イベント告知・レポート
「VC・SU向け知財支援で得られた知見を専門家で共有」VC-IPAS専門家間ナレッジシェアプログラム開催レポート
スタートアップ向け知財戦略ポータルサイト「IP BASE」を運営する特許庁は、2025年12月10日、東京・TKPガーデンシティPREMIUM東京丸の内中央とオンラインのハイブリッド形式で、「VC-IPAS専門家間ナレッジシェアプログラム」を開催した。
本プログラムの目的は、知財専門家がVCやスタートアップに対する支援を行った際、現場で得られる気づきや知見を共有し、協働の基盤を形成することだ。この日のイベントでは、2025年度VC-IPASの前半における支援内容を振り返り、そして後半の活動に活かすための課題共有やネットワーク構築が行われた。事例共有セッションでは、VC-IPASでVCを支援する知財専門家3名が登壇。各々の支援事例に基づく、実践的な知見を紹介した。
類似技術・代替技術の調査こそが、スタートアップの本当の強みを見つける第一歩
セリオ国際特許商標事務所の石井琢哉弁理士は、知財デューデリジェンス(以下、知財DD)で行うべき基本項目を6項目に整理して紹介した。「対象会社(投資先)の保有資産の確認(ヒト・モノ・カネ・知財の確認)」「対象会社の知財状況の把握」「先行技術文献調査及び出願戦略」「他社特許権の侵害リスク調査」「対象会社の競争優位性の確保」「契約関係の確認」それぞれについて、内容詳細や具体例を挙げて解説した。
セリオ国際特許商標事務所の石井琢哉氏
VC-IPASの支援では、キャピタリストに出来る部分は自身で手を動かしてもらい、その他の部分を知財専門家が担う、という役割分担を意識していると石井氏は言う。具体的には、対象会社の知財権の有無、ビジネスモデルや事業計画についてはキャピタリストが情報収集・整理を行い、他社特許の調査に関しては特許調査会社、対象会社の保有する特許権の権利範囲などの専門的な判断については弁理士に支援を仰ぐ、といった形だ。キャピタリストに知財DDの全体像を理解してもらい、どの部分を専門家に依頼するかを都度確認することで、最終的にはキャピタリストが知財DDをリードできるように支援を行っているそうだ。
石井氏は、知財DDの6項目の中でも特に「競争優位性の確認」に注力していると述べ、SWOT分析や5フォース分析を交えて説明を行った。SWOT分析は企業の強みと弱みについて、内部環境と外部環境に切り分けて整理を行う手法だ。対象会社の競争優位性を検討する上では内部環境の分析で終わらず、競合企業や顧客企業の情報を用いた外部環境の分析まで行うべきと石井氏は言う。
続く5フォース分析は、対象会社について、既存の競合・新規参入する競合・代替品を提供する企業・顧客・サプライヤーの5つの観点で市場を分析する手法だ。既存の競合との差別化を図るだけではなく、市場に新規参入する企業をいかに防ぐか、他の技術を使用した代替品の参入は無いか、といった観点で分析を行い、対象会社の本当の優位性がどこにあるのかを深く考えるべきだと、石井氏は述べた。
対象会社が有する技術の周辺技術や代替技術の調査を行うことで、調査の前は唯一無二だと言っていた技術の代替技術や、対象会社の代替企業を発見することは珍しくないという。その場合、対象会社に優位性が無くなったと捉えるのではなく、代替技術と比較して本当の強みはどこにあるかを対象会社と一緒に議論すべきである。その議論の繰り返しが対象会社の本当の優位性を理解し、投資判断の材料を揃える重要な作業になると石井氏は述べた。
専門家の稼働を単発で終わらせずに、再利用可能な資産に変換する
中村合同特許法律事務所の工藤嘉晃弁理士は、スタートアップが資金調達時に語るストーリーの中に、第三者に説明可能な知財的な根拠をパーツとして埋め込むことが重要だと述べ、そのパーツを揃えるための支援を行っていると語る。
その上で、スタートアップ及びVCの支援を行う際、工藤氏は以下の3つのポイントを意識しているという。
中村合同特許法律事務所の工藤嘉晃氏
1つめのポイントは「問いを固定(最初に決める)」すること。支援対象となるスタートアップの「競争優位性は何か」「模倣困難性はどこか」など、問いを固定して知財専門家とVC・スタートアップの間で共有しておくことで、その後の議論がスムーズに進むという。
2つめのポイントは「先に成果物を定義する」こと。「成果物」が前述の「知財的な根拠となるパーツ」に相当する。具体的には、スタートアップのコア技術を整理したコア技術マップや、コア技術を保護する方法を整理したオープンクローズ戦略資料などになる。作るべき成果物を先に定義して、その作成をVC・スタートアップと一緒に行うことで、知財活動を着実に前に進めることができる。
そして、3つめのポイントは「MTGを議論で終わらせない設計」だ。事前に定義した成果物の作成に向けて、知財専門家・VC・スタートアップの誰がいつまでに何をするかの共通認識を持ってミーティングを毎回終えるようにしている、と工藤氏は語った。
工藤氏は最後に「専門家の稼働を単発で終わらせず、支援活動を再利用可能な資産に転換することを意識している」と述べた。具体的には、支援の成果を第三者に説明可能な資料へ落とし込んだり、ミーティングを進める際のテンプレートを共通化したりといった工夫を行っているとのこと。
スタートアップの知財リスク分析で終わらず、改善に向けた提案と合わせて共有
インハウスハブ東京法律事務所の西田聡子弁理士は、VCによる投資先の知財DDを支援。支援に伴う具体的な稼働内容や稼働時間を交えて、支援事例の紹介を行った。
インハウスハブ東京法律事務所の西田聡子氏
VCとの最初のキックオフでは、今回のVC-IPAS事業で行う支援内容のすり合わせを行った。具体的には、VCが希望する支援は既に投資しているスタートアップへの追加投資を判断するための知財DDであること、追加投資の判断までの時間が決まっているため今回は期限内に出来る範囲に絞って知財DDを行うこと等の確認を行った。
その後、提供された資料を確認してQAリストを作成し、回答を受領。スタートアップへのインタビューで深掘りしたい点を事前に整理した。その結果、知財業務の体制など踏み込んだ話まで聞くことができたという。また、インタビューにはスタートアップの顧問弁理士も参加しており、対象となる技術や特許の権利範囲についても詳しく議論ができたと述べた。
インタビュー後には、VC向けに簡易レポートを作成。簡易レポートはVCからのリクエストにより、他の投資家にも共有できる形で作成した。そうすることで他の投資家も検討ができるし、スタートアップにとっても複数の投資家から毎回インタビューを受ける負担が軽減する、と西田氏は述べた。
簡易レポートは、現状把握パートと所見パートの2パートに分けて作成した。所見に関しては現状で想定されるリスクを記載した他、そのリスクに対してどんな対応を行うべきかをVCが理解できる形で記載。単なる分析に終わらず、課題の解決に繋がる支援が出来たと西田氏は語った。
講演後にはイベント参加者によるグループディスカッションをオフライン・オンラインに分かれて実施。知財支援の現場を知る専門家ならではの議論が活発に交わされ、イベントは幕を閉じた。
文●山田光利 編集●合同会社二馬力

