AI編
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知的財産権を確保すれば十分か? ソースコード開示も議論に
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テーマ:AI
AIソフトウェア(学習済みモデル)の開発契約におけるベンダとユーザ間の交渉において、知的財産権の帰属、特に、著作権の帰属が議論の対象になることは少なくありません(もちろん、特許を受ける権利や特許権の帰属も重要ですが、いわゆるバックグラウンドIPとして整理をすることが少なくないため、以下主に著作権の取扱いを念頭に説明します)。
契約の定めがない場合には、AIソフトウェアの著作権は、その創作に直接寄与したベンダに帰属することが一般的です。そのため、ユーザがAIソフトウェアを自ら改良するなどの利用を希望する場合、ユーザはベンダより、その著作権の譲渡を受けるか、必要な支分権の利用許諾(ライセンス)を受ける必要があります(特に著作法27条の権利に関するものが重要です)。
ただし、著作権や利用許諾を得たとしても、ユーザはベンダより、対象ソフトウェアのソースコード開示を当然に受けられるわけではないため、別途手当が必要になります。
多くの場合、ソースコードはベンダの事業価値である正に虎の子の資産であり、これを納品することで、自社が意図していない形でソフトウェアを改変・利用されるなどの事業価値毀損のリスクが高まります。そのため、ベンダは、ソースコード形式での納品を避けるか、あるいは、リスクに見合うだけの対価の支払がなければこれを任意に開示しないことが多いでしょう。
特にAI開発をその事業の中核に位置付けるスタートアップの場合、AIソフトウェアのソースコードの開示を伴うライセンスアウトを選択するか否かは慎重に検討するべきです。近年ではユーザから提供を受けたデータを用いて、自社サーバにてAIソフトウェアにより解析を実施し、その結果のみをユーザに提供することで自社ノウハウや秘密情報の開示を必要最小限に抑える対応を取る場合も少なくありません。
ただし、ソースコードを開示することが適切か否かは、開発するソフトウェアの性質によっても異なります。発注した企業以外による利用が難しい特殊性の高いプログラムであれば、開示して対価を受け取るほうがメリットが大きい場合もあるため、事案に即した判断が重要です。
また、ユーザの立場では、具体的な改良などが予定されている場合には、著作権を取得したり、ライセンス設定を受けるのみならず、ソースコードの開示を受ける必要があるため、これを契約に明示することが重要でしょう。加えて、著作権の譲渡を受ける場合であっても、著作者人格権はそもそも著作者に一身専属的な権利のため、契約でその不行使を約束させることも大切です。