イベント告知・レポート
ディープテックでより重要に VCが知りたい投資におけるスタートアップへの知財調査 「先輩キャピタリストに学ぶ知財支援ワークショップ~スタートアップの成長を知財戦略で加速~ by IP BASE」イベントレポート
特許庁スタートアップ支援班は、2025年2月21日、VC向け知財イベント「先輩キャピタリストに学ぶ知財支援ワークショップ~スタートアップの成長を知財戦略で加速~ by IP BASE」を麻布台ヒルズのベンチャーキャピタル集積拠点「Tokyo Venture Capital Hub」にて開催した。
イベントでは、特許庁が運営する「ベンチャーキャピタルへの知財専門家派遣プログラム(VC-IPAS)」に参加したVCのキャピタリストによるパネルディスカッションを実施。また、VC-IPASの成果に基づいて作成された「「VCの知財業務メニューブック〜スタートアップを成功に導くVC〜」を用いた参加者によるグループディスカッションが開催された。
イベントのタイムスケジュール
12:30-13:00 ネットワーキング / 個別相談
13:00-13:05 開会挨拶 / VC-IPASおよび本プログラムの概要
13:05-13:50 キャピタリストによるパネルディスカッション
13:50-13:55 休憩 / チーム分け
13:55-14:40 グループディスカッション
14:40-14:55 解説・講評
14:55-15:00 次年度VC-IPAS応募案内

イベントの冒頭では、特許庁総務部企画調査課スタートアップ支援班長の関口英樹氏が「ベンチャーキャピタルへの知財専門家派遣事業(VC-IPAS)」について説明した。

スタートアップが市場で競争力を維持し参入障壁を築くためには、知的財産戦略が不可欠だ。ただし、その知財戦略が効果を発揮するには、ビジネス戦略との整合性を持つ必要がある。特許庁では、2018年度から知財アクセラレーションプログラム(IPAS)を運営してきた(2024年度以降は独立行政法人INPITに移管)。IPASでは、スタートアップ企業にビジネスの専門家と知財専門家のチームを派遣し、ビジネス戦略に連携した知財戦略を構築するための支援をしている。
さらにより多くのスタートアップへ支援を拡げ、キャピタリストのスキルアップをするため、2023年度からは「ベンチャーキャピタルへの知財専門家派遣プログラム(VC-IPAS)」をスタート。ベンチャーキャピタルへ知財専門家を派遣し、キャピタリストとともに投資先のスタートアップの知財戦略を支援する取り組みを打ち出した。
先輩キャピタリストが語る「ベンチャーキャピタルへの知財専門家派遣プログラム(VC-IPAS)」で学んだこと
パネルディスカッションには、2024年度のVC-IPASに採択されたVCのキャピタリストとして、アグリビジネス投資育成株式会社投資育成部の担当部長、クオンタムリープベンチャーズ株式会社Value Up Managerの石嶋勇太氏、株式会社ディープコアExecutive Directorの左英樹氏の3名が参加。モデレーターは、VC-IPASの事務局から、有限責任監査法人トーマツの福井裕明氏が務めた。なお、イベント全体の進行を同法人の高木敏幸氏が務めている。
アグリビジネス投資育成株式会社は、政府系金融機関とJAグループ各社の共同出資により2002年に設立された投資会社だ。同社は食と農林漁業の領域に特化し、スマート技術の導入、新食品市場の創出、新たな担い手の創出・支援など、幅広い事業に積極的に投資を行っている。
VC-IPASへ応募したきっかけは、INPITが主催するIPモチベーター育成研修に参加したことによるものだ。その研修の際にテック系スタートアップの講師が語った「国内のVCから何百社もデューデリジェンス(DD)を受けたが、これまで一度も知財の中身について聞かれたことがない」という言葉が印象に残り、この機会に知財戦略についてしっかり学びたいと考えたそう。
クオンタムリープベンチャーズ株式会社は、シードステージに特化して投資する独立系ベンチャーキャピタルだ。投資テーマとして、Day1グローバル、スピンアウト、ディープテックに注力しており、創業前のプレシードからリードポジションで事業化に向けた強力な伴走支援を行っている。石嶋氏によると、同社がVC-IPASに応募した理由は2つあり、1つは、ディープテックへの投資において、投資前の知財DDでの勘所を学ぶため。もう1つは、投資先の知財支援として、知財侵害リスクへの予防策や知財の構築方法、専門家に相談するタイミングを学びたいと考えたからだそう。

株式会社ディープコアは、プレシード〜アーリーステージのAIおよび先進的技術分野に特化したベンチャーキャピタルだ。SaaS系や製造業向けソリューション、医療機器の開発など、AIに関連する国内外のスタートアップ130社以上に投資を行っている。VC-IPASへの応募理由として左氏は、1)AI・ディープテックスタートアップにおける知財の重要性やその考え方を学ぶ、2)支援先の知財リスク最小化の方策を構築し支援先の価値向上を実現する、3)社内投資チームのDD能力向上の実現、の3つを挙げた。

投資前の知財DD、投資先への知財構築、知財トラブルへの対処を支援
左氏は、AI・ヘルスケアスタートアップへのメンタリングからの学びを紹介。「訴訟リスクを最小化するための侵害予防調査の重要性」「類似特許を保有する他社との交渉力を高めるためにスタートアップが取りうるアクション」等、知財戦略と経営の観点から実践的なアドバイスを得たそうだ。

クオンタムリープベンチャーズでは、事前に投資先スタートアップへアンケートを取り、希望に応じた専門の弁理士が派遣された。メンタリングの過程では、「攻め」と「守り」の両面から競合の知財調査を実施し、強みとなる技術の権利化、侵害リスクの検討が行われた。石嶋氏は弁理士とともに投資先を支援した成果として、「どのタイミングで調査や出願をすればいいのかを学ぶことができた」と述べた。
アグリビジネス投資育成株式会社では、8社の投資先に対してVC-IPASから派遣された弁理士とともにメンタリングを実施した。8社のうち4社は新規投資の知財デューデリジェンス(DD)に関する支援を、残りの4社は投資先の知財戦略構築をサポートした。
あるスマート農業スタートアップの新規投資のDDへの支援では、コア技術の特定や今後の成長を見越した知財戦略、侵害リスクの分析についてアドバイスが行われた。その結果、従来のDDでは知財に関する評価がほとんど行われていなかったのが、知財に関する資料が追加されることとなったそうだ。
また、支援期間中に特許侵害トラブルになった投資先に対しては、対処方法の指南を受けたという。同社の担当部長は、「これまで知財関連のトラブルにはなすすべがなかったのが、トラブルシューティングがわかったのが非常に良かった」と述べている。
VC-IPASプログラムの成果と今後の業務への取り入れ方
VC-IPASのプログラムでの成果を、今後の業務にどのように取り入れていくかについて考えを伺った。
石嶋氏は、「領域に応じて、どのタイミングで相談すればいいのかが具体的に整理できた。積極的に弁理士に入ってもらって一緒に支援をしていきたい」と語った。

左氏は、「プログラム終了後もVC社内に知財支援の考え方が定着できるように、投資検討時やグロース支援における、見るべき項目や観点をチェックリストのように体系化していただいた。私以外のメンバーにも共有しやすい形で、かつ知識が社内に残る形でプログラムを終了できたことに大変感謝しています」と述べた。
アグリビジネス投資育成の担当部長は、「今後は投資検討の資料には知財の評価を盛り込むように仕組化を進めています」と話した。
VC-IPASの成果に基づいて作成された「VCの知財業務メニューブック〜スタートアップを成功に導くVC〜」を用いた参加者によるグループディスカッション
後半は、仮想スタートアップの知財課題を検討するワークショップが実施された。
イベント参加者は5グループに分かれ、各グループにはパネルディスカッションの登壇者3名や数名の特許庁職員等も加わり、最初に自己紹介とお互いの共通点を見つけるアイスブレイクを行ない、その後、メニューブックを参考にしながら課題に取り組んだ。
農業用ロボットの仮想スタートアップを例に、1)知財課題の洗い出し、2)その優先順位と専門家へ相談すべき内容の整理、3)専門家へ相談しなかった場合のリスクについて、VCの知財業務を類型化してまとめたメニューブック(メニューブックはこちら)を参考にしながらグループディスカッションが行われた。
課題については、メニューブックの知財業務をひとつずつ確認し、スタートアップの強みを生むためのVCの知財支援について活発に意見が交わされた。
ワークショップ後に、特許庁法務調査員(弁護士)の比留川浩介氏による課題の解説が行なわれ、各グループの発表と講評が行なわれた。発表と講評では、「競合の多いロボットアームや画像認識は調査を急いだほうがいい。VC-IPASを活用すれば調査費用も捻出できる」、「できるだけ早く権利を押さえたい。意匠権であれば特許よりも早く安く権利化できる」といった具体的な費用やスケジュール感を意識したアイデアも出た。また、「このディスカッションで学んだことを業務に活かしたい。投資先のスタートアップの知財リスクについて検討する」などの感想もあった。

保有する知財や技術の確認は、事業の成長に大きく影響する。また、権利帰属の問題や他社の知財侵害、知財の流出リスクも投資判断において重要な要素だ。スタートアップを支援するキャピタリストが知財を理解し、成長段階に合わせて適切な知財活動をサポートすることで、企業成長をさらに促進する効果が期待できる。

2025年度のVC-IPASでは、採択者数を今年度の15社から20社に拡大する。また、従来の一括公募による通年採択に加えて、オンデマンドな支援も追加される予定だ。募集にあたって、セミナーも予定している。
「VCの知財業務メニューブック〜スタートアップを成功に導くVC〜」(関連サイト/PDF)
https://drive.google.com/file/d/1UOlVwM1vaCh0Q-_He9vvt9330xsnveXu/
「課題:グループディスカッション 事例(農業用ロボット仮想スタートアップ)」(関連サイト/PDF)
https://drive.google.com/file/d/1W27onx5mcBVhOk73asZcOt_vZa6ERlH8/
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