イベント告知・レポート
オンラインセミナー「自社の事業を守るためにスタートアップ企業が知っておきたい知財戦略と契約 by IP BASE in 堺市」を開催しました!
特許庁スタートアップ支援班は2022年11月30日、堺市との共催セミナーイベント「自社の事業を守るためにスタートアップ企業が知っておきたい知財戦略と契約 by IP BASE in 堺市」をオンライン配信にて実施した。創業期のスタートアップは知財権の取得を怠りがちだが、早期に知財戦略を構築し、適切に知財権を取得しておくことは将来のリスク回避や資金調達、大手企業との協業にも重要だ。本セミナーでは「事業を守るための知財戦略と契約」をテーマに専門家による講演とパネルディスカッションが行なわれた。
特許庁のスタートアップ支援施策
冒頭では、特許庁総務部企画調査課 課長補佐の芝沼隆太氏が特許庁のスタートアップ支援施策を紹介した。
スタートアップの企業価値は「技術とアイデア」、いわゆる「知財」に集約されるが、創業期のスタートアップの知財意識は低い。しかし、知財戦略が不十分だとVC等による資金調達やM&AなどEXITの機会を逸失するリスクがある。
特許庁では、スタートアップの知財活動を支援するため、知財アクセラレーションプログラムIPASとIP BASEの2つを実施している。
IPASは、ビジネスの専門家と知財の専門家で構成された知財メンタリングチームをスタートアップに派遣し、ビジネス戦略に連動した知財戦略の構築をハンズオン支援するプログラムだ。過去4年間で60社を支援し、うち2社はEXIT(IPO1社、M&A1社)に至っている。また、プログラムで得られた知見を横展開するため、3つの事例集を作成し、スタートアップ向け知財コミュニティサイト「IP BASE」で公開中だ。
IPASの支援を体験できる2時間のスポットメンタリングも公募しているので、知財戦略やビジネスの方向性などに悩みがある方は、気軽に応募してみよう。起業準備中の個人でも応募可能だ。
IP BASEは、スタートアップ向けの知財コミュニティの活動促進を目的として、ウェブサイトでの情報発信を中心に、無料登録できる会員向けの勉強会や主催イベントを開催している。そのほかスタートアップ向け支援として、平均2.5か月で審査結果が出るスーパー早期審査や特許料など手数料が3分の1になる軽減制度があるので上手に活用しよう。
YouTubeのIP BASEチャンネルでは知財の基礎知識などを5分程度の動画を配信
基調講演「スタートアップ企業の知財戦略」
基調講演では、OEK弁理士事務所 代表弁理士、日本弁理士会 関西会 副会長 大池聞平氏が「スタートアップ企業の知財戦略」をテーマに講演した。
まず知財の基本として、主な知的財産は、発明、意匠(デザイン)、商標(ブランド)、ノウハウの4つ。発明は特許権と実用新案権、意匠は意匠権、商標は商標権など知的財産権の取得で保護され、ノウハウについては秘匿することで保護される。経営者は、何がどのように保護できるのかをまず知っておきたい。
特許は技術的に高度でないと思われがちだが、実はそれほどハードルは高くなく、国内の特許の査定率は75%と高くなっている。自社のアイデアを保護したいと思ったら、自己判断ではなく、まずは専門家に相談してみよう。
知的財産権は、競合他社との差別化要因を保護することができ、また、独占排他権を利用して参入障壁を築くことで事業計画と目標の実現にも役立つ。初期費用がかかるが必要な投資として検討すべきだろう。
知的財産権の活用方法としては、金融機関やVCからの資金調達、大手企業や大学との共同研究やアライアンス、取引先や顧客への信頼向上、他社へのライセンスや売却などが考えられる。
出願から権利発生までのポイントとして、内容の追加出願(国内優先)や国際出願をする場合の期限は1年間、審査料の支払い期限は3年なので、戦略的に審査を遅らせることもできる。
知財戦略は、事業を強くすることを目的とした、企業内の知的財産の取り扱いの方針のこと。知財戦略を策定するポイントは、まず知財の創造、保護、活用の3つの観点を意識し、加えて知財リスクの回避についても考えること。
最後に、スタートアップは大手に比べて経営者自身が知財活動の中心にいるため、知財経営をしやすいのが強み。知財戦略を推進していくため、経営者自身が知財の目利きになり、外部の専門家と連携しながら、知財をうまく活用してほしい、とまとめた。
「オープンイノベーション促進のためのモデル契約書」について
続いて、特許庁の芝沼氏の講演では「オープンイノベーション促進のためのモデル契約書」を紹介。政府は、令和4年6月7日に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」のなかで、「イノベーションを促進するには(1)スタートアップの創業促進と、(2)既存大企業がオープンイノベーションを行う環境整備、の双方が不可欠である」と述べている。
「モデル契約書」は、公正取引委員会と経済産業省が大企業とスタートアップ企業の契約のあるべき姿・考え方をまとめた「スタートアップとの事業連携に関する指針」(2021年3月29日)を具体化するためのツールとして特許庁と経済産業省が作成したものだ。
特許庁のオープンイノベーションポータルサイトに「新素材編」、「AI編」、「大学編」が公開されている。モデル契約書は、契約書のひな型を示すだけでなく、具体的な契約シーンを想定し、条項のポイントが詳しく解説されているのが特徴である。また、大手企業とスタートアップ双方の事業価値を最大化することを基本理念としているのもポイントだ。
オープンイノベーションポータルサイトには、モデル契約書についてわかりやすくまとめた解説パンフレットが公開されている。興味のある方はまずはこちらを読んでみよう。
パネルディスカッション「大手企業等との契約や知財戦略でスタートアップが注意すべきこと」
後半のパネルディスカッションは、「大手企業等との契約や知財戦略でスタートアップが注意すべきこと」がテーマ。パネリストとして大池聞平弁理士とRehabilitation3.0株式会社 代表取締役 増田浩和氏、モデレーターとして特許庁の芝沼隆太氏が参加した。
Rehabilitation3.0株式会社の増田浩和氏は、作業療法士として18年の臨床経験、在宅リハビリの会社経営の経験から、AIを用いて健康変化の早期発見やパフォーマンス向上をはかる「SAAシステム」を開発。睡眠中の心拍数や呼吸数、体動のセンシング情報から運動能力・認知機能を推定するAIに関連する特許2件を取得済みで、米国、欧州、中国でも出願中。また新たな技術を開発し、3件目の特許として出願を準備しているとのこと。
増田氏が出願で苦労した点として「弁理士の探し方がわからなかったこと」「特許の知識が乏しかったので、事業化を目指しながら同時に特許の準備をしないといけないのが大変だったこと」があるという。弁理士を堺市の産業振興センターに相談して紹介してもらい、不足していた知財知識も教えてもらえたとのこと。特許を取得したことで、企業との協業や投資家からの資金調達で有利に働いたと実感しているそうだ。
大池氏はスタートアップが陥りやすい特許の注意点として、「出願前に発明を開示して新規性を失ってしまうことを挙げた。1年以内であれば救済される可能性があるが、海外では救済措置が受けられない場合があるので気を付けてほしい。また特許出願について、早期権利化も考えられるが、開発過程にある場合は1年以内であれば内容の追加修正もできるのでより内容を盛り込んでから審査を進めるのも手もある」とアドバイスした。
また弁理士に相談する際のポイントとして、「知財は企業側が主体。弁理士にお任せではなく、強い権利を取るには発明者がいちばん詳しいので、さまざまなバリエーションを盛り込み、弁理士が作成した出願書類をしっかりチェックすることが大事」とのこと。これからスタートアップを支援する専門家に対しては「初期段階のスタートアップは知財知識が乏しいので、コミュニケーションを大事にしてほしい。モデル契約書など具体的なケースや資料も使うと議論がしやすい」とアドバイスした。
スタートアップへのメッセージとして、増田氏は「知財は大きな武器になるので、ぜひチャレンジしてもらいたい。お金はかかるが、その費用が作れないのなら事業化は難しいと考えたほうがいい。」と語った。
大池氏は「最初の出願は勇気がいると思うが、特許が取れない製品は結局、他社に参入されて負けてしまう。長く残るのは特許を取った製品。思い切って知財を戦略的に活用して成長させていただきたい。」と語った。
イベントの模様は下記、YouTubeにて全編アーカイブ配信中です。
■タイムスケジュール再生リスト
開会のあいさつ、「特許庁のスタートアップ支援施策」
特許庁 スタートアップ支援班長 芝沼隆太氏
基調講演 「スタートアップ企業の知財戦略」
OEK弁理士事務所、日本弁理士会 関西会 副会長 大池聞平氏
「オープンイノベーション促進のためのモデル契約書」
特許庁 スタートアップ支援班長 芝沼隆太氏
パネルディスカッション「大手企業等との契約や知財戦略でスタートアップが注意すべきこと」
司会 特許庁 スタートアップ支援班長 芝沼隆太氏
パネリスト OEK弁理士事務所、日本弁理士会 関西会 副会長 大池聞平氏
Rehabilitation3.0株式会社 代表取締役 増田浩和氏