イベント告知・レポート
知財戦略は武器になる!特許庁・INPIT知財支援施策を詳しく紹介〜NIKKEI THE PITCH主催「スタートアップのための実務戦略セミナー」レポート〜
スタートアップ向けの知財戦略ポータルサイト「IP BASE」を運営する特許庁は、2025年11月13日に日本経済新聞社 NIKKEI THE PITCHが主催する「事業成長の武器になる!スタートアップのための実務戦略セミナー」にゲスト登壇した。モデレーターはNIKKEI THE PITCH編集長の古山和弘氏が務め、オンライン・オフラインのハイブリッド開催となった両会場には、スタートアップの「CxO」や実務関係者らが数多く集まった。
本イベント冒頭のトークセッションに、特許庁スタートアップ支援班から神成勇輝氏が登壇。「特許庁・INPITのスタートアップ知財支援施策」と題し、早期審査・スーパー早期審査の活用や手数料軽減措置、知財コミュニティ「IP BASE」、知財アクセラレーションプログラム「IPAS」など、スタートアップに対する支援や制度全般を、事例を交えながら解説した。
特許庁 総務部 企画調査課 スタートアップ支援班 神成勇輝氏
スタートアップ創業期、知財戦略の有無が勝敗をわける
神成氏はまず、令和3年度特許庁『スタートアップが直面する知的財産の課題に関する調査研究報告書』から、各業界のスタートアップの約半数、情報通信業に関しては86.4%が、設立前に知財戦略を経営戦略に組み込んでいないという調査結果を紹介した。
この調査結果から、スタートアップの企業価値は、技術やアイデアに集約されているにもかかわらず、知財の重要性の優先度はまだ低く、知財に注力するのは非常に難しいのが現実であるということが分かる。同報告書では、ベンチャーキャピタル(以下、VC)においても「知的財産について支援を行うことができるメンバーが組織内にいない」と回答したのが45.7%となっており、スタートアップが知財活動の支援を受けることそのものの難しさを感じさせる報告となっている。
創業期スタートアップにおける知財活用における効果には、「競合企業の参入防止」「信用力・ブランドの向上」「資金調達への貢献」「業務提携等への寄与」などが挙げられる。一方で、知財への取り組みが疎かであった場合に、VCからの資金調達に悪影響を及ぼしたり、M&A等のEXITの機会を逸失してしまうリスクもあると神成氏は述べる。ここでは実際に、知財活動の対応が遅れたことでライバル企業に並走を許してしまった事例も、併せて紹介された。
特許庁・INPITによる伴走型支援事業「IPAS」「VC-IPAS」
特許庁・INPITでは、2018年度より伴走型の知財アクセラレーション事業「IPAS」を、2023年度より「VC-IPAS」を実施している。
「IPAS」は、創業期(シード、アーリー)のスタートアップを対象に、ビジネスの専門家と知財の専門家からなるメンタリングチームが、各スタートアップに対応した適切なビジネスモデルの構築と、ビジネス戦略に連動した知財戦略の構築を支援するプログラムだ。
2025年、ノーベル生理学・医学賞に輝いた坂口志文博士らの研究成果を基に創業した、レグセル株式会社も、このIPAS支援先のひとつだ。2020年度に採択されたレグゼル株式会社は、IPASメンターとして参画した弁理士・大門良仁氏らの指導のもと、特許出願等の知財活動を進めていった。
レグセル株式会社取締役副社長・共同創業者である坂口教子氏は、IP BASEによるインタビュー中で「(会社の)コンセプトを理解してお金を出してもらう人を探すのが最大の難題」としたうえで、「知財を持っていないと、誰にも相手をしてもらえない。藁をも掴む気持ちでIPASに応募し、メンターに指導いただくことでここまで来ることができた」と述べており、当時の知財活動への危機感がうかがえる。
ベンチャーキャピタル向けのプログラム「VC-IPAS」は、スタートアップへ成長支援を行うVC等の支援者に対して、知財の専門家を派遣し、支援者と知財の専門家が協働してスタートアップに支援を行うことで、スタートアップの事業計画に沿った知財支援を行うことを目的とした事業である。採択されたVCには知財のスペシャリストが派遣され、投資見込みスタートアップの発掘・カンパニークリエイション、投資候補となるスタートアップの知財デューデリジェンス、投資先スタートアップに関連する知財調査といった支援を行っている。
知財活動を身近にする、社内研修にも利用できるWebコンテンツ紹介
特許庁・INPITは、知財活動をより身近にする取り組みを多数展開しており、そのうちのいくつかについて詳しく紹介があった。そのひとつが、本ポータルサイト「IP BASE」だ。「IP BASE」は、スタートアップとスタートアップ支援者が知財に関する情報を取得する場として、またスタートアップ・知財専門家・スタートアップ支援関係者間のネットワーク構築の場を目指して運営されている。
また、知財に関する取り組みについて各部門で高く評価されたスタートアップ、またスタートアップ支援者のベストプレイヤーを表彰する「IP BASE AWARD」を開催しており、2025年度で開催7回目を迎える。「IPBASE」では、AWARD受賞者のインタビューをはじめ、知財戦略・経営の一助となるような、具体的な知財活動事例や特許庁の支援内容、セミナーレポートなども数多く掲載している。
また特許庁・INPITでは、知財リスクを回避するための動画で情報発信をおこなっている。下記に紹介する「スタートアップは突然に…」では、スタートアップにおける知財トラブルの事例がわかりやすくまとめられている。全5回のシリーズもので、各2分程度で完結するため、初学者に知財に関する興味を持ってもらうコンテンツとして最適である。
新開設の「スタートアップ知財支援窓口」等、スタートアップ向け施策を紹介
特許庁・INPITは、スタートアップのニーズに合わせた知財支援を実施している。
スタートアップのスピード感に対応した例として、実施関連出願について一次審査結果通知前に行う面接を通じて戦略的な特許権の取得につなげる「面接活用早期審査」や、何よりも早く特許権を取得したいというスタートアップのニーズに応える「スーパー早期審査」が設けられている。2025年度からは特許に加え、意匠に関してもスタートアップ向けの早期審査を開始した。また、審査請求料や特許料、国際出願にかかる手数料についても、条件を満たしたスタートアップは軽減制度を利用出来る旨が紹介された。
更にINPITでは、2024年度からスタートアップ支援に特化した「スタートアップ知財支援窓口」を開設。既存の「知財総合支援窓口」と併せ、各種相談窓口を豊富に取り揃えている。神成氏は「ぜひお気軽に、些細なことから高度なことまで、知財についてご相談ください」と話し、トークセッションを締め括った。
NIKKEI THE PITCH新企画はスタートアップやアトツギベンチャー、そして支援者へ
知財セッションの後には、南青山アドバイザリーグループ 株式会社 南青山税理士法人代表の仙石 実氏が「仮想株式で社員に選ばれる企業へ〜エンゲージメントストック〜」と題して登壇。従業員のエンゲージメントを高めるための新しい株式設計「仮想株式(エンゲージメントストック)」の仕組みと実務について解説した。
また「スタートアップ出口戦略としてのM&A」というテーマで、M&A支援やスタートアップ投資などの豊富な案件支援をしている株式会社ケップルの米安隼人氏が登壇。自らの経験をもとにIPO・M&Aの判断基準や資本政策の設計、買い手とのコミュニケーションなど、“成功するエグジット設計”の実務について論じた。
本イベントは、スタートアップやアトツギベンチャーを対象に支援プロジェクトを運営するNIKKEI THE PITCHが、2025年から始めた新企画の第一弾だ。NIKKEI THE PITCHが学びを提供する対象者を、スタートアップやアトツギベンチャー当事者のみならず、周辺の支援者まで広げていきたい、という思いがあって立ち上がった企画となっているとのこと。イベント全体の詳しい内容については、本レポート末尾記載のNIKKEI THE PITCH記事中より、アーカイブ動画を無料で確認することが出来る。
文●山田光利 編集●合同会社二馬力 撮影●mao

