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イベントレポート

「NFT Summit Tokyo 2022 Winter」にて、セッション「知財とNFTについて」に参加しました!

 特許庁スタートアップ支援班は2022年12月13日、東京都立産業貿易センター浜松町館ビルで開催されたWeb3.0に関する国際カンファレンス「NFT Summit Tokyo」にて、「NFTの知財戦略」をテーマにトークセッションを実施。株式会社メモリア 代表取締役社長 木崎智之氏、IPTech弁理士法人 代表弁理士/公認会計士の安高史朗氏、特許庁スタートアップ支援班長の芝沼隆太氏が登壇し、NFTを活用したサービスの知財戦略について話し合った。

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 パネルディスカッション「NFTの知財戦略」には、スピーカーとして株式会社メモリア 代表取締役社長 木崎智之氏とIPTech弁理士法人 代表弁理士/公認会計士の安高史朗氏、インタビュアーとして特許庁総務部企画調査課 課長補佐の芝沼隆太氏が参加した。

 木崎氏は、大学在学中から起業し、2021年6月に5社目の創業となる株式会社メモリアを設立。NFTマーケットプレイス「memoria」、移転不可能なNFT付与サービス「memoria SPOT」の開発・運営と、企業向けの「NFT丸投げ支援サービス」を提供している。以前に立ち上げた株式会社リクポでは、検索のいらないサロン予約アプリ「requpo」等のサービスに関する特許を3件取得している。

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株式会社メモリア 代表取締役社長 木崎智之氏

 「memoria」では、エイベックス・クリエイター・エージェンシー株式会社のアート作品のNFTや、フジテレビ主催のお笑いネタバトル「ネタバース」のネタ動画NFTなどを販売。「NFTマーケティング丸投げ支援サービス」では、株式会社ベクトル子会社の株式会社INFLUENCER BANKと業務提携して、共同でサービスを提供している。事例として、大手保険会社様の内定式で、ひとりひとりに異なるメッセージが入った世界にひとつだけの内定証明書をNFT化して内定者に贈る企画を実施したという。こちらの企画では、移転不可能なNFT付与サービス「memoria SPOT」が活用されている。

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 安高氏は、大学卒業後、特許庁に入庁。野村総合研究所で知財コンサルティング、ヤフー株式会社の知財法務を経て、2016年に独立。2018年に法人化し、IPTech特許業務法人を設立し、IT系スタートアップに特化した支援活動をしている。また、ASCII STARTUPでの連載「知財で読み解くITビジネスby IPTech」、YouTubeの「安高史朗の知財解説チャンネル」など積極的に知財情報を発信。

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IPTech弁理士法人 代表弁理士/公認会計士 安高史朗氏

 以下、パネルディスカッションの一部をお届けする。

芝沼氏(以下、敬称略):木崎さんは、立ち上げた会社の事業で特許を取得されたそうですが、現在のメモリアでも特許は取られているのでしょうか?

木崎氏(以下、敬称略):メモリアとしてはまだ特許の申請はしていないので、この機会に安高先生に相談させてもらいたいと考えているので、よろしくお願いいたします。

芝沼:公開の場ですから、具体的な内容をしゃべりすぎないようにお気をつけくださいね。まず、メモリアの事業について教えていただけますか。

木崎:ブランディング型のNFTマーケットプレイス「memoria」と、移転不可能なNFTを付与するサービス「memoria SPOT」の2つの事業を中心に運営しています。「memoria」は、IPホルダー、つまりクリエイターさんの特設ページを作成して、その世界観の中でNFTを販売して買っていただく形を取っています。なぜこの仕組みにしているかというと、大手企業からすると、誰でも一律にNFTを販売することができるような場では、自社のブランディングされているコンテンツの世界観をコントロールするのが難しいという課題があり、それを解決するサービスになっています。

 もうひとつの移転不可能なNFTを付与するサービス「memoria SPOT」は、POAPという仕組みの応用で、海外ではアディダスやワーナーミュージックがイベントの来場者にPOAPの仕組みを活用してNFTを配布しています。その日その場にいた人しかそのNFTを獲得することができず、獲得後に他人に譲渡することはできないので、本当に熱量の高いファンを可視化することが可能になるわけですね。

 これを活用するとスタンプラリーのようなこともできますし、国内ではO2O(Online to Offline)の企画をやってみたい企業からの引き合いも非常に多いです。今後の展開も含めて特許の取得も考えており、相談できたらと思っています。

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特許庁総務部企画調査課 課長補佐(スタートアップ支援班長)芝沼隆太氏

安高氏(以下、敬称略):方向性ということで言うと、今伺った範囲でも結構取れそうなポイントがありますね。IT系の特許って、ディープテックで汎用的な技術に関する特許と、既存の技術をどう工夫しているかというビジネスモデル的・UI的な特許との2種類に分かれます。木崎さんの場合は、後者のほうですよね。

 移転を制限するNFTの話も、技術的にはCOAPの仕組みを使っているけれども、GPSを使うなど制御の仕方の工夫の部分で特許が取れる可能性があります。

木崎:移転不可能な仕組み自体は既にあったとしても、移転不可能×GPSだと独自の発明として申請できるのですね。

安高:特許は発明としての新規性と進歩性があればいいので、審査官は、近いものが過去にあるかどうかを調べます。仕組みはPOAPがあるけれど、何か別の情報と組み合わせて制限するものは意外にないと思うんですよ。

芝沼:そうですね。過去に例がないと、新規性進歩性あり、という判断になります。技術の部分だと、論文などで引っかかることがありますが、ビジネスモデル的なものは差別化しやすい印象ですね。

木崎:ぜひ申請したいと思います。

安高:マーケットプレイスのほうも、ブランディング型はUI/UXを工夫されていますので、見せ方でも特許が取れそうです。

木崎:具体的には、UI/UXの部分でどうやって特許を取ればいいんですかね?

安高:見た目のデザイン自体では難しいですが、UX的なところ、操作をどのように実現しているのかという技術とデザインを絡めると取れる可能性があります。

木崎:ぜひ後ほどご相談させてください。

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安高:ブロックチェーンとNFTの特許については、ブロックチェーンは2016年頃から増え始めて、年に2、3000件が出願されています。一方NFTはまだ新しくて、2、3年前から出始めてはいるものの、数十件というペースで、ここから急増すると予想しています。

 ブロックチェーン特許の事例として、酒樽にセンサーを付けて状態をハッシュ化し、オープンブロックチェーンで管理し、所有証明書をNFTで配る、という特許が登録されています。酒樽×センサーの組み合わせの珍しさから引例がなく特許になった可能性があります。

 NFT系はテック系よりもむしろアプリケーション寄りの特許のほうが多い気がします。

安高:Web3で特許の取り方ががらりと変わるかどうかは意見が分かれるところ。テクニカルな面で言うと、DAOのような組織だとどこに権利行使をするのか?という話はあります。またWeb3の非中央集権的というコンセプトが特許制度との相性が悪いという意見もあります。ただ、これも初期のインターネットカルチャーに近いものがあり、OSS分野などインターネット原理主義的なエンジニアは特許が嫌いだったのに、いまはGoogleもFacebookも特許を取りまくっている。僕の予想だと、Web3もいずれは特許を取るようになるだろうし、巨大テック企業の一極集中から守るためにも、新しいテック企業がいろいろな特許を取っていくのは健全な気がしています。

芝沼:業界がどういう方向に進むのかわからない部分を含めて、特許戦略なんですね。スタートアップが特許を取る余地は十分あるので、世間の盛り上がりも予想しつつ、うまく進めていくといいですよね。

安高:メモリアさんのポジションでは競合企業が出る可能性があるので、優位性を保つためにも特許を取っておくのが重要、というのがオーソドックスな考え方だと思います。

木崎:Web3で特許を取得している大企業はまだ少ないので、スタートアップにとってはチャンス。自社のサービスを守るために、いま特許を取っていくのはアリかな、と思います。

芝沼:特許庁でもスタートアップに特許を取ってもらうための支援をしています。知財を活用して役に立ったかを調査したところ、「資金調達に役立った」という回答が約40%ありました。特に創業時のスタートアップにとって自社をアピールするために特許は非常に有効です。

 特許庁での支援施策としては、事業に即した知財戦略構築をサポートする「知財アクセラレーションプログラムIPAS」を実施しています。また1回2時間のスポットメンタリングも行なっていますので、興味のある方はぜひご応募ください。

 また今回のようなイベント登壇やウェブページで知財情報を提供する「IP BASE」という取り組みもしています。無料の会員向けの勉強会の開催、YouTubeやSNSでの情報発信もしています。

木崎:前の会社のときに特許を3つ取らせていただいて、資金調達がスムーズだったので、特許戦略は非常に大事です。日本政策金融公庫の資本性ローンを受ける際にも新規性が重要で、それを証明するのにも特許に助けられました。スタートアップがスピード感を上げて拡大するときに特許は有効なので、周りのスタートアップにも広げていきたいと思います。

安高:Web3における特許戦略を考えている人はまだあまり多くないと思います。Web3の盛り上がりによって知財制度自体が変わる可能性もあると思うし、どきどきしながら注目していきます。

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