CEOが語る知財
株式会社STANDAGE 取締役副社長 COO 大森健太氏インタビュー
貿易プロセスの可視化で「すべての国がすべてのものに平等にアクセスできる世界」を目指す
煩雑な手続き、国ごとに異なる規制、資金や物流に伴うリスク……中小企業にとって貿易は、挑戦したくても簡単には踏み出せない領域であり続けてきた。そうしたハードルの高さを前提に、貿易の在り方そのものを見直そうとしているのが、株式会社STANDAGEだ。「貿易を一部の企業のものから、誰もが使えるインフラへ」。その構想を現場で形にしてきたのが、取締役副社長 COOの大森健太氏である。
株式会社STANDAGE 取締役副社長 COO
大森健太(おおもり・けんた)氏
2012年 東京大学大学院化学生命工学専攻修了。大学時代の研究内容は、がん細胞の早期検出のための診断薬の素材開発。総合商社の伊藤忠商事株式会社へ入社し、主に医薬品やヘルスケア製品の貿易、海外企業へのM&Aに従事。趣味でAmazonやEbayで転売ビジネスを行っていた事もあり、BtoBの貿易におけるデジタルシフトの遅さを痛感すると共に、本分野のDXの可能性を強く確信し、2017年に当時伊藤忠の先輩だった足立彰紀氏(現STANDAGE CEO)と共に株式会社STANDAGEを共同創業。現在はSales/MarketingのTOPとして、ユーザー並びに協業パートナーの開拓、事業化を日々推し進めている。
商社の現場で見えてきた貿易の課題をITで捉え直す
日本の貿易業界は、長年にわたり限られたプレイヤーが中心となって支えてきた分野だ。日本全体の市場規模の約4割を、わずか7社程度の大手総合商社が占めている。残りを数万社の中小企業が担っているものの、1社あたりの規模は大きいとはいえない状態だ。
中小企業が貿易に参入しづらい背景には、いくつかの要因がある。国ごとに異なる規制や制度への対応、資金繰りや決済のリスク、物流を含めたオペレーションの複雑さに加え、何より貿易のノウハウが分かりにくいことが大きい。
STANDAGE創業以前、大森氏は大手総合商社で貿易の実務に携わってきたが、そこで直面したのは、想像以上にアナログな業務環境だったという。「貿易のプロセスや判断基準が個々の担当者の経験に依存しやすい状況でした。しかもそれがデータとして残されているのではなく、商社マンの頭の中にだけ入っているんです。このままでは、中堅・中小企業に貿易のノウハウは広がっていかないですよね」と大森氏は語る。知見が組織として蓄積・共有されにくい状況が続いてきた結果、貿易のノウハウはブラックボックス化し、外部からは見えにくいものになっていた。
この課題に対してSTANDAGEが着手したのが、貿易のプロセスや判断の積み重ねをデジタル技術で可視化し、再現可能な形に落とし込むことで、貿易そのものを「仕組み」として提供することだった。「すべての国がすべてのものに平等にアクセスできる世界を実現する」というビジョンがSTANDAGEの原点にある。
貿易の課題をテックで仕組み化する事業の3本柱
STANDAGEの事業は、大きく三つの柱で構成されている。一つ目が、これから貿易を始めたい企業向けの「おまかせ貿易」。二つ目が、すでに貿易を行っている企業を対象とした貿易決済のサービス。三つ目が、物流に関するシステムだ。新規に貿易を立ち上げるフェーズから、すでに動いている貿易のプロセス改善までを一気通貫で支援している点が特徴だ。
なかでも「おまかせ貿易」は、STANDAGEの中核をなすサービスだ。製品や技術には自信があるものの、貿易となると何から始めればいいのか分からない企業に対し、貿易の立ち上げから関税・規制対応、現地との調整までを含めて支援する。大森氏は、このサービスを「社外の商社部門」と位置づけている。
「人を一人雇って商社機能を内製しようとすると、どうしてもコストが合わない。だったら、社外の商社部門として使ってもらったほうが現実的ですよね」(大森氏)
貿易において、商品そのものの「競争力」、海外市場での「営業力」、そして国や地域ごとに異なる「規制」への対応の3つが重要なポイントであると大森氏は強調する。これらのいずれか、あるいは複数が障壁となり、貿易が成立しないケースは少なくない。
とりわけ規制への対応は、貿易の可否を左右する要因になりやすい。日本国内では問題なく流通している商品でも、海外では工場認証や成分規制が求められる場合がある。こうした状況を前提に、規制や市場性、コストなどの情報を整理したうえで進出先を絞り込む、あるいは戦略そのものを見直すといった判断も含め、企業とともに貿易の設計を行うのが「おまかせ貿易」の役割だ。
実際の支援事例も多岐にわたる。特定の国への輸出が難しくなった水産物を、別の消費地を探し、アフリカ市場への輸出につなげたケースがある。また、伝統工芸品の海外展開では、いきなり販売を行うのではなく、クラウドファンディングを活用してファンづくりをしたうえで輸出に踏み切った事例もあった。現在、STANDAGEが支援する企業は約400社にのぼり、扱う商品も食品、美容・化粧品、雑貨、医療関連など多岐にわたっている。
進むブロックチェーン決済と「AI商社マン」構想
貿易において、最もリスクが集中しやすいのが決済の領域だ。「国境を越えてモノとお金をやり取りする以上、未回収やトラブルが発生する可能性は常に残ります」(大森氏)。STANDAGEが決済サービスにも注力してきた背景には、こうした構造的なリスクがある。
STANDAGEでは、ブロックチェーン技術を活用し、代金と貿易書類を同時に管理・交換する仕組みを構想してきた。単に資金を預かるのではなく、船荷証券などの書類と結び付けることで、決済と物流を切り離さずに扱う考え方だ。2019年にはこの仕組みの原型をリリースしているが、当時は仮想通貨そのものへの抵抗感も強く、すぐに広く使われる状況にはならなかったという。
その後、技術連携や検証を重ねることで、決済とモノの流れを同時に扱う仕組みは徐々に現実性を帯びていった。特に、ドル不足や銀行規制といった課題を抱える国・地域では、既存の金融インフラだけでは対応が難しいケースも多い。STANDAGEの決済サービスは、そうした環境下で実際の取引に使われる場面が増えており、アフリカ諸国を中心に実績が積み上がっている。
決済や物流を含め、STANDAGEでは貿易のプロセス全体を自社のシステム上で管理している。商品情報、進出国、規制対応の内容、現地とのやり取り、スケジュールの遅延理由など、貿易の実行過程で生じる情報が一つのクラウドに蓄積されていく仕組みだ。
大森氏は、こうして集まるデータこそが、次の展開につながると考えている。「貿易を作るプロセスをすべてシステム上で管理しているので、どんな商品が、どの国で、どんなフローを踏んでうまくいったのか、逆にどこでつまずいたのかが全部残っていきます。その延長線上にあるのが、AIに商社マンの役割を果たさせるという構想です」
人が個別に支援するモデルでは、対応できる企業数にどうしても限界がある。一方で、貿易のプロセスを通じて蓄積されるデータを活用できれば、次に貿易に挑戦する企業に対して、判断の参考となる情報を提供できる可能性が広がる。「過去の取り組みの中で蓄積されてきた情報を、次の企業に対して成功確率の高い進め方を提示できる形にしていきたいと考えています」(大森氏)
IPASを通じて知財戦略とビジネスの関係性をブラッシュアップ
大森氏がIPAS(知財アクセラレーションプログラム)に参加したのは、STANDAGEが初めてではない。実は2022年、創業に携わっていたHikariQ Healthで、IPAS支援先スタートアップとして採択されている。医薬品開発を行う同社では、事業の性質上、知財の位置づけが極めて重要であり、IPASでの議論も特許を中心とした内容が多かったという。
当時、大森氏の中では、IPASは「特許庁の支援=知財を中心とした支援」というイメージが強かった。そのため、2022年にIPASへの応募を検討した際には、知財面がよりダイレクトに影響を与えるであろうHikariQ Healthから応募するという判断に至った。「HikariQ Healthとして参加したIPASがすごくよかったので、STANDAGEとしてもぜひ参加したいという旨を共同創業者である足立にも話したうえで応募することにしました」(大森氏)
翌2023年、STANDAGEとして支援先企業に採択されると、支援の中身は事業領域を反映しビジネスに踏み込んだ議論が中心となった。事業計画や企業価値、数字の組み立て方など、経営そのものに関わるテーマが多く扱われたという。
「STANDAGEのほうは、投資家や株主からアドバイスを受けている感覚が強かったです」(大森氏)。ただし、それは知財の議論が軽視されたという意味ではない。STANDAGEのように、決済やAIといった新しい要素を含む事業では、どのビジネスモデルを選ぶかによって、取るべき知財や守るべきポイントが大きく変わる。事業の方向性を定めずに、知財だけを切り出して議論することは難しい。IPASでビジネスの話が多くなったのは、知財戦略とビジネスが本質的に切り離せない関係にあるからだ。
またSTANDAGEでは、自社単独での特許取得に限らず、大企業との共同出願や、特定のビジネスにおいて専売的に活用できる知財の在り方についても検討が進んでいる。こうした選択肢を現実的なものとして捉えられるようになった背景にも、IPASでの支援があった。
忙しく、資金にも限りがあるスタートアップにとって、専門家から継続的にアドバイスを受けられる機会は決して多くない。STANDAGEにとってIPASは、知財戦略を整理する場であると同時に、事業を次のフェーズへ進めるための視点を得る場にもなった。「IPASは、ビジネスの基礎体力を上げることができる場。『うちはディープテックじゃないから』と思っているスタートアップの方も多いかもしれませんが、どんな会社も応募しない手はないと思います」(大森氏)
現在、STANDAGEは上場に向けた準備の最終段階に差し掛かっている。事業の再現性や持続性、そして組織としての強度が、これまで以上に厳しく問われるフェーズだ。貿易という複雑な領域をいかに仕組み化し、スケールさせてきたのか。その積み重ねが、今まさに試されている。
貿易を、より多くの企業が現実的に選択できるインフラへ。STANDAGEは、その先を見据えた挑戦を続けている。

