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イベントレポート

スタートアップカフェで、「『えっ、法的に使っちゃダメなサービス名ってあるの⁉』ってならないための スタートアップが知っておきたい商標、特許の成功事例丸わかりセミナー」を開催しました!

 特許庁スタートアップ支援班は2023年1月16日、セミナーイベント「『えっ、法的に使っちゃダメなサービス名ってあるの⁉』ってならないための スタートアップが知っておきたい商標、特許の成功事例丸わかりセミナー」をスタートアップカフェ(福岡市)にて開催。ソシデア知的財産事務所の小木智彦弁理士と特許庁スタートアップ支援班の芝沼隆太氏が登壇し、創業前~創業期のスタートアップが知っておきたい商標と特許の基礎知識と知財戦略について、事例とともに解説した。

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 スタートアップカフェは、天神エリア西通り近くの旧大名小学校を改装したスタートアップ支援施設Fukuoka Growth Next 1階にあり、スタートアップの裾野を拡げるため、コンシェルジュによる起業相談、弁理士などの専門家による個別相談会(毎週木曜日・予約制)をはじめ、創業から人材確保まで様々な支援を行っている無料のコワーキングスペースも併設されており、誰でも気軽に利用しやすい空間となっている。

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スタートアップカフェ 佐藤 真梨乃氏

商標・特許の基礎と知財戦略の成功事例

 ソシデア知的財産事務所 弁理士 小木 智彦氏による講義「商標・特許の基礎」では、商標や特許の役割、スタートアップの特許活用事例を挙げながら、知財の効果的な使い方を解説した。

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ソシデア知的財産事務所 弁理士 小木智彦氏

 QRコードはライセンスフリーで利用できるのは有名だが、「QRコード」という名称は株式会社デンソーウェーブの登録商標で、商品名や広告などには無断利用できない。日常的に使っているBluetooth、ポストイット、セロハンテープ、ポリバケツ、万歩計、宅急便なども登録商標だ。登録商標は197万件(令和2年12月)もあり、知らず知らずのうちに商品名やホームページの紹介文等で使った言葉が権利侵害となる恐れがあるので注意が必要だ。

 商標権とは、ネーミングやマークを守る権利のこと。社名や商品名は継続利用する必要があるので期限がなく、10年ごとに更新できる。商標の主な取得条件は、(1)同一・類似の登録商標がなく、(2)商品を識別できる言葉であること、の2つ。

 特許権は、アイデア(発明)を守る権利だ。近年、オープンイノベーション企画などで発表した自社のアイデアがほかの企業に無断で事業化されてしまった、という相談が発生している。オープンイノベーションでは双方のアイデアを区別するのが難しい場合が多いが、そんな場合に、特許は出願するだけでもけん制効果があるので、大事なアイデアを奪われないように、企業にプレゼンする前に出願しておくといい。

 知財戦略には、守りと攻めの2つの側面がある。商標によるブランドの保護、特許によるアイデアの独占や参入障壁が守り。資金調達、時価総額の創出など攻めの戦略には、独占的な権利である特許をうまく企業価値に結び付けて可視化することがポイントだ。

 知財は商品の売上にも直結する。マーケティング理論で「売れる商品は、買う前に欲しいと思わせる力が強く、かつ、買ったあとも購入してよかったと思わせる力が強い」という消費者は2度評価するという考え方がある。購入前の判断になる商品コンセプトは、ネーミング(=商標権)やデザイン(=意匠権)であり、購入後の評価であるパフォーマンスは、商品の機能(=特許権)だ。これらをそれぞれ継続的な利益とするために権利取得する必要がある。

 特許による成功事例として、宮崎の株式会社 FREEPOWERが発明した新型の自転車ギアを紹介。宮崎市の社会労務士の発明品だったが、特許を活用したいと小木弁理士を通じて東京の特許活用会社に相談したところ、関東の株式会社サイクルオリンピックで販売されることになり、さらに事業提携したOlympicグループの株価も上昇したという。

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FREEPOWERが発明した新型の自転車ギア

事例から学ぶ特許・商標

 特許庁 総務部 企画調査課 課長補佐(スタートアップ支援班長)芝沼隆太氏の講演では、「事例から学ぶ特許・商標」と題し、身近な商品を挙げながら特許や商標の活用事例を紹介した。

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特許庁 総務部 企画調査課 課長補佐(スタートアップ支援班長)芝沼 隆太氏

 ザ コカ・コーラカンパニーの「いろはす」のプラスチックボトルは、少ない材料で強度を確保する技術を特許権、形状を意匠権、商品名を商標権として登録し、3つの知財で保護されている。

 知財の機能は、事業の差別化、模倣の防止といった「独占」だけでなく、資金調達やM&Aの評価といった「信用」、オープンイノベーションのツールとしての「連携」もある。令和3年度に特許庁が実施した調査では、知財の活用による効果として、創業期のスタートアップの42%が「資金調達への貢献」と回答している。

 起業、事業を考え始めたときに最初に確認する必要があるのが商標だ。商品名を決める前に、まず他人の権利を調べておきたい。商品のローンチ後に他者の登録商標であることが発覚すると、商品名の変更や損害賠償を請求される恐れがある。

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商標の事例として、株式会社BUKARUやユニファ株式会社のケースを紹介。

 部活に関するサービスを事業化するため、社名・プロダクト名を「BUKATSU」にしようと商標出願したところ、前例があったので「BUKARU」に変更したとのこと。もし当初のアプリ名で事業を始めていたら、後から社名やプロダクト名を変更する必要に迫られたかもしれない。

 参考リンク「NoMaps2022 カンファレンス「STARTUP CITY SAPPORO Presents スタートアップにとって知財は重要?特許庁と知財専門家に聞いてみた」に参加しました!」

 また、スマート保育園の実現を目指すユニファ株式会社は、「スマート保育園」を商標登録済みだが、メディア露出が増えたこともあり、「スマート保育園」を一般名称のように使われてしまう恐れがある。登録商標であることをアピールするため、(R)表記を徹底し、普通名称化を防いでいるとのこと。

 参考リンク「ユニファ株式会社 代表取締役CEO 土岐 泰之氏 インタビュー 6000超の保育現場に導入 社会のインフラとして課題解決を目指す「スマート保育園」サービス」

 商標は、特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」で調べられる。使いたい名称が他者の商標ではないかを調べたいときには、まずJ-PlatPatで確認しよう。

 次に特許権のイメージを「転がりにくい鉛筆の発明」を例に解説。

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 断面が円形の鉛筆を転がらないように改良した発明について、「断面六角形の鉛筆」として出願すると、四角形や五角形、三角形は含まれない。「多角形の鉛筆」でも楕円やかまぼこ型も含まれなくなる。しかし「転がらない鉛筆」では不明確なので審査は通らない。上手く上位概念化して広い権利範囲を考えることで、「広く・強く・役に立つ」特許になる。

 単純に特許を出願するだけでは、役に立つ権利にはなりにくい。自社に必要な特許権を取得するには、専門家との壁打ちでアイデアを具現化することが重要だ。またコア技術を保護する方法として、周辺特許を追加出願してコア技術の守られていない範囲をカバーする、定期的に特許の権利範囲を確認する、といったポイントを挙げた。

 スタートアップの知財戦略構築の事例は、IPASの成果事例集「知財戦略支援から見えたスタートアップが躓く14の課題とその対応策」で紹介されている。また、投資家向けには「ベンチャー投資家のための知的財産に対する評価・支援の手引き」に、知財の落とし穴の事例が挙げられているので参考にしてほしい。

特許庁のスタートアップ支援施策

 最後に、特許庁のスタートアップ支援施策を紹介。特許庁では、スタートアップの事業戦略に連動した知財戦略の策定を支援する「知財アクセラレーションプログラム(IPAS)」、知財コミュニティ活動を促進する「IP BASE」の2つの取り組みを実施している。IPASは、創業期のスタートアップに知財メンタリングチームを派遣し、適切なビジネスモデルの構築とビジネス戦略に連動した知財戦略の構築をハンズオンで支援するプログラムだ。

 スタートアップ向け知財コミュニティ「IP BASE」は、ウェブサイトによる情報発信のほか、事例集の掲載、無料会員向け勉強会の開催、知財専門家の検索などを提供している。

 そのほかの支援施策として、スタートアップのスピード感に対応したスーパー早期審査、特許の手数料が3分の1になる軽減制度なども実施している。詳しくはIP BASEサイトをチェックしよう。

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