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イベントレポート

日本弁理士会主催セミナー「スタートアップ企業における外部に向けた知財活動について~社内啓蒙から社外へのアピールまで~」を共催しました!

 2022年12月2日、日本弁理士会の主催、特許庁スタートアップ支援班の共催で、スタートアップおよびスタートアップの関係者向けセミナー「スタートアップ企業における外部に向けた知財活動について~社内啓蒙から社外へのアピールまで~」を開催、ライブ配信した。パネルディスカッションには、現在スケールアップしている元スタートアップ企業の知的財産担当者、弁理士、特許庁職員が参加し、スタートアップにおける知財の活用方法や知財活動を社内風土として定着させる具体的事例が紹介された。

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 セミナー冒頭では、開催の挨拶として日本弁理士会会長 杉村純子氏が登壇。

「知的財産はスタートアップの事業活動を支え、安定した経営をもたらす重要なツールです。ここ数年は新型コロナ感染症の影響で経済社会システムのあり方が大きく変化しました。そのなかで経済が持続的な成長を実現するには、新たに創造された技術やアイデアをスピーディに事業化につなげていくことが必要です。また大学や研究機関に埋もれている知財の見える化を進めていくことなど、今後推進すべき多くの課題がありますが、このイベントがスタートアップや産学連携による研究成果を基にした知的財産の社会的実装の実現、そして知的財産をVCや銀行からの融資の強化が推進される大きな契機となることを願っています」と語った。

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日本弁理士会 会長 杉村純子氏

●特許庁のスタートアップへの取り組み

 次に、特許庁スタートアップ支援班 班長 芝沼隆太氏が特許庁のスタートアップへの取り組みとして、知財アクセラレーションプログラムIPASとスタートアップの知財コミュニティポータルサイト「IP BASE」について説明した。

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特許庁スタートアップ支援班 班長 芝沼隆太氏

 スタートアップを対象とした知財活用の効果についてのアンケートでは、「資金調達への貢献」と回答した企業が多かったという。そのほか、信用とブランドの向上、業務提携、協業企業への参入防止、社内の意識向上、優秀な人材確保などが挙げられており、創業期のスタートアップにとって、知財は事業の継続や成長に直結する。

 スタートアップの知財の取得と活用を支援するため、特許庁では、スタートアップの知財戦略構築をハンズオン支援する「知財アクセラレーションプログラムIPAS」と知財コミュニティの活動を促進する「IP BASE」の2つの事業を実施している。

 IPASは、ビジネスの専門家と知財の専門家で構成された知財メンタリングチームをスタートアップに派遣し、ビジネス戦略に連動した知財戦略の構築を支援するプログラム。

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 IP BASEは、ウェブサイトを中心に、知財の基礎知識、先輩起業家や専門家へのインタビュー記事やIPAS事例集の掲載などの情報発信のほか、無料会員向けの勉強会の開催や、知財専門家の検索ページの提供も行っている。またYouTubeでも5分間の短い動画でわかりやすく知財情報を発信している。

 また、新たな取り組みとして、2022年度から「ベンチャーキャピタルへの知財専門家派遣調査事業」を試行的に実施している。VCに知財専門家を派遣することでVCに知財戦略構築支援の知見を蓄積し、VCを介したスタートアップへの知財支援を充実させるのが狙い。来年度は派遣先を公募する形で本格実施に移行する予定だ。

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●日本弁理士会のスタートアップ知財支援事業

 続いて、日本弁理士会 知的財産経営センター 大澤豊氏が「スタートアップの皆様に向けた日本弁理士会の取り組み」と題して、日本弁理士会が実施しているスタートアップ向けの事業を紹介した。

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日本弁理士会 知的財産経営センター 担当副センター長(第1事業部長)大澤豊氏

 日本弁理士会は2022年1月に「スタートアップ知財支援元年」を改めて宣言し、ベンチャー・スタートアップ企業への支援に特に力を入れている。

 本年度は、スタートアップ向けセミナーの開催、知財コンサルティング支援(弁理士知財キャラバン)、出願支援制度、JPAA知財塾、ブランド戦略セミナーなどの事業を実施。

 知財コンサルティング支援は、コンサルティングスキルを持った弁理士が2名1組で3回訪問し、課題を抽出し、解決するための戦略を提案してくれる。費用は弁理士会が負担するので会社や製品の知名度向上や共同開発などで課題を抱えている企業は利用してみては。

 出願支援制度は2022年度から新設された制度で、知財コンサルティング支援のなかで知財権の取得が必要と判断されたケースで、出願にかかる弁理士費用や印紙代の一部の補助が受けられる。現在は2023年3月まで知財コンサルティング支援を利用して出願支援を申し込む必要があるので、興味のある方はお早めに。

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知財コンサルティング支援(弁理士知財キャラバン)

 知財に関する弁理士に対する相談を一元的に受け付ける日本弁理士会の窓口として「JPAA知財サポートデスク」が設置されている。知財について相談したいけれど、どこに問い合わせればいいのかわからないときは、まず「JPAA知財サポートデスク」に連絡しよう。

 日本弁理士会では、無料の知的財産相談室を常設しており、「特許・実用新案・意匠・商標の出願手続き、調査、異議申し立て、訴訟」のほか、諸外国の制度や知的財産権全般について弁理士が無料で相談にのってくれる。「北海道・東北・北陸・関東・東海・関西・中国・四国・九州」の各地域の地域会が開催しているので、近くの地域会、または上述のJPAA知財サポートデスクに問い合わせよう。

 日本弁理士会関東会 中小企業・スタートアップ支援委員会では、ウェブサイト「スタートアップのための知財入門-成長に役立つ知財の話-」を開設している。スタートアップに役立つコンテンツを公開しているので、知財についてもっと知りたい方はチェックしてみては。

スタートアップのための特許入門-成長に役立つ知財の話-

●パネルディスカッション「スタートアップ企業における外部に向けた知財活用について」

 パネルディスカッションのテーマは「スタートアップ企業における外部に向けた知財活用について」。パネリストには、Spiber株式会社 執行役員 知的財産管理室 蒋李氏、株式会社オプティム 社長室知的財産ユニット マネージャー 村井慶史氏、株式会社マネーフォワード 知財戦略部部長 小日向小百合氏、株式会社ビードットメディカル コーポレート本部 知的財産室 室長 髙栁弘泰氏、特許庁 総務部 企画調査課 課長補佐(スタートアップ支援班長)芝沼隆太氏が登壇。モデレーターとしてピクシーダストテクノロジーズ株式会社 IP & Legal Team リーダ 弁理士 木本大介氏が参加した。

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ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 IP & Legal Team リーダ 弁理士 木本大介氏

 最初のトピックは「知財の社内啓蒙のために工夫していることは?」。

 小日向氏は、社内のチャットツールに身近な知財ニュースをわかりやすく説明して共有するなど、社員が日常的に知財に触れる機会を作っているそうだ。また、村井氏は「社内ポータルに特許や商標の話を載せ、セールスの人に関連特許を提案書に盛り込んでもらうようにしている」とコメント。蒋氏は「知財啓蒙には知財の創出とリスクの2つの面があるので、研究開発の方針として他社と重なる開発を避けるために、特許調査をする啓蒙を行なっている。また、リスク対策については、定期的に営業秘密の全社講習の実施、プレスリリースの際に商標のガイドラインに従い、適用されているかどうかを知財部でチェックをしている」とのこと。髙栁氏は「技術部門、営業部門の部署ごとに時間をいただき、設定したテーマで話をしている」と話した。

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株式会社マネーフォワード 知財戦略部部長 小日向小百合氏

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株式会社ビードットメディカル コーポレート本部 知的財産室 室長 髙栁弘泰氏

「知財情報のアピールは、社外のどんな人に刺さるのか?」のトピックでは、企業との交渉やアライアンスのツールに使っている、顧客へのアピール、投資家への情報発信に有効などの事例が紹介された。各社とも信用を得るためのツールとしてうまく知財を活用しているようだ。

 「知財活動の成功事例、個人的に会社に貢献したと思った事例」のトピックでは、小日向氏「会社への貢献としては、知財につながるネーミング、機能、デザインの相談が増えたこと」、村井氏「発明協会への賞に応募したら文部科学大臣賞がもらえた。PRにもなるし、人脈も増えた」、蒋氏「知財の人的リソースが限られるなか、特許の実務者の半分は研究部署の方の異動。私自身も知財部に入るまで知財の知識はゼロだったが、外部の研修を受けて短時間で育成し、実務経験は半年くらいで特許や商標の実務ができるようになった。知財部員が研究開発部出身なので、開発の話を理解しやすく、方向性のズレがなく外部に依頼するよりもスムーズになっている」と話した。

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Spiber株式会社執行役員 知的財産管理室 蒋李氏

「知財の成果を経営者へ報告するときに工夫していること・苦労していることは?(定量評価/KPIは何? ROIの証明は?)」というトピックでは、小日向氏「事業軸で報告することを心がけている」、村井氏「定量的に測っているのは出願件数と経費。なるべく低コストでいい特許をとるようにしている」、蒋氏「月1回の知財委員会で社長を含めて各技術部署の役員が参加し、海外出願の予算、出願国の検討など重要な知財活動は全社的に情報を収集して方針を決めている」などと紹介した。

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株式会社オプティム 社長室知的財産ユニット マネージャー 村井慶史氏

 経営者が知財にあまり積極的でない場合、予算をどのように得るのかも悩ましい問題だ。

「経営者を振り向かせるテクニック」として、小日向氏「やらなかったときに発生し得る影響について具体的事例を示して説明するのがいいと思う」、髙栁氏「知財部だけでは弱いので、セールスや開発部など、ほかの部署を巻き込むと経営者に響きやすい」、村井氏「競合が出している、というのも効果的」といった意見が出た。

 最後に今回のまとめとして、

小日向氏「創業期は知財財産には意識が向きにくい。今日の話を参考にビジネスに関連付けた話をすると知財に目が向けてもらえるようになるのでは」、村井氏「社員は社長が言わないことはやりづらい。トップから問いかけて社内を啓蒙していくといい」、蒋氏「研究者出身の知財部員は技術を理解できるが、知財とビジネスを総合的に理解できる人材は限られている。スタートアップの知財に対応できる人材をもっと育てていく必要があると思います」と語った。

 イベントの模様は下記、YouTubeにて全編アーカイブ配信中です。

■タイムスケジュール再生リスト
開会挨拶
日本弁理士会会長 杉村純子氏
特許庁のスタートアップへの取り組みの紹介
特許庁スタートアップ支援班 班長 芝沼隆太氏
弁理士会のスタートアップへの取り組みの紹介
日本弁理士会 知的財産経営センター 大澤豊氏
パネルディスカッション「スタートアップ企業における外部に向けた知財活用について
パネラー:
蒋李氏 Spiber株式会社 知的財産管理室 執行役員
村井慶史氏 株式会社オプティム 社長室知的財産ユニット マネージャー
小日向小百合氏 株式会社マネーフォワード 知財戦略部部長
髙栁弘泰氏 株式会社ビードットメディカル コーポレート本部 知的財産室 室長
芝沼隆太氏 特許庁 企画調査課 課長補佐(スタートアップ支援班長)
モデレーター:
木本大介氏 ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 IP & Legal Function リーダ 弁理士

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