イベント告知・レポート
オープンイノベーションの秘訣はスタートアップに張り合えるスピード感「成功するオープンイノベーションの秘訣 ~スタートアップと事業会社の共創で新たなビジネス価値を創出する~ by IP BASE」イベントレポート

特許庁スタートアップ支援班は、一般社団法人日本知的財産協会(JIPA)との共催で、スタートアップと共創するためのコミュニティの構築や情報共有をテーマとしたセミナーイベント「成功するオープンイノベーションの秘訣 ~スタートアップと事業会社の共創で新たなビジネス価値を創出する~ by IP BASE」を2025年3月4日に開催した。イベントでは、特許庁の取り組みやJIPAの役割の紹介と、オープンイノベーションを通じたスタートアップと事業会社によるパネルディスカッションが実施された。
特許庁のスタートアップ支援施策
特許庁のセッションでは、特許庁総務部企画調査課知的財産活用企画調整官の金子秀彦氏が登壇し、特許庁の支援施策を紹介した。特許庁はスタートアップ向け知財コミュニティポータルサイト「IP BASE」を運営し、知財の最新情報や役立つコンテンツを掲載するほか、セミナーや勉強会などのイベントを開催し、コミュニティ形成に取り組んでいる。また、知財戦略の構築支援として、INPITの知財総合支援窓口での無料相談や、ビジネスと知財の専門家チームを派遣する「知財アクセラレーション事業(IPAS)」、ベンチャーキャピタルに知財専門家を派遣して投資先の成長戦略を支援する「ベンチャーキャピタルへの知財専門家派遣事業(VC-IPAS)」などの伴走支援を実施している。さらに、特許出願に関する支援施策として、料金減免制度やスーパー早期審査なども提供している。

JIPAの活動で広がるネットワークが協業の成功を支える力に
続いて、一般社団法人日本知的財産協会(JIPA)事務局長の熊谷英夫氏の講演では、「JIPAの実践コミュニティが果たす役割について」と題して、JIPAの活動内容を紹介した。

一般社団法人日本知的財産協会(JIPA)は、知的財産に関する調査、研究、政策を提言する団体だ。2025年2月5日現在、正会員1010社、賛助会員382社の企業が参加している。大企業中心の団体というイメージがあるが、会員の55%が大企業である一方で、残りの半数近くは中堅企業や中小企業で構成されている。JIPAでは、さらに多くの企業へとコミュニティを広げるため、認知拡大に注力している。
2025年2月12日には、パシフィコ横浜で「JIPA知財シンポジウム」を開催し、パネルディスカッションにはスタートアップ企業も参加した。JIPAでは、業種別の部会やワーキンググループが定期開催されているほか、講演会や交流会などのイベントも多数開催されている。これらのイベントに参加することで、業種を超えた企業間のネットワークが広がり、協業の関係構築に役立てられる。オープンイノベーションを考えている企業は入会を検討してみてはいかがだろうか。
オープンイノベーションにおいて共創パートナーとの発展的な関係を構築するには
パネルディスカッションには、オープンイノベーションの実務経験を持つ、サントリーホールディングス株式会社 知的財産部長 岡本貴洋氏、将来宇宙輸送システム株式会社 管理部法務Gr.今泉隆司氏、セーフィー株式会社 経営管理本部 法務部知財グループGL 渡辺崇仁氏の3名がパネリストとして参加。特許庁の金子氏が司会を務め、共創の現場で生じる課題やその解決方法について議論した(本文中、敬称略)。
金子:オープンイノベーションの難しさは、事業会社とスタートアップのスピード感や文化の違いにあると言われます。両者のこうしたギャップはどのように乗り越えているのでしょうか?
今泉:大企業には多数の組織があり、お互いに関係し合っています。窓口となる担当者と上司の考えも違いますし、契約は法務部が担当するので簡単に物事が決まりません。スピード感を重視するスタートアップとの文化の違いは大きいと感じます。

渡辺:私も大手メーカーからスタートアップに転職する際に一番恐れていたのがスピード感の違いです。ところが、実際に入ってみたらそれほど違和感なくやっていけています。原因を整理してみると、ひとつはインフラの違いです。SlackやGoogleワークスペースなどを活用しており、スピーディーな情報共有で物事が早く動いています。もうひとつは、スケール構造。大企業は組織が大きいため “関所”の数が多い。スタートアップのように組織が小さいとすぐに承認が得られます。そして1番大きな違いは許容性の文化です。大企業ではある程度の確度が求められますが、スタートアップにはとりあえずやってみよう、というマインドがあります。これらの要素が絡み合って、スピード感が生まれているのでしょう。
岡本:大企業側の考えですが、ひとつひとつの事業体は小さく、その中ではスピード感をもって活動をしており、スタートアップと張り合えるほど動きの速い事業体もあります。また、企業の中でもできるだけ早い意思決定の仕組みづくりに取り組んでいます。例えば、スタートアップとの取り組みについては、相談の早い段階から知財部門や法務部の意思決定者に情報共有して巻き込んでおくと話が早く進むと思います。

金子:協業を始めると文化の違いによる衝突もあると聞きます。皆さんは、こうした課題をどのように乗り越えたのか伺えますか。
今泉:私の経験では、大企業側が本気で協業しようとしていない場合もあります。まずはスタートアップから情報を聞き出したい、という探索段階の相手とは、なかなか本音で話せません。相手がどこまで本気なのかは実際に話してみないとわからないので、見極めるのが難しいですね。
渡辺:条件が合わずに契約が結べないことはよくあります。大企業が一方的に有利な条件を迫ってくるのが悪いという見方もありますが、彼らにはお金があり、維持すべきビジネスの規模も大きいのである程度は仕方がありません。ビジネスですから、自社の有利に持っていくのは当然のことです。一方で、スタートアップ側も自分たちの持つ強みに基づいて真っ当に交渉すべきです。理路整然と説明して、折り合いを付ければ良いのです。感情論になるとうまくいきません。契約担当の法務のプロが自社に有利なように介入するのが一番こじれる原因です。専門家ではなく、もっと俯瞰した立場で交通整理する役割が必要なのではないかと考えています。

岡本:本来、知財担当者や法務の担当者は、どちら側の立場でも考えられる素養があります。全体をコーディネートし、一緒にうまくいく方法を探すことが大事ですね。企業風土や事業構造、立場といった背景の違いをお互いに理解すると納得できる部分もあるでしょう。表面的な契約書の文言だけで怒らせないように、背景にある部分や将来のビジョンを早い段階で腹を割ってしっかり議論することが大事だと思います。
セッション後の来場者からの質疑応答では、協業期間中の運転資金確保の方法や、スタートアップとの信頼関係の築き方が議論された。運転資金については、早期に知財戦略を構築することで、VCから知財評価による資金が得られる可能性があるとの回答が得られた。また、スタートアップとの信頼関係構築ついては、セーフィーの渡辺氏がCVC設立の事例を紹介し、CVCとして協業先スタートアップに出資することで、長期的な視点で成長を考えるようになり、良好な関係を築きやすくなると話した。さらに、コミュニティへの参加や交流の重要性も指摘された。
協業の失敗は、お互いの不理解から起こることが多い。JIPAのような業界団体やイベントに参加して、さまざまな業界や企業の理解を深め、信頼関係を築いていくことが大事だろう。