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イベントレポート

知財セミナー「大学の知財をビジネスに! 大学発スタートアップの知財戦略 by IP BASE in 仙台」を開催しました!

 特許庁スタートアップ支援班は2023年1月23日、東北大学 産学連携機構の協力のもと、スタートアップ向け知財セミナー「大学の知財をビジネスに! 大学発スタートアップの知財戦略 by IP BASE in 仙台」を仙台市のシェアオフィス・コワーキングスペース「enspace」にて開催した。イベントでは、先輩スタートアップであるピクシーダストテクノロジーズ株式会社とファイトケミカルプロダクツ株式会社の知財の取り組みについての講演と、大学発スタートアップにおける知財戦略についてパネルディスカッションが実施された。

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■研究からビジネス化へ「3つの壁」を乗り越えるための知財戦略とは

 ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 片山晴紀氏の講演「研究とビジネスをつなぐ知財戦略、ピクシーダストテクノロジーズでの知財の取り組み」と題し、大学の基礎研究をビジネスにつなげるプロセスにおける3つの障壁(魔の川、死の谷、ダーウィンの海)を切り口に、戦略的な知財の創出・活用で障壁をどのように乗り越えていったのかを説明した。

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 最初の大学の研究から開発につなげるプロセスでは、大学との産学連携について紹介。同社は、2017年から筑波大学と特別共同研究事業に取り組み、「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を大学内に設立。CEO落合氏が基盤代表/准教授として着任して密接に連携することで研究シーズの実現可能性をいち早く検討する仕組みとなっている。また東北大学との連携では、ピクシーダストテクノロジーズ×東北大学 ホログラフィックウェルビーイング共創研究所を設置し、同社の社員を派遣することで大学内の研究テーマに幅広くアクセスし、有望なシーズについては共同研究基本契約に基づき、数年かけて共同研究に取り組んでいるという。

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ピクシーダストテクノロジーズ株式会社IP & Legal Team 弁理士 片山晴紀氏

 東北大との共同研究基本契約は、ストックオプションによる知財予約継承というスキームを用いている。これは、ストックオプションを対価として共同研究成果の知財をピクシーダストテクノロジーズに100%予約継承するというもので、産学連携における権利交渉や意思決定の手続きを円滑かつスピーディーに実施できるのがメリットだ。

 次に開発から製品化へのプロセスでは、オープンイノベーションのなかで開発への投資を持続・発展するための知財戦略を構築・実践している。オープンイノベーションでは、知財戦略とそれを実装するための適切な契約が重要とし、情報交換の段階では「NDA」、PoCでは「PoC契約」、共同研究開発では「共同研究開発契約」、量産開発では「製造委託契約」、事業化では「販売基本契約」や「販売代理契約」などの契約が発生する。これらの契約をスムーズに進めるために各段階において知財戦略を検討しておくことが大事だ。

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 片山氏が知財戦略で意識しているポイントとして、(1)知財の範囲は特許に限らず、実用新案権、意匠権、商標権、ノウハウ、データ などを 組み合わせて事業価値を最大化する。(2)事業の将来形と創出される知財を事前に想定して戦略的に契約条件を立てる、という2つを紹介した。

 製品化から持続可能な産業に発展させていく第3の壁はまだこれからだが、知財を活用して競争優位性を確立していくという。 最後にまとめとして、「スタートアップが知財を武器に戦っていくためには、“特許を出願しておけば大丈夫”ではなく発明が生まれる前から戦略的に取り組むことが重要」と語った。

■東北大発スタートアップが伝える研究成果の事業化と知財への取り組み

 ファイトケミカルプロダクツ株式会社 CTO 北川 尚美氏は、(1)独自技術の単独知財化と量産技術の確立、(2)独自技術に基づく新たなコンセプトの製造事業を創出、(3)事業展開地域に応じた知財戦略の3つのトピックについて同社の取り組みを紹介した。

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ファイトケミカルプロダクツ株式会社 CTO 北川尚美氏

(1)独自技術の単独知財化と量産技術の確立

 同社は、東北大学大学院工学研究科 北川研究室の研究成果をもとに新産業の創出を目指す東北大学発のスタートアップ。もともとは海外大学のように知財を活用した研究費の確保を目的に、独自技術の「イオン交換樹脂法」を大学単独で知財化し、並行して量産技術を確立していったのが始まりだ。

 北川氏らが発見した「イオン交換樹脂法」は、水処理の分離剤である汎用樹脂が油溶液中で合成触媒に使えるというもの。2003年4月に油とアルコールからの脂肪酸エステル製造に活用するアイデアを着想し、TLOの東北テクノアーチを通じて2004年に製造方法を企業と特許出願。2005年は再生方法について東北大単独で特許、しかし名義変更で企業と共同出願になり、その後も2012年までに14件を共同出願していった。しかし、出願14件中、登録は3件のみ。これは共同出願した企業側の戦略で、新技術を広めるために出願はするが、あえて権利は取得せずに他社が使いやすくしたと考えられる。

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 この反省から、ビタミンE製造に関する知財は、最初の1件のみ農研機構と共同出願したが、その後の8件は東北大独自で出願し、うち7件が登録済みだ。ただし、当初は知財戦略がなく、研究論文そのままの内容で事業としては使い物にならなかったという。そこから戦略に取り組むようになり、4カ国へ国際出願・移行して成立しているそうだ。

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 その後、量産のための装置開発に取り組み、2017年に東北大BIPプログラムに採択、2018年に東北大発スタートアップとして起業に至っている。

(2)独自技術に基づく新たなコンセプトの製造事業を創出

 持続可能な事業とするため、原料は国内で容易に確保でき、食と競合しない未利用資源として米ぬかの廃棄油を採用。イオン交換樹脂法を用いることで、化粧品やサプリメントに用いられているスーパービタミンEや植物ステロールを高純度に回収し、さらに残りはバイオ燃料に利用できる。

(3)事業展開地域に応じた知財戦略

 同社の技術を他企業へライセンスして大規模な工場を全国に設置すれば、油脂産業で発生している大量の廃棄物を資源化できるようになる。さらに米とパームの組成が似ていることから、熱帯雨林の破壊などが環境問題になっている海外のパーム産業への展開を視野に研究を進めている。同社のイオン交換樹脂法を使えば、廃棄油がすべてバイオ燃料になるので、耕作地を拡大しなくても実質的に生産量が2倍にアップできるという。

 知財は、エステル製造に関する技術は東北大学、ビタミンEの製造技術はファイトケミカルが保有し、企業に製造技術と量産化技術をライセンスすることで技術導入を推進している。

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 海外展開については、生産地域と市場を考慮して特許を出願し、権利化が成立しているインドネシアとマレーシアは製造拠点を設置、中国へは信頼のおける特定企業と連携して生産および輸出販売、欧米は輸出販売を進めていく計画だ。

■特許庁のスタートアップ支援施策

 特許庁総務部 企画調査課 知的財産活用企画調整官 岡裕之氏は、スタートアップ支援施策として、事業戦略に連動した知財戦略の策定を支援する「知財アクセラレーションプログラム(IPAS)」と知財コミュニティの活動を促進する「IP BASE」の2つの事業を紹介した。

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特許庁総務部 企画調査課 知的財産活用企画調整官 岡裕之氏

 特許庁の調査によるとスタートアップコミュニティの知財意識は低く、創業時から経営戦略に知財戦略を組み込んでいる会社は少数派だ。しかし、資金調達や上場の際には知財が押さえられているかどうか厳しく審査されるため、早期から戦略を立てて知財に取り組んでおくことが大事だ。

 知財アクセラレーションプログラム(IPAS)は、創業期のスタートアップを対象に、ビジネスの専門家と知財専門家からなる知財メンタリングチームを派遣。5カ月間にわたりメンタリングを実施し、適切なビジネスモデルの構築とビジネス戦略に連動した知財戦略の構築を支援するものだ。2022年度は25社を採択し、メンタリングを進めている。

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 スタートアップ向け知財コミュニティ「IP BASE」は、知財情報の発信や知財専門家の検索機能を備えたポータルサイトの運営、知財イベントや勉強会の開催などを実施している。

 また新たなプログラムとして、2022年度からベンチャーキャピタルへの知財専門家派遣調査事業を開始。VCへの知財専門家を派遣し、VCに知財支援のノウハウを蓄積することで投資先の知財支援へと広げてもらうことを目的としている。2023年度からはVC派遣を本格実施する予定だ。

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 そのほかスタートアップ向けの早期審査や手数料の軽減措置などの施策が提供されているのでうまく活用しよう。

■パネルディスカッション「大学発スタートアップの知財戦略」

 パネルディスカッションには、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社片山晴紀氏、ファイトケミカルプロダクツ株式会社北川尚美氏に加えて、株式会社3DC 黒田拓馬氏と株式会社GENODAS 岡野邦宏氏のスタートアップ2社がパネリストとして参加し、自社技術の紹介を行うピッチを行った 。その後、 3DCとGENODASの2社の質問に対して、先輩スタートアップの片山氏と北川氏がアドバイスする形で進行した。

 株式会社3DCは、東北大学西原研究室が発明した新しいカーボン素材「グラフェンメソスポンジ(GMS)」の事業化を目指して2022年2月に創立。電池材料への活用に向けて、材料研究所は仙台に設置し、2022年5月から稼働。また電池研究所を川崎市に立ち上げ、2023年中に稼働を開始する予定だ。

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 株式会社GENODASは、あらゆる生き物の「DNAの違い」を収集・分析する2021年12月設立の東北大学発スタートアップ。高精度なDNA識別技術を活用し、種苗会社向けに品種改良、病害虫の特定、種苗の品質管理を提供している。また農林水産物の流出・偽造を防止するため、DNA情報をデータベースに登録・Web公開することで権利を保護する「DNA保険」の仕組みづくりにも取り組んでいる。

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  最初に、3DCの黒田氏が「共同研究における特許の権利に関する考え方」について質問。片山氏は「できるだけ早めに将来を見通した権利範囲、合意を決めておくといい」、北川氏は「素材よりも製品になったほうが価値も上がるので将来の用途も想定して押さえておくといい。ただし、権利を持ちすぎると組む相手側のうま味がなく、契約合意に至らないこともある。バランスが大事」とアドバイスした。

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株式会社3DC 代表取締役 CEO 黒田拓馬氏

 また岡野氏からの「大企業と契約する際、どの段階から知財専門家に入ってもらうべきか」と質問には、片山氏は「担当者同士で合意した後に知財・法務により交渉がやり直しになることも多いので、早い段階から知財部が参加したほうが契約も早くまとまる」と回答。大企業の知財部の知財担当者ではフェアな交渉が難しいこともある。特許庁ではオープンイノベーション促進のためのモデル契約書(AI編、新素材編、大学編)を公開しているので契約交渉の際には参考にするといい。

 欧米と日本の大学を比較すると、大学で創出された知の尊重という観点で米国は日本に比べて、その意識がかなり浸透しており、大学で創出される知財を尊重する意識の高さが大学発スタートアップの成長や産業競争力の強さにつながっていると考えられる。日本でも、内閣府の知的財産戦略本部において「大学知財ガバナンスに関する検討会」を設置し、大学の研究成果の社会実装および資金の好循環を実現するために必要な大学の知的財産マネジメント、知財ガバナンスの在り方等をまとめた大学知財ガバナンスガイドラインの策定を進めている。

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株式会社GENODAS 新規事業部・取締役 岡野邦宏氏

 そのほか「海外展開へ向けた出願ノウハウ」として、北川氏は、海外の市場調査に百万円ほどかけたことを紹介。将来への投資として進出先の情報収集は十分にしたほうがいいそうだ。片山氏は、PCT出願を活用して、出願先の国を決める期限を先延ばしにする方法を提案した。

 海外展開では、信頼できる現地パートナーを見つけることも大事だ。全国のINPITには海外展開支援の窓口が設置されているので、相談してみるといいだろう。またJETROでも海外進出の知財サポートを行っているので、こうした支援機関を通じて海外進出先において信頼のおけるパートナーを探していくのもひとつの方法だ。

■イベントの模様は下記、YouTubeにて全編アーカイブ配信中です!

 タイムスケジュール再生リスト

・講演「研究とビジネスをつなぐ知財戦略、ピクシーダストテクノロジーズでの知財の取り組み」(片山晴紀氏 ピクシーダストテクノロジーズ株式会社)
 https://www.youtube.com/live/Vhz88bEgqjg?feature=share&t=580

・講演「先輩スタートアップが伝える知財の取り組み(北川尚美氏 ファイトケミカルプロダクツ株式会社)
 https://www.youtube.com/live/Vhz88bEgqjg?feature=share&t=1801

・講演「特許庁のスタートアップ支援施策」(岡裕之氏 特許庁)
 https://www.youtube.com/live/Vhz88bEgqjg?feature=share&t=3087

・スタートアップピッチ&パネルディスカッション
 https://www.youtube.com/live/Vhz88bEgqjg?feature=share&t=3961

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