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AI編

AI編
AI開発を受託する際の契約方式の選び方 請負型と準委任型

業種や業務、技術カテゴリーなど分野別の知財戦略を専門家にヒアリング。
当該ジャンルの起業・スタートアップに必須の基礎的な知識をお届けします。

テーマ:AI

 AIソフトウェア(学習済みモデル)の開発業務を外注する契約形式は一般的には①「請負型の契約」と②「準委任型の契約」があります。スタートアップがAIソフトウェアの開発を依頼される場合(ベンダになる場合)、請負型の契約を打診されることがありますが、準委任型の契約との違いを十分に理解したうえで、適切な契約方式を選択する必要があります。

 ①請負型の契約は、請負人が注文者に対し仕事の完成を約束し、その履行について法的な責任を負う契約です。与えられた業務を完了できない・仕事を完成できない場合には、ベンダは報酬の支払いを受けられないだけではなく、ユーザに対し損害賠償責任を負う可能性があります。また、成果物に契約不適合がある場合、(a)その不適合を知ったタイミングから1年以内にベンダに対しこれを通知し、かつ、(b)その不適合を知った日から5年以内かつ引渡しまたは仕事の完成から10年以内に請求をした場合には、ユーザは、ベンダより、修補・減額・損害賠償・契約解除等の救済を受けることが可能です。

 他方、②準委任型の契約は、契約で合意された仕事を一定の水準、善良な管理者の注意のもと実施することに対して、対価と責任が発生する契約類型です。準委任型の契約では、受任者は仕事の完成に対して、法的な責任を負いません。

 準委任型の契約には、(i)委任された事務を履行した場合に委任者に報酬の支払義務が発生する「履行割合型」の契約と、(ii)成果の引き渡しと引き換えに報酬の支払義務が生じる「成果完成型」の契約があります。後者の場合、ベンダは事実上、仕事の完成義務を負っているに等しい利益状況にあります。

 AIソフトウェアは、学習用データを用いて帰納的に生成される性質上、その精度は、学習用データのデータ量と質に依存し、未知の事象に対する推論精度の保証が難しい制約があります。このこともあって、ベンダとしては、少なくとも、一定の精度を有するAIソフトウェアの生成について法的な責任(契約不適合責任)を負う「①請負型の契約」を締結することに難色を示すことが一般的です。

 しかし、ユーザとしても、何らかの成果がなければ、開発費用を支払うことができないとして、「②(i)履行割合型の準委任型契約」の締結は受けいれられない場合も少なくありません。そこで、折衷案として、法的な責任は負わないけれど、ベンダが事実上の完成責任を負う「②(ii)成果完成型の準委任型契約」が落としどころになりうるでしょう(成果完成型の準委任型契約といっても請負型の契約とは異なるため、契約不適合のない成果の引渡し義務についてベンダが責任を負うことはありません)

 ただし、この場合でも何をもって「完成」とするのかは別途問題になりうることには注意が必要です。関係者や、必要に応じて専門家と相談しながら、案件ごとの個別事情を考慮した上で、双方協議の上で、適切にその範囲を確定していくことが求められます。

 以上の議論は、あくまでもAIソフトウェア単体が開発対象になる場合を想定するものですが、実際には、それらを含んだシステムが開発対象になることもあるでしょう。一般的には、AIによる推論結果の不確実性を前提としても、システムが全体として備えるべき性能が追及されうることから、「請負型の契約」を締結する合理性がより認められる場合もあるでしょう。そのため、ベンダ・ユーザのいずれも「AIだから性能保証は難しい」という固定観念にとらわれることなく、開発対象を踏まえた条件交渉をすることが重要といえます。

 AIソフトウェアの開発については、経済産業省「AI・データの利活用に関する契約ガイドライン」(AI編)にも基本的な考え方が説明されていますので、参考にしてください。