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スタートアップエコシステムと知財

【「第6回 IP BASE AWARD」スタートアップ支援者部門奨励賞】一般社団法人 TXアントレプレナーパートナーズ 副代表理事 尾﨑典明氏・理事 後藤良子氏インタビュー
“想いで集まるプロ集団”がつくる、技術系スタートアップ支援の流儀

FY2025 インタビュー IP BASE AWARD

2009年の設立以来、研究開発型・技術系スタートアップを中心に累計1,000社以上の支援を続けてきたTXアントレプレナーパートナーズ(TEP)。大学や研究機関、行政、スタートアップと向き合いながら、「事業成長につながるかどうか」を唯一の判断軸として関与のあり方を選び取ってきた。第6回IP BASE AWARD スタートアップ支援者部門 奨励賞を受賞した同団体について、副代表理事の尾﨑典明氏、理事の後藤良子氏に、支援の思想や仕組み、そしてスタートアップエコシステムへの考えを聞いた。

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一般社団法人 TXアントレプレナーパートナーズ 副代表理事
尾﨑典明(おざき・のりあき)氏
2004年九州工業大学大学院・工学研究科物質工学専攻修了。コンサルティング会社にて企業の新事業・新商品開発支援に携わる。2009年S-factory創業、企業に加え、自治体、NPO、スタートアップに対し支援を行う傍ら、官公庁等のアドバイザー等歴任。業種業態問わず、またその事業ステージによらず、それぞれの課題に応じた支援を実践。TXアントレプレナーパートナーズ副代表理事、NEDO スーパーバイザー、筑波大学国際産学連携本部 客員教授も兼務。

柏の葉から始まった、技術を事業につなぐスタートアップ支援

 TXアントレプレナーパートナーズ(以下TEP)は、2009年に設立された技術系スタートアップの支援組織だ。

 TEPの拠点となるのが、千葉県・柏の葉だ。TEP設立の経緯について、後藤氏は「2009年はつくばエクスプレスの『柏の葉キャンパス』という駅ができて間もない時期でした。まちづくりをしている方々と一緒に議論しているなかで、この柏の葉がもっているポテンシャルを活かし、将来的に企業や働く人、住む人の集積を作っていくためにはどうしたらいいかというのを考えていたのがきっかけです」と振り返る。

 柏の葉には東京大学や千葉大学があり、さらに足を延ばせば筑波大学や国立研究機関が集まる。そうした環境の中に、事業化されていない技術シーズが数多く眠っていることに着目した。優れた技術の事業化をサポートする組織を作れば、沿線が盛り上がり、事業が生まれる場になるのではないかという仮説をもって設立されたのがTEPなのである。

 現在TEPは、研究開発型・技術系スタートアップを中心に、プレシードからシード・アーリー期にかけて支援を行っている。「2009年当時、IT系スタートアップは多かったものの、いわゆるディープテック系はまだ着目されていない状態でした。柏の葉という場所柄、我々はディープテック系にフォーカスしました」(尾﨑氏)

 TEPの支援体制は特徴的だ。専従の職員を置く形ではなく、事業、技術、知財、ファイナンス、大学・国研との連携など、それぞれ異なる分野に知見を持つメンバーが関与している。

 尾﨑氏は、こうしたTEPのあり方を「ケイパビリティの集合体」と表現している。「みんな別で本業がある人たちです。だからこそ純粋に『想い』だけで集まった集団と言えると思います」(後藤氏)

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一般社団法人 TXアントレプレナーパートナーズ 理事
後藤良子(ごとう・りょうこ)氏
一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ(TEP)設立に参画、事務局長を経て理事(現職)。建築・都市計画コンサルタントを経て、2011年に株式会社URBANWORKSを設立。柏の葉のまちづくりに関わる中でTEPという組織の設立と、地域のエコシステム形成を構想した。

「事業成長につながるか」を軸にしたTEPの支援

 TEPは行政や大学、研究機関が実施するスタートアップ支援やアクセラレーションプログラムに参画し、案件ごとに支援に関わっている。筑波大学との取り組みは、そうした活動の一例だ。尾﨑氏によれば、関係が始まった当初、筑波大学は大学発スタートアップの取り組みを本格的に進め始めた段階にあり、産学連携部門の担当者から相談を受けたことがきっかけだったという。当時、文部科学省および国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)による「EDGE-NEXT」プログラムが立ち上がり、筑波大学は東京大学やお茶の水大学などと連携する形で採択された。プログラムの運営にあたっては、どのような形で進めていくかを模索する中で、尾﨑氏が関わり、TEPのメンバーとともにプログラムづくりに参画していった。この取り組みは文科省事業として5年間実施され、その後は筑波大学内で独立した形で、周辺の国立研究機関やつくば市などとも連携しながら継続されている。

 もちろん、TEPではスタートアップと直接向き合う支援も行っている。尾﨑氏は、支援において最も大切なのは、その関与が「スタートアップの事業成長につながるかどうか」だと話す。「基本的にスタートアップの事業成長の邪魔にならないようする、ということは常に意識しています」(尾﨑氏)

 スタートアップは限られた時間やリソースの中で事業を進めており、支援者の関与が過度な負担になってしまえば本末転倒になる。そのためTEPでは、スタートアップの状況を踏まえながら、どのような関与が適切かを考えてきた。「支援の押し売りになっていないか、その線引きをしっかりしないと悪辣な支援者になってしまいます」(尾﨑氏)「我々が邪魔になりそうなら、さっと身を引くことは意識しています」(後藤氏)

 研究機関や大学と連携する支援、スタートアップと直接向き合う支援。そのいずれにおいても、TEPが立ち返ってきたのは、そのスタートアップの事業成長につながるかどうかという視点だった。この姿勢は、次に語られる技術や知財の見極めにも通じている。

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TEPが主催するディープテック分野において成長が期待されるシード・アーリー期のスタートアップを認定する事業「J-TECH STARTUP」。今年度で10回目の開催となる。

技術を核にしつつ、判断は事業全体で行う

 TEPが支援対象とするのは、研究開発型スタートアップだ。そのため、技術があることは大前提になる。尾﨑氏は、「やはり技術がコアになると競争力が担保されやすいですよね」と語る。ここでいう技術には、必ずしも特許として成立しているものだけでなく、ノウハウのような形で蓄積された知見も含まれている。「基本的に、TEPが支援する対象としては、『技術をコアにした事業をおこなっていること』が条件として入っています。書類で分からなければ、面談の際に本当にその会社が持っている技術なのかどうかは確認するようにしていますね」(後藤氏)

 一方で、技術があることと、事業として成長することは同義ではない。尾﨑氏は、技術は前提条件である一方、成長の見極めという観点では「事業や人のほうをより重く見ている」と語る。どれほど優れた技術であっても、それが市場や事業の中でどう使われるのかが見えなければ、成長にはつながらない。その意味で、TEPの支援においては、技術だけでなく、事業全体の組み立て方が同時に見られている。

 尾﨑氏は知財についてもテック系スタートアップにおいて何らかの知的資産が存在することは前提だとしたうえで、「特許を取ればいいというものではない」と繰り返し強調する。大企業のように件数を積み上げる余裕はスタートアップにはなく、限られた体力の中で、本当に必要なものにフォーカスする必要がある。

 出願するかどうか、どのタイミングで出すのか、あるいはあえて出さないという選択をするのか。そうした判断は、ファイナンスや事業の進捗とも密接に関わってくる。「スタートアップの知財戦略は、広範囲をカバーする網ではなく、急所を突く『アリの一刺し』である必要があります。メンタリングの際には、優先順位を都度確認するようにしています」(尾﨑氏)

 また、大学や研究機関と関わる研究開発型スタートアップでは、共同研究や共同出願をめぐる問題も少なくない。尾﨑氏は、シード期のスタートアップが、十分に理解しないまま条件の厳しい形で知財を縛られてしまっているケースが多いと指摘する。「そういうときは我々が間に入り、大学側と条件について話し合うこともあります」(尾﨑氏)

 技術や知財は、それ自体が目的になるものではない。事業として競争力を持ち、成長していくために、どう位置づけ、どう使うのか。その判断を事業全体の中で行うことが、TEPの支援における基本的なスタンスとなっている。

相性を見極め、機能する関係を残す仕組み

 TEPがメンターや支援者との関係づくりにおいて重視しているのは、スタートアップと支援者の関係が実際に機能するかどうかだ。

 その土台の一つとなっているのが、「アドバイザリーボード」である。TEPの趣旨や活動に共感する地域行政、公的支援機関、公的研究機関などが参画し、人的協力や情報提供、ネットワーク紹介などを通じてTEPの運営を支え、支援者同士の横のつながりを生んでいる。

 一方で、スタートアップと直接向き合うメンターについては、より慎重な見極めが行われている。その場の一つが、TEP独自の「ビジネスプラン作成セミナー」だ。スタートアップや起業を志す参加者が、専門性を持つメンターとともに磨き上げていくワークショップ型のプログラムである。ブートキャンプ形式で実施され、短期間でビジネスプランの骨子を形にしていく。

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 このセミナーは、スタートアップ支援の場であると同時に、メンターのスクリーニングの役割も担っている。「実際にスタートアップと向き合う場面を見ることである程度力量がわかります。ここで問題なければより責任の重い支援や外部事業へのアサインにつなげていきます」(尾﨑氏)

 加えてTEPでは、支援関係が健全に保たれているかどうかのモニタリングも重視している。支援の際は、理事や事務局、プログラムメンバーなど複数の目で状況を共有している。「スタートアップ側から事務局に相談が入ることもあれば、メンター同士で情報共有が行われ、問題が起こる前に注意点を共有することもあります」(後藤氏)

”黒子”として支え続ける 支援者に求められる視座

 第6回IP BASE AWARD スタートアップ支援者部門 奨励賞の受賞について、尾﨑氏は「細々とできる範囲で活動している団体なので、こういうふうに客観的に評価いただくことは嬉しいしありがたい話だと思います」と振り返った。

 TEPが関わってきたのは、短期間で成果が見えやすい支援ばかりではない。研究成果を起点とするスタートアップでは、事業化までに時間がかかることも多く、途中で前提条件や進む方向が変わることもある。尾﨑氏は、そうしたプロセスを前提に、支援者には物事を俯瞰して見る姿勢が欠かせないと話す。

「タイミングや業種によって状況は違いますし、3年後を見ているのか、10年後を見ているのかで、選ぶべき打ち手も変わってきます。全体を見ながら、今どれを選択するのかを考える必要があります」(尾﨑氏)

 研究開発型スタートアップでは、評価の軸や判断のタイミングを誤ると、後から修正が難しくなることも少なくない。だからこそ尾﨑氏は、支援者自身が長い時間軸を意識しながら、今何を支えるべきなのかを選び取っていく姿勢が重要だと考えている。表に出ることは少なくても、黒子として支え続ける。その視座こそが、TEPの活動を貫いてきたものだと言える。

 こうした考え方を、場を通じて共有し、言葉にして伝えていくこともTEPの役割の一つだ。インタビューや議論の機会を通じて、研究開発型スタートアップ支援における要点を発信していく。その積み重ねが、情報の非対称性による不幸なミスマッチを減らし、結果として健全なエコシステムを育てていくのだろう。

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取材・文●mao 撮影●濱田加奈子
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