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スタートアップエコシステムと知財

Swartz Center for Entrepreneurship エグゼクティブディレクター デイブ・マウィニー氏インタビュー
Appleやディズニーが製品強化で利用 CMUに学ぶ大学発スタートアップ発の技術と文化の育み方

 ロボット工学やAIで米国有数の実績を誇る米ピッツバーグのカーネギーメロン大学。学生発の研究からの起業も盛んで、現在は起業支援センター(Swartz Center for Entrepreneurship)を中核に多数のプログラムを展開している。同センターのエグゼクティブディレクターであるデイブ・マウィニー氏は、日本の京都と米国のニューヨークでハードウェアスタートアップへの投資とサポートを行うMonozukuri Ventures(モノズクリベンチャーズ)のアドバイザーにも名を連ね、日米のパートナーシップを進めている。今回はマウィニー氏に、大学発スタートアップの発案者と大企業が対等に渡り合える仕掛けや、GoogleやApple、Facebook、Amazonなど名だたる大企業が注目する大学と地域でのネットワーキング形成について伺った。

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Swartz Center for Entrepreneurship エグゼクティブディレクター デイブ・マウィニー(Dave Mawhinney)氏
Swartz Center for EntrepreneurshipおよびDonald H. Jones Center for Entrepreneurshipのエグゼクティブディレクター。前職は、インターネットコンテンツおよび広告レコメンデーションエンジンのmSpokeで会長兼CEO(2010年にLinkedInが買収)。同社以前も、Premier Health Exchange(Medibuyが買収)、Hawk Medical(McKessonが買収)、Industry.Net(AT&T Business Networkと合併し、Nets, Inc.を設立)などのスタートアップを共同創業する。
※以下サイトより
https://www.cmu.edu/swartz-center-for-entrepreneurship/about/swartz-center-staff/dave-mawhinney1/index.html

数々の才能を輩出したカーネギーメロン大学の企業支援センター

 ペンシルベニア州ピッツバーグのカーネギーメロン大学(以下、CMU)は、世界トップ50校に数えられる老舗の有名大学だ。芸術、人文・社会科学、数学・自然科学、経営学など7つの専門領域に独自運営する高等教育機関を置き、Javaの生みの親やMac OS Xのカーネルとしても採用されたMach開発者を始めとして、科学者や俳優など多彩な才能を輩出してきた。

 そのCMUのピッツバーグキャンパスの中心に居を構えるのが、Swartz Center for Entrepreneurship(以下、Swartz Center)だ。2016年に設立されたSwartz Centerはいわゆる起業支援センターで、起業を目指す学生向けに教育プログラムやクラブ/勉強会、卒業生やビジネスリーダーによるメンターシップ、投資家やVCの紹介のほか、特許のライセンシング実務窓口などを担う。ビル内にはコワーキングスペースやワークショップスペース、イベントスペースなどがあり、400人以上の起業家たちが登録されている。

 Swartz Centerで扱う領域は、ロボット工学からセンサー、AI/機械学習、医用生体工学や生命科学まで多岐にわたる。中でも現在最も熱いのが、AI/機械学習領域だと同所エグゼクティブディレクターのデイブ・マウィニー氏は言う。

「CMUに研究者として在籍していたハーバート・サイモン氏とアレン・ニューウェル氏は、人工知能分野における貢献でノーベル賞に匹敵するACMチューリング賞を1975年に受賞した、人工知能の祖。AIはCMUで誕生したと言っても過言ではない」(マウィニー氏)

 同大学最初のAI活用事例となったのは、1979年3月に発生したスリーマイル島の原子力発電所事故までさかのぼる。当時CMUで研究していたレッド・ウィッテイカー氏はセンサーと初期段階のAIを組み合わせた探査ロボを開発、汚染エリアの調査やサンプル採取などに貢献した。

 現在もCMU発のAI活用としては、契約書をレビューして中間目標点や契約の予測提案を行うAIソリューション「LegalSifter」、AppleウォッチとiPhoneを使ってリアルタイムのトレーニング情報をAIで学習・分析してパフォーマンス向上などの知見に変える「Delta Trainer」、呼吸装置用のCPAP(持続陽圧呼吸療法)マスクで装着感を調整するAIアルゴリズムなど、事業につながる新たな発明が現在も生まれている。こうした新たな発想をうまく実用化に結び付けるべく、Swartz Centerは学生たちの起業を支援。すでに80社のスタートアップが誕生し、活躍している。

大学発スタートアップの発案者と大企業が対等に渡り合える仕掛けとは

 Swartz Centerでは、「Connects」と呼ばれる教育プログラムを通じて、生まれたばかりのコンセプトを実用化するためのヒントや資金調達の方法、経営といったノウハウを学ぶワークショップを提供している。たとえば「Start Smart Lawシリーズ」では、弁護士が講師となり、スタートアップが起業時に直面するさまざまな法的課題や知財の取り扱い、特許出願の流れなどについて教えてくれる。

「Swartz Centerではこのほか、弁護士による無料相談を1時間受けられるほか、仮出願や会社設立など一部の法的サービスを後払いで受けることができる”スタートアップパッケージ”を用意している。このパッケージは起業したばかりで資金調達できていない、または十分な資本金がない場合も、利益が出始めてから後払いできるうえ、事業に失敗しても支払いの義務を負わないのが良いところ。Swartz Centerでは起業に関わる資金提供は行っているが、法的サービスに関する資金提供はしない」(マウィニー氏)

 CMUでは、学生や教職員などが発案して特許を取得した場合、所有権はその学生にあり、大学側は所有しないと規定している。その一方で、大学側にライセンス管理を委託することも可能だ。その場合も、収益の半分は特許取得者に渡る。

 大学側がライセンス管理する場合の規定は、2000年初頭に明文化されている。たとえば企業が研究開発に資金提供したい場合、大学を窓口に出資金を支払い、独占的ではないものの研究成果の一部をライセンスで利用できる。CMUは出資金のうち5%から11%をロイヤリティとしてもらう。

 同制度はマイクロソフトやIBM、Apple、ディズニーなど米大手企業における機能拡張や製品ポートフォリオの強化などで利用されているという。

「Uberも、自動運転部門(Uber ATG)を設立する際にCMUの研究者を大量に雇用し、Uber ATGがライセンスを受ける形で事業強化を図った。現在Uber ATGはセコイア・キャピタルとアマゾンが出資する自動運転車のスタートアップ、Aurora Innovationが買収した。このAurora創業者に、CMU准教授のDrew Bagnell(ドリュー・バグネル)氏や学生たちが名を連ねている。彼らもCMUからライセンスを受け、さらなる開発に挑んでいる」

 Auroraは最近トヨタとデンソーとのパートナーシップも発表しており、企業価値は約100億ドルに達すると見込まれている。

 CMUに在籍する学生は自らの知財を所有するが、一方で米国政府やスポンサー企業から資金提供を受けている教員の場合、知財は大学所有となる。米国のバイ・ドール法(大学および中小企業特許手続法)では、大学・非営利法人・民間企業が連邦政府による研究資金提供を受けて研究を行った場合、研究実施機関が知的財産権を所有し、ライセンス付与や実用化を進めるものと定めている。異なるのは、連邦政府が研究成果に対する特許を無償で利用できる非独占的ライセンスを保有するという点だ。

 大学はこの所有する知財をスタートアップや大企業にライセンスできる。また教員は大学に残り、ライセンス収入の半分(IP費用控除後)を得るか、IPをライセンスする新興企業に参加し、新しい新興企業の所有権を得ることもできるという。

「他の米大学は、企業による資金提供についてもバイ・ドール法と同じ方向性でライセンスを扱うところが多い」と明かすマウィニー氏。CMUは発案者に決定する権利を委ね、大企業相手でも対等に交渉できる仕掛けを提供することで、スタートアップ文化を大切に育んでいる。

知財で短期的な競合優位性をつくったら、人脈の形成を後押しする

 知財を保護することは、スタートアップの成長において重要だ。しかし、知財はあくまでも短期的な競合優位性を確保する上で必要なものであり、長期的な優位性を得るにはコストや品質で満足度の高いユーザーを増やし、顧客維持率を高めることだとマウィニー氏は断言する。

「ユーザーは心を掴むほどの魅力的な優位性がないと、慣れた製品/サービスから新しいものに乗り換えることはあまりしない。どこよりも早く特許出願して製品を市場投入し、ユーザーを一気に確保する戦略は、ユーザーの怠惰な側面を考えると正しいのかもしれない。ただ、長期的には満足度が維持できなければ離れていく。知財だけに頼らず、ユーザーの満足度についてもきちんと目を向けてほしい」(マウィニー氏)

 もうひとつ、マウィニー氏が起業家たちに伝えていることは、ネットワーキングの重要性だ。

 Swartz Centerは、起業家たちがVCや投資家、弁護士、卒業生などと積極的に対話し、人脈を構築できるよう取り組んでいる。「Swartz Centerの名前にもあるジェームズ・シュワルツ氏は、米国有数のVCであるAccel Partnersの共同創業者で、FacebookやSlackなどの初期段階での機関投資家としても有名だ。そんな彼のおかげで、SequoiaやAndreessen Horowitz、Greylockなど名だたるVCと提携できたほか、米国内外のVCとも協力関係を築くことができた」(マウィニー氏)

 さらにその輪を広げるのは、11万人以上のCMU卒業生たちだ。彼らの中にはスタートアップ創業者や投資家のほか、さまざまな分野で活躍する人材が多い。卒業生の2万5,000人ほどは海外に住んでいるが、こうした同窓生(卒業生)ともオンラインでつながる場を開催しているという。

 また、卒業生のスタートアップ創業者を支援するVentureBridgeプログラムも人気だ。同プログラムではシードファンディング、オフィススペース、メンターやイノベーターの豊富な人脈へのアクセスなどを提供。現在8件のスタートアップが合計2万5,000ドルの投資を受けている。

GoogleやApple、Facebook、Amazonが注目するCMUとピッツバーグ

 このような人脈形成では、シリコンバレーやニューヨーク、ボストン在住の投資家やVC、スタートアップなどとの懇親会が効果を発揮している。

 「ピッツバーグは、西海岸から東海岸へ行くときに通り過ぎるだけの”フライオーバーシティ”だと長らく言われてきた」と笑うマウィニー氏は、相手が通り過ぎるのであればこちらから出向けばいいと、起業家たちを現地に連れて行くプログラムを組んだ。

「そもそも、投資家の多くは面倒くさがりだ。車で30分の距離にスタートアップが山ほどあるわけで、成功率が同じ程度であれば、わざわざ飛行機に乗ってピッツバーグまで遠征したくないのが本音だろう」(マウィニー氏)

 ただし残念なことに、2020年はCOVID-19の影響で各地訪問は見送られた。代わりに、Swartz Centerはプログラムすべてをオンラインに移行し、リモート開催に切り替えている。「とてもうまくいったと思う」と感想を述べるマウィニー氏は、「ホワイトボードやウォータークーラーのそばでランダムに発生する偶然の出会いがないのは残念だが、いずれまたオンサイトで会える日が来る」と今後に期待を寄せる。

 なお、ロボット工学やAIであれば、むしろピッツバーグで起業するのが最善だとマウィニー氏は言う。

「ピッツバーグには現在、70以上のロボット関連のスタートアップがあり、Robotics Rowと呼ばれる地域に集中し、1万人以上の雇用を創出している。生活費も安く、人材もすぐに転職せず、比較的長く勤め上げる人が多い。そうした点に着目してか、GoogleやApple、Facebook、Amazonなどの大手テック企業も、AIやロボット工学、センサーなどの研究と製品開発でピッツバーグに主要拠点を置いている。西海岸のVCもこれまで以上にCMUやピッツバーグの企業に目を向けており、顧客やユーザーを西海岸と変わらないスピードで獲得できることを証明できれば、ピッツバーグの注目はさらに高まるだろう」

 最後に、マウィニー氏にスタートアップが成功するための秘訣について求めると、こう断言した。

「とにかく、多くの人と出会い、つながりを大切すること。この世は詰まるところ、自分が何を知っているかではなく、誰を知っているかが重要だ。人は、信頼や信用に基づき判断する。その信頼や信用は人間関係が育む。より信頼される人間になれるよう、人間関係を広げながらも丁寧に育むことだ。そのうえで、ユーザーを第一に満足してもらえる製品開発に注力すること。それが成功への第一歩だ」

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