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イベント告知・レポート

オープンイノベーションを成功に導く特許を活用したパートナーの探し方と連携提案書の作り方とは 「特許情報を駆使して未来のニーズを先取りする連携提案術」レポート

 2024年10月17日、特許庁スタートアップ支援班はCEATEC2024において、「特許情報を駆使して未来のニーズを先取りする連携提案術」と題したセッションを開催した。同セッションには、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社の辻未津高氏と片山晴紀氏、株式会社テックコンシリエ代表取締役で知財ビジネスプロデューサーの鈴木健二郎氏、特許庁主任産業財産権専門官の高田龍弥氏が登壇し、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が公開する「スタートアップのための事業会社との連携マニュアル」をもとに、知財情報を活用した連携候補の探し方と連携提案書の作り方などについて紹介、議論した。

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 オープンイノベーションには企業との出会いが必要だが、マッチングイベントなどの偶発的な出会いから相性のいいパートナーを見つけることは難しく、また連携パートナーの興味に合致するような事業提案をするのも容易ではない。

 同セッションでは、特許情報から連携候補を探索する方法と連携提案書の作成についてのセミナーと、数多くのオープンイノベーションを成功させているピクシーダストテクノロジーズの例も交えながらパネルディスカッションが行われた。

オープンイノベーションには「パートナーと思いをひとつにする」ことが重要

 ディスカッションに先だって、ピクシーダストテクノロジーズの辻氏と片山氏が同社の事業概要を紹介するとともに、オープンイノベーションにおいて大事にしている点などを語った。

 ピクシーダストテクノロジーズは、2017年設立の筑波大学発のスタートアップ企業だ。波動制御技術をコアに、独自の吸音設計技術「iwasemi」、空間にある多様な事象をデジタルデータとして活用する「KOTOWARI」、高精度屋内位置情報センサー「hackke」、超音波スカルプケアデバイス「SonoRepro」、聴覚障害や聞こえにくさがある人と聴者のコミュニケーションを支援するデバイス「VUEVO」、ガンマ波サウンドケアデバイス「kikippa」の6つの事業をメインに展開している。

「kikippa」事業で展開する特許技術「ガンマ波変調技術」を搭載したスピーカーは、塩野義製薬との共同研究開発から生まれた製品だ。製品の発表にあたり、2023年4月14日には塩野義製薬との連名で事業に込める思いをつづった新聞広告を出稿した。

 辻氏は「オープンイノベーションは技術に目がいきがちですが、パートナーと思いをひとつにすることが非常に重要」と話した。新聞広告のメッセージは、その思いを表したものだ。同社では塩野義製薬だけでなく、NTTドコモ、学研ココファン、SOMPOひまわり生命保険、三井不動産など多くの賛同企業とも提携し、製品や事業を通じた社会問題の解決に取り組んでいるという。

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ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 kikippa 事業部長
辻 未津高氏

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ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 知財部長
片山 晴紀氏

特許情報を活用した連携提案とは?

 続いて、スタートアップと大企業とのビジネスマッチングを支援する株式会社テックコンシリエの鈴木健二郎氏と特許庁 主任産業財産権専門官の高田龍弥氏が、特許情報を使って意図的な出会いをつくり、連携候補のニーズに踏まえた事業提案を行う手法を紹介。具体策として、INPITが公開している「スタートアップのための事業会社との連携マニュアル」をもとに、特許情報からパートナーを探索する「ターゲット・レポート」の作成と連携提案書の作成手順を解説した。

 オープンイノベーションの連携相手を探す段階でつまずいてしまう原因は、「幸運な偶然の出会い頼み」と「技術漫談(技術の話ばかりしてしまいがち)」という点にあるという。例えば、ビジネスマッチングイベントや人づての紹介はもちろん有効だが、本当に相性のいい企業が見つかるかどうかはわからず、出会える範囲にも限界がある。また、連携候補企業との面談にようやくこぎつけても、技術の説明に終始してしまいがちで、具体的な連携の話に進まないまま終わってしまうことが多いという。

 オープンイノベーションは、自社の資源と協業先の資源との組み合わせから、新しい価値を創出することが目的だ。自社や相手の技術を理解するだけでなく、目指すゴールと、そのためのビジネスモデルを含めたストーリーを提案し、お互いの価値観をすり合わせることがポイントになる、と鈴木氏と高田氏は説明した。

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(同資料から)

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株式会社テックコンシリエ 代表取締役
知財ビジネスプロデューサー
鈴木 健二郎氏
クライアントの知財を活用したビジネスプロデューサーとして、数多くのビジネスマッチングを手がける。
2024年に知財を活用した企業を探索するビジネスマッチング事業を立ち上げ。近著に『「見えない資産」が利益を生む』がある

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特許庁 総務部 普及支援課 主任産業財産権専門官
高田 龍弥氏
知財を切り口にした中小企業・スタートアップ支援に約10年間従事。
オープンイノベーション×知財、モデル契約書for研究開発型スタートアップ、特許情報によるビジネスマッチング事業の立ち上げを主導

オープンイノベーションにおける課題

 パネルディスカッションでは、「オープンイノベーションにおける課題は?」、「出会いの質を高める:特許情報を駆使した“偶然”ではないオープンイノベーション」、「特許情報を事業提案にどう活かすか? 刺さる連携パートナーシップの築き方」の3つのトピックについて話し合った(以下、敬称略)。

高田:オープンイノベーションを進めていく中で、難しいと感じたことはありますか?

辻:大企業とのオープンイノベーションで、我々が最初に課題として感じるのは、「一緒に向かっていく先を定めること」です。連携を実現するまでに乗り越えなければいけない壁がたくさんある中で、最初に話をするのは新規事業部門の方々であることが多いのですが、なかなか相手の腹の内が見えず、スタートアップとしてはもどかしく感じてしまうことがあります。

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鈴木:お互いに、最初は相手の力量を見定めようと、構えて話をしてしまうからかもしれません。その結果、「連携した先にどんなメリットや価値があるのか」という話をする前に、技術的なシーズの話に時間を費やしてしまい、消化不良のままになってしまうのでしょう。

片山:私はPoC(概念実証)や共同開発にあたって契約書を作成するタイミングで関わることが多いのですが、その時点で双方のスタンスが合っておらず、結局、お互い妥協できずに交渉が決裂してしまうことがあります。例えば、大企業側は「自社の新規事業のための研究開発をアウトソースしたい」、スタートアップの我々は「自分たちの独自技術を多方面で展開するためのパートナーを見つけたい」という行き違いがあることに、契約の段階になって初めて気づくと、それまでの時間が無駄になってしまい、どちらにとっても不幸です。契約の前にお互いのスタンスをしっかり認識しておくことが大事だと学びました。

高田:まさに最初にすり合わせておきたい部分ですね。大企業側の体制に課題がある場合もあって、新規事業開発担当者とスタートアップは意気投合したのに、契約書の作成段階で法務部などに担当が代わると話がまとまらず、なかなか進まなくなるケースがあります。大企業側も、事業部と法務部が一緒に同じ気持ちでやっていけるような仕組みづくりが必要でしょう。

鈴木:スタートアップ側から連携を提案するタイミングも大事になります。提案する前に、大企業のIR情報や統合報告書などを時系列で追って見てみると、「いまは研究開発に積極的な時期かどうか」や「どの分野に注力しようとしているのか」を読み取ることができます。

高田:そうですね。同じ大企業内でも部門によって話の進み方が違うので、もし一度だめでもタイミングを見計らって、別の部門に提案すると通ることもあります。

辻:我々も似た経験があります。先ほどの「スタートアップのための事業会社との連携マニュアル」のひな型を活用して、自分たちのサービスイメージを3つのビジュアルにして提案したところ、相手の新規事業部門の方がそれぞれに合った別々の部門の担当者を紹介してくれ、話がスムーズに進んだことがありました。

鈴木:ビジネスモデルを構想したときにゴールのイメージが複数ある場合には、無理に1つに絞らず、3つくらいの選択肢を提示するというのはいい方法です。相手がどこに興味を持ってくれるのかもわかりますから。

出会いの質を高める:特許情報を駆使した“偶然ではない”オープンイノベーション

鈴木:特許情報は技術文書という印象が強いですが、実は「ニーズがてんこ盛り」な情報でもあります。解決すべきどのような背景や課題があって、これまでにどんな先行技術があり、それでも未解決の課題としてどんなことが残されているのか。そして、そこに自社の発明がいかに有効であるか――といったさまざまな情報が詰め込まれているのです。

 この中で、前半部分の「背景や課題」はつい読みとばしがちですが、ここをしっかりと読み解いていくと、相手が解決したい課題やニーズが見えてくる。そこから、連携のストーリーを組み立てることで、“偶然ではない”オープンイノベーションを生みやすくなるということなのです。

高田:特許制度というもの自体が、先行する発明や技術に着想を得て、さらに上乗せして発展させていってほしいという趣旨でできているので、ぜひこうした視点で特許情報を活用していただけたら、特許庁としてうれしいです。

片山:我々も特許情報を使い、ある分野でどんな企業がどのような特許を持っているのかをマッピングしてみたことがあります。すると、どこにどんなプレーヤーがいて、技術的に自分たちと近いのはどのプレーヤーかというのを網羅的かつ客観的に可視化でき、とても良かった。

 そのうえで注意点としては、自分たちと近い技術やニーズを持っている相手には興味を持ってもらえやすい反面、共同開発するとなれば「どちらが権利を取るか」の交渉に苦労する可能性もあります。相手に応じて、将来の組み方をイメージしてから提案することが大事になると思います。

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高田:うかつに持っていくとアイデアを取られてしまう可能性もあるので注意も必要ですね。

 もうひとつ、特許情報には未来の情報も含まれています。特許情報は出願から1年半後に公開されるのですが、公開の段階では、まだ社会実装されていない技術も載っています。ある技術が生まれてからプロダクトになるまでには、だいたい数年の時間がかかる。“未来をのぞき見る、先取りする”という視点でも、特許情報を見て、活用していただけたらと思います。

特許情報を事業提案にどう活かすか? 刺さる連携パートナーシップの築き方

鈴木:さきほども特許情報のニーズに着目すべきと述べましたが、それが結果的にパートナーへの提案に盛り込むべき「社会的な価値」や「経済的な価値」、すなわち世の中にどのような価値を一緒に届けていくのか、という内容にもつながります。

 また、企業が出願した特許情報をピンポイントで見るのではなく、同じ領域の特許を時系列で見ていくことも大事です。相手方の技術の熟度がどこまで増していて、いまどこまで課題を解決できているのか、相手の現状を推測することもできます。そのうえで、相手がまだ解決できていない部分について、「自分たちの技術を使えば、こう解決できる」というストーリーを描ければ、相手に提案しやすくなるでしょう。

高田:特許を群や時系列で追っていくと、その企業の中での技術の変遷や位置付けがおぼろげながら見えてきますね。ところで辻さんは、連携提案書を使うことに最初は抵抗があったそうですね。

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辻:我々としては、連携提案先の企業とは仲良くなってから深い話をしたいという考えがあり、最初からビジネスモデルを提案することにはためらいがありました。初めから「我々としてはこうしたい」と言ってしまうとハレーションを起こしてしまうかもしれない、と。それよりも、お互いに思いを共有してから話した方がいいのではないかと思っていたのです。

高田:でも実際に先方に提案してみたら、リアクションがよかったと。

辻:その際はビジネスモデルの図解まではしなかったのですが、「あるべき姿」や「応用例」、お互いの特許情報を番号まで出して示しながら、「こういったところでシナジーが見込めます」と先方に示しました。内心ドキドキしていたのですが、結果としてすごくよかったので、「これは大事だな」と学ばせていただきました。音響メタマテリアルの事業などで引き続き、連携提案書のひな型とそのノウハウを活用しています。

高田:最後に、ひとことずつメッセージをいただけますか。

鈴木:ディスカッションを通じて、特許情報とオープンイノベーションやニーズの先取りという一見関係なさそうに見えるキーワードが、有機的につながってきたのではないでしょうか。特許情報は、まさに「ニーズがてんこ盛り」ですので、積極的に活用してオープンイノベーションを促進していただければと思います。

片山:連携先の探索は、特許情報だけではなく、例えばIR情報や有価証券報告書に書かれた経営計画や研究開発状況など、何の情報と組み合わせるのか、も大切と思っています。特許情報の活用には、まだまだ可能性がありそうなので、我々も探っていきたいです。

辻:大企業の新規事業部の方々は熱い思いを持っていらっしゃる人が多いと思います。新規事業担当の方には、ぜひ法務部や知財部の方と仲良くなって思いを共有し、一緒になって事業を推し進めていただけたらうれしいです。

高田:このセッションで、特許は競争の武器としてだけでなく、ビジネスマッチングとしての使い方もあるのだと気づいていただき、特許のイメージが少しでも変わる機会になればうれしく思います。どうもありがとうございました。

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