など、あらゆるリソースが無いと言われる中、会社として知財活動に一定のリソースを割くという経営判断が行われた理由や、各社が知財活動を始めたきっかけや知財活動を行うモチベーションについて意見を聞いた。
モデレーター:グローバル・ブレイン株式会社 廣田 翔平氏
estie社 取締役CTOの岩成 達哉氏は、「廣田氏が所属するグローバル・ブレイン社から投資を受け、知財に関する質問や支援の提案を受けたことが、知財活動を始めたきっかけ」と語る。グローバル・ブレイン社と対話を続ける中で、ベンチマークしている他社の知財情報を参考に自社の戦略を見直せる点など、自社の事業を権利で保護できる点以外の様々なメリットを理解し、今では会社として積極的に知財活動に取り組むべきと感じているという。しかし「特許を取得するまでには一定の時間がかかるため、明日には会社が無いかもしれないスタートアップとして知財活動に取り組むべきか否か、当初は悩んだ」とも明かしていた。
株式会社estie 取締役CTO 岩成 達哉氏
LayerX社 法務知財グループ/弁理士の鬼鞍 信太郎氏は、業務委託として同社の知財活動のサポートを開始し、現在は社員として同社の知財活動をリードしている立場だ。複数の事業が急速に進む中で知財活動に手が回っていない状況であったが、将来的なIPO等を考えた場合に何もしないわけにはいかないと考えていたそうだ。同社の経営陣には技術者の成果を特許という形にすることで、皆で喜びを分かち合いたいという考えがあり、特許を出せるものは積極的に出していくという姿勢で知財活動に取り組んでいると語った。
株式会社LayerX 法務知財グループ/弁理士 鬼鞍 信太郎氏
HQ 社 VP of Engineering の佐生 友行氏は、会社として3つ目の事業を開始するタイミングで知財活動を開始したという。創業当初は顧客に価値を届けることと初期の売上成果をしっかり作ることがまず第一で、知財活動に取り組む余裕はなかったが、その後複数事業が成長するにつれて、プロダクトとし価値を提供できるものが自分たちにあるという証明を得て、それらを会社として守っていく知財戦略に意識が向くようになったそうだ。
株式会社HQ VP of Engineering 佐生 友行氏
ビジョナル社 管理本部法務室知的財産グループマネージャーの米谷 仁矩氏は、プレスリリースやIRを通じて、社外に対して知財活動を発信するメリットを述べた。特許は、やみくもに数を出願すればいいわけではない、という前提の上で、特許をしっかり取っていると対外的に発信することが、技術やモノづくりを重視している企業イメージの醸成に繋がり、結果として、良い人材の採用にも繋がるという。また、自社サービスの機能が特許で守られていることを顧客企業に知ってもらうことは、自社サービスの優位性を簡潔に理解してもらうことができるとともに、サービス利用への安心感に繋がる効果も一定あると考え、積極的な情報発信を行っているという。
ビジョナル株式会社 管理本部 法務室 知的財産グループ マネージャー 米谷 仁矩氏
各社が知財活動を進める体制
続いてのテーマは「各社が知財活動を進めるための体制・仕組み」。AIの活用によって各社の開発スピードが加速していることへの対応、また知財活動自体に対するAIの活用について話を聞いた。
会場の様子
「AIの活用によって他社の開発スピードも上がってきており、社内で考えているアイデアが他社に先に実装されてしまう可能性が以前より増していると感じている」というestie社の岩成氏。その対策として、積極的に特許を取って社内で考えているアイデアを保護していくべきという意識が醸成されているとのこと。当初、特許は秘密事項が多いという事で社内でも限られたメンバーで対応していたが、社内であれば積極的に議論した方が良いのではないかと呼びかけた結果、全社員100人強のうち30人以上が、特許について議論するSlackチャンネルに参加しているそうだ。
「知財活動も含めた全てのコーポレート業務について、AIを使って効率を上げることに注力している」と語ったのは、LayerX社の鬼鞍氏だ。知財活動に関しては、他社特許のウォッチングなど自動化できる作業はできるだけ自動化して、社員からの発明の発掘など自分にしかできないことにリソースを割くことを意識しているとのこと。
発明の発掘では、プロダクトマネージャー等との個別の対話を地道に繰り返すことを心がけているという。集合研修のような1対nのコミュニケーションではなく1対1のコミュニケーションを行うことで、自分が関わっている中で何が特許になるのかという視点が社員1人1人に生まれていき、また知財担当者との信頼関係も生まれ、社内に発明発掘の土壌が育つと考えているという。
発明の発掘について「開発部門が作った発明届を知財部門が受け取り、その後に先行技術調査を始め、特許出願要否を決める、といったプロセスでは、今の開発速度に到底間に合わない」と述べたのは、ビジョナル社の米谷氏だ。同社では、開発プロセスに知財部門も入り込み、開発項目の中で何をどのような形で特許を取るか、知財部門がタイムリーに判断していくことを原則にしているという。社内では知財部門を、“知財に詳しい事業の人”と思ってもらえるような動き方を意識しているとのこと。
「自社が事業を行っている、福利厚生業界ならではの権利化に取り組みたい」と語るのは、HQ社の佐生氏。各社の福利厚生は、会社の想いを体現した独自の制度や、業界ごとの制約条件などが複雑に組み合わされる形で実現されているが、その多くが人力の運用で行われており、テクノロジーが介入する余地が多く存在すると感じているという。福利厚生の業界独自の課題を解決する中で特許のアイデアが発生することを社員に理解してもらい、エンジニア以外のメンバーも含めてアイデアのプールを広げていく形を目指したいとのこと。
複数の事業が同時に進行する中での知財活動についての議論では、LayerX社の鬼鞍氏は「事業によって他社の特許が多い事業とそうでもない事業があるので、他社とのパワーバランスを解消するために前者の事業を優先するといった特許の取得戦略は考えている」と語った。一方、ビジョナル社の米谷氏は「ローンチして時間が経った事業は、組織もある程度出来上がっており、新たに知財部門が入っていくのはストレスがかかる。それよりも、新規事業部門など、組織がまだ出来上がっていない状態から知財部門が入り込んでいき、良い社内事例ができたら、それを示しながら既存事業にも入り込んでいく、という進め方が良い場合もある」と述べた。
イベントの最後には、参加者から登壇者への質疑応答の時間が設けられ、活発な意見交換が行われた。終始熱量の高い議論が続くなか、盛況のうちにイベントは幕を閉じた。
文●山田光利 編集●合同会社二馬力 撮影●mao

