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CEOが語る知財

株式会社TBM代表取締役CEO 山﨑 敦義氏インタビュー
合計234億円もの資金調達につながった特許戦略とは

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 株式会社TBMは、環境に配慮した新素材の開発・製造・販売と資源循環の2つのビジネスを展開。石灰石を主原料とした新素材「LIMEX」(ライメックス)の開発に知財と連携した体制を構築し、世界40カ国以上で特許を取得。知財に裏打ちされた技術力を武器に合計234億円の資金を調達し、グローバルでの事業拡大を進めている。こうした知財の活用が評価され、令和4年度の知財功労賞を受賞。株式会社TBM代表取締役CEOの山﨑 敦義氏と同社の知財を担当する中村 宏氏に、スタートアップにおける知財活用と社内の知財体制について伺った。

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株式会社TBM 代表取締役 CEO 山﨑 敦義氏 20歳で中古車販売業を起業後、複数の事業を立ち上げる。30代になり、グローバルで勝負が出来て100年後も継承される人類の幸せに貢献できる1兆円事業を興したいと奮起し、2011年に時代の架け橋となることを目指して株式会社TBMを設立。Japan Venture Awards 2016「東日本大震災復興賞」受賞。Plug and Play 2016「世の中に最も社会的影響を与える企業-ソーシャルインパクトアワード」受賞。2017年、スタンフォード大学にて日米イノベーションアワード受賞。日経スペシャル「カンブリア宮殿」10周年500回記念番組に登場。令和4年度知財功労賞「経済産業大臣表彰」受賞。

石灰石を主原料としたLIMEX。環境に配慮した新素材の開発・販売

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(画像提供:TBM)

 株式会社TBMは、プラスチックや紙の代替となる、石灰石を主原料とした新素材LIMEXを開発・製造・販売する2011年創業のスタートアップ。

 LIMEXの主原料である石灰石は、世界中に豊富に存在し、日本でも自給自足できる資源だ。安価で安定した供給が可能なうえ、プラスチックや紙を製造する際に必要となる石油や木材、水といった枯渇リスクが高いとされる資源の利用を抑えられる。また、他の多くの鉱物資源と比べ、抽出・精製工程で多量のエネルギーを使用することもなく、環境負荷や社会的リスクも低い。さらに、LIMEX製品は回収してプラスチック代替製品へのリサイクルが可能で、資源枯渇や環境問題の解決に貢献できる。

 LIMEXの特徴は、その加工性の高さだ。建築資材、フィルム、食品容器、文房具など、あらゆるプラスチックや紙製品の代替として、すでに国内の企業や自治体1万社以上(事業所登録数含む)がLIMEXを導入している(同社調べ)。

 「国内では累計1万社以上の企業の方々にLIMEXをお使いいただいているけれど、まだまだ足りない。品質に対してこれだけ厳しい日本で使ってもらえれば、世界中でも使っていただける品質を担保できます。さらに日本で実績を作りながら、海外に展開していきたいと考えています」と山﨑氏。

 現在、アメリカ、ベトナムに拠点を設置し、英国、中国、韓国、インドネシアの企業とパートナー契約を結ぶなど、海外での製造・販売も拡大しているところだ。

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(画像提供:TBM)

サーキュラーエコノミーの実現に向けて、自動選別プラントを開設

 LIMEXの開発・供給事業に加えて、同社が力を入れているのが資源循環事業だ。日本ではプラスチック回収こそ進んでいるものの、ほとんどが焼却されているが、2022年4月1日にプラスチック資源循環促進法(プラ新法)が施行され、政府もプラスチックの再資源化を推進している。

 これまでプラスチックがうまく再生されなかった原因のひとつが分別の難しさだ。TBMは海外の選別機メーカーと連携し、近赤外線による自動選別プログラムを開発。2022年11月、回収したLIMEXやプラスチックを自動選別して再生ペレットを製造する世界初のプラントを神奈川県横須賀市に竣工し、運営を開始している。同市と連携して、市内のLIMEX製品、プラスチックの収集から再生までの実証実験を推進している。

 第1号の横須賀プラントをモデルに全国へと拡大、その後、海外へも広げていく計画だ。

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横須賀工場

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 「LIMEXだけでは供給量が少ないので、社会課題である紙やプラスチックを合わせて回収してリサイクルすることで、資源循環のビジネスを大きく成長させていきます。横須賀のプラントではプラスチックの再生をメインにして、まずは循環の仕組みを作り上げることが目標。そのひとつが、再生材を50%以上使用した新素材『CirculeX』(サーキュレックス)です」と山﨑氏。

 再生プラスチックは、品質が低く、用途が限られていたが、CirculeXは、LIMEXの研究開発で培われた材料設計技術により、劣化を低減し、従来よりも付加価値の高い製品がつくれるという。

 グローバル展開では、韓国SKグループと135億円の資本業務提携を締結。同グループの化学素材大手SKC社とのジョイントベンチャー「SK TBMGEOSTONE Co., Ltd」を立ち上げ、生分解性LIMEXの事業化も推進している。生分解性にはリサイクル性はないが、環境負荷は低減できる。石灰石などの無機物を50%以上含む生分解性LIMEXは生分解性プラスチックに比べて低価格なことから、リサイクルが進んでいない国や地域をカバーするための製品だ。

 「国内では生分解性LIMEXの需要は伸びるとは思っていません。プラスチック回収率の高い日本では、マテリアルリサイクルが必ず成長してくると考えていますし、そうしなくてはダメだと思っています」

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 LIMEXはプラスチックとの価格差も小さく、代替として十分戦えるようになってきているそうだ。ポリ袋や容器、シール・ラベルから、精細さや強度が求められる建材などまで加工が可能で用途は広がっている。

特許調査がLIMEX開発のきっかけに

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(画像提供:TBM)

 LIMEXを開発するきっかけとなったのが、同分野で先行していた他社製品だ。当初それらの販売を進めていたが、興味を持つ顧客は多かったものの品質が安定しないのがネックだった。

 そこで特許調査をしたところ10年間新しい特許が出願されていないことから、自社での開発を進めることになったという。

 「他社製品の品質、製造方法を見て、我々はまったく異なる方法でやろう、とプロジェクトを立ち上げました」(山﨑氏)

 2010年から技術開発をスタートし、翌2011年には会社設立とともにLIMEXの特許を出願している。

 「スタートアップが素材開発するうえで、知財は一丁目一番地。私は知財のプロではないので、スタートアップのイベントに行っていろいろな人を紹介してもらい、信頼できる特許事務所に出会うことができました。出会えた専門家の先生は、経営者の目線で知財戦略を一緒に考えてくれるのが大きかった。技術、知財にだけフォーカスすると、特許は出し続けなくてはならなくなってしまう。私たちスタートアップは費用対効果を考えなくてはいけないので、先生のバランス感覚は頼もしかったですね。創業初期から相談に乗ってもらい、今も知財の定例会議に入っていただいています」

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 テクノロジーを売りにしているスタートアップであれば、高額な投資の際には必ず知財についてのデューデリジェンスがある。他社の参入は防げるのか、大手から守れるのか、そのプロテクトができているのかは投資判断において大きな問題になる。知財戦略に着手できていなければ、脇が甘いと見なされる。研究開発や事業拡大に必要な資金を調達していくには、投資家への安心材料としての知財は必須だ。

 特に、事業会社のデューデリジェンスはかなりハードと言われる。上述の韓国SK社との提携では、TBM社内のR&D部門とも密にコミュニケーションを取りながら綿密な調査が行われ、業務提携に至るまでは1年半ほどかかったという。

 TBM側は、社内では対応しきれない質問などには社外の特許事務所にもサポートに入ってもらったそうだ。

社内の知財体制とグローバルへ向けた知財戦略

 社内の知財体制としては、4年半前から専門の知財人材を配置している。経営管理部で知財を担当する弁理士の中村 宏氏は、大手メーカーの知財部門出身だ。

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 「私が入社したのは、58歳。定年前に一花咲かせようと転職を意識し始めたとき、TBMが知財人材を募集していることを知り、スタートアップで可能性があり、自分が培った経験も生かせると考えて応募しました」と中村氏。

 TBMでは経営管理部のひとつの機能として知財チームが設置されており、専任の知財担当は中村氏を含めて2名だが、経営管理部全体で知財業務に関わっている。

 「TBMの知財は件数こそまだ少ないが、必要な権利を着実に出願、権利化している。あとは伸ばすだけ。人員が増えて開発力も上がっていますし、開発の成果を知財として押さえ、参入障壁を築いていきます。私が入る前から知財の重要性は認識されていたので、スタートアップとしては進んでいるほうだと思います」(中村氏)

 もともと社内の知財意識は高かったが、知財チームを設置したことで、より活発に知財について意見を出し合うようになり、経営の判断材料にも活かされているそうだ。

 研究開発で生まれた発明については、権利活用できるものについては積極的に特許出願し、製法など権利を活用しにくいものについてはノウハウとして社内に秘匿している。さらに、共同研究等で自社技術であることを立証できるように、電子公証システムを社内に導入し、開発部門の技術成果についての保護体制が整えられている。

 スタートアップでは職務発明訴訟のリスクも大きいことから、中村氏は入社後すぐに職務発明規程を策定したそうだ。

 また海外事業ではライセンスを柱としていることから、ノウハウ、特許、ブランド(商標)の知財ミックス戦略を進めており、現在、特許は2022年12月時点で、44カ国で178件、商標は53カ国で156件の権利を保有しているとのこと。

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 中村氏によると、外部の特許事務所に加えて、内部にも知財専門家を置くのが知財を戦略的に活用するポイントだそう。

 「信頼できる外部のパートナーを持つと同時に、内部にも専門家も置くことが大事。開発の成果を知財につなげるなど、社内の人間だからできる役割があります。技術的な観点だけでなく、知財リスクの対策という観点でも、できるだけ早い段階に知財を理解できる人材を置くことはスタートアップの事業成長にとって非常に重要なことです」と中村氏。

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 最後に、山﨑氏、中村氏からこれから知財戦略に取り組むスタートアップへメッセージを届けたい。

 「知財は、自分たちがやり遂げたい、未来を作っていくための大きなお守り。またビジネスの戦略を立てるときに、先輩企業の知財戦略は道しるべになります。資金調達の場面では、投資家からは必ず知財について聞かれますし、知財を固めていれば、投資家や提携企業への交渉の席でビジネスモデルや技術内容について話せる幅が広がります。自分たちのビジネスモデルを世の中に広めていきたいならまずは知財を固めておくことをおすすめします」(山﨑氏)

 「知財を固めるための資金を投入できるかどうかは、経営者の意識にかかっています。最近は中小ベンチャーを支援する助成金の制度もあるので、最大限活用しながら、必要な権利をとっていくといいと思います。スタートアップの強みは決断が早く、実行力があること。知財に関しても経営と意識疎通がしっかりと図れたことで、費用面でも選択と集中がうまくいっています。将来、TBMが大きく成長しても意思統一やスピード感を失わないようにしないといけないと考えています」(中村氏)

文●松下典子 聞き手・編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 撮影●曽根田元
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