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AI編

AI編
AI開発における検収と性能要件の違いは?

業種や業務、技術カテゴリーなど分野別の知財戦略を専門家にヒアリング。
当該ジャンルの起業・スタートアップに必須の基礎的な知識をお届けします。

テーマ:AI

 AIソフトウェア(学習済みモデル)開発を請負型の契約として受託する場合、開発対象となるソフトウェアの検収と性能評価の問題は、ベンダとユーザとの間で争いが生じやすいところです。実務では、検収と性能要件は同一視されることもありますが、その位置づけは異なります。

 具体的には「検収」はソフトウェアが完成したか否かを確認する工程を意味することが一般的であり、裁判例では、開発で予定されていた最後の工程が完了した場合にソフトウェアが完成したと評価するものがあります。AI開発の場合、過学習の問題はあるものの、たとえば所定のテストデータで一定の性能を発揮したことを一応の最終工程とすることが考えられます。

 他方、検収が完了しても、そのソフトウェアが契約で合意された「性能」を備えていることには直ちにはならず、契約不適合責任の有無は別問題です。画像認識AIを用いた欠陥検知のソフトウェアを例にすると、テストデータとして提供された欠陥をうまく検知できたことから検収は完了したものの、「実際の現場で使ったら想定した欠陥がうまく検知できない」といった事態がありうるでしょう。

 契約する際には、検収条件とは別に、開発対象となるソフトウェアが具体的にどのような性能を備えるべきものなのか、たとえば、仕様書の範囲に限定されるのか、それとも、対象ソフトウェアが一般的に備えるべき性能を有している必要があるのかといった点を意識して契約条件を定めることが重要です(その結果、検収条件と性能を一致させることが適切な場合もあるでしょう)。

 もっとも、AI開発が外部委託される場合、ベンダとユーザとの間に技術的知見・経験に隔たりがあることが一般的であり、また開発手法が帰納的アプローチによることも相まって、契約締結段階での詳細な仕様確定が難しい場合も少なくありません。このような場合、当初から仕様を定めるのではなく、ベンダ・ユーザ間において協議をし、検収・性能要件を確定させるプロセスを入れ込むことも工夫の一つでしょう。

 また、たとえばAIソフトウェアの開発完了後も、ベンダが、ユーザに対し、同ソフトウェアの利用に必要なクラウドサービスを継続提供するような場合には、当初開発で一回的に性能を追及するのではなく、それに続く、サービス提供や保守などの過程において、段階的に性能を向上させる等の対応も検討に値するでしょう。

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