イベント告知・レポート
「VC業務に有用な生成AI活用ノウハウを共有」VC-IPAS VC間ナレッジシェアプログラム開催レポート
スタートアップ向け知財戦略ポータルサイト「IP BASE」を運営する特許庁は、2025年12月12日(金)、東京・TKPガーデンシティPREMIUM東京丸の内中央とオンラインのハイブリッド形式で、「VC-IPAS VC間ナレッジシェアプログラム」を開催した。本プログラムは、特許庁のVC-IPAS事業における派遣先VCが知財専門家を有効活用するポイントについて気づきを得ること、そしてVC業務に有用な生成AI活用ノウハウを学ぶことを目的として実施された。
当日は、VC-IPAS事務局を担うデロイトトーマツから事例共有があり、その後に弁理士法人レクシード・テックの角渕由英氏(パートナー弁理士・博士(理学))、土本晃久氏(博士(工学))による講演「VC業務への生成AI活用~ビジネスに必要な調査・分析~」が行われた。本記事ではレクシード・テックの角渕氏、土本氏の講演について、詳しく内容を紹介する。
特許調査の専門家・元キャピタリストによる生成AI活用事例
角渕氏は特許調査会社に入社後に弁理士資格を取得、特許事務所勤務を経て2023年11月よりレクシード・テックに参画している。特許検索競技大会の実行委員会委員長を務めるなど、特許調査・分析について意欲的に情報発信を行っている。
弁理士法人レクシード・テック 角渕由英氏
土本氏はベンチャーキャピタル(以下、VC)でスタートアップ投資に関わった後、2025年6月よりレクシード・テックに所属している。2024年度は投資家としてVC-IPASの支援を受ける立場であったが、2025年度は専門家として投資家を支援する立場でVC-IPASに関わっている。
弁理士法人レクシード・テック 土本晃久氏
本プログラムでは、角渕氏は「特許検討における生成AI活用」、土本氏は「ビジネス視点での生成AI特許分析」をテーマに、これまでのスタートアップ支援経験を踏まえた講演を行った。
「クレームチャート」の出力で、知財専門家との議論をスムーズに
角渕氏は「特許調査は手段であり、目的ではない」という言葉の紹介から、講演を始めた。この言葉には「調査依頼者は何らかの課題を解決して目的を達成したいのであり、特許調査のみでその課題が解決する訳ではない」「調査結果および調査から得られる示唆に基づいて課題を解決し、目的を達成するためのアクションが必要である」という思いが込められており、角渕氏の自著にも記している言葉だという。
特許調査を行う目的は、ビジネスにおける優位性の構築、ビジネスにおけるリスクの把握・低減、研究開発を効率的に進めるヒントの取得、係争を勝ち抜くこと、等である。その目的を意識することで、より的確に調査を設計して実行し、得られた情報を正しく評価することができる。「生成AIによって特許調査のあり方が変わったとしても、この原則は変わらない」と角渕氏はいう。
角渕氏は、特許調査を「技術動向調査」「侵害予防調査」「出願前先行技術調査」「無効資料調査」の4つに分類。角渕氏の講演では「侵害予防調査」にフォーカスを当てた形で、生成AIの活用事例を紹介した。具体的には、VCが投資の検討を行うにあたり、予備審査の段階で担当キャピタリストが特許調査を行い、同僚キャピタリストに共有。その後、知財専門家に詳細な検討を依頼する、という状況を想定したものとなっている。
特許調査の結果を同僚のキャピタリストや知財専門家に共有する上では、共通のフォーマットを用いることが望ましい。例えば特許侵害の判断は「オールエレメントルール」、つまり特許請求の範囲に記載された全ての構成要件の充足・非充足を参照し、侵害の成否を判断する。このため、この判断に即した形で調査結果を共有するべきだ。
角渕氏は、知財専門家の間で標準的に使用される「クレームチャート」と呼ばれるフォーマットを紹介。担当キャピタリストが投資先企業の製品と他社特許における構成要件を比較したクレームチャート案を作成し、それを同僚のキャピタリストや弁理士が確認することで、投資先企業の製品が他社特許を侵害していないかどうかを適切に検討することができると述べた。
続いて角渕氏は、生成AIを用いて他社特許と自社製品を比較するクレームチャートを作成するためのプロンプト案を紹介した。プロンプトは、侵害検討の対象となる特許を特定する特許番号や製品情報が書かれたウェブサイトのURLを入力するとともに、特許の独立クレーム全文を取得し要件分解を行うこと、分解した構成要件ごとに充足・非充足の評価を行うこと、また評価した結果をクレームチャート形式で出力すること、等を指示するものとなっている。
講演では、このプロンプトを利用して、生成AIで作成したクレームチャートの出力結果も示された。入力した特許の独立請求項の構成要件ごとに、充足・非充足の評価や、その評価の根拠となっている製品情報の記載などが出力されているのがわかる。「このようなクレームチャートを共通言語に知財専門家と投資家が話をすることで、投資先の知財リスクについて適切に議論することができる」と角渕氏は講演を締めくくった。
自分の専門から一歩踏み出し、他領域専門家との議論を進めるためのAI活用術
続いて登壇した土本氏は、元キャピタリストの立場から、「検討初期のビジネス観点での特許調査の効率化」「競合企業の特許調査」「特定領域での事業案づくり」という、3つのシーンにおける生成AIの活用事例を紹介した。
1つめのテーマ「検討初期のビジネス観点での特許調査の効率化」について、土本氏は「特許を単にリストアップするだけでは、重要な特許がどれか分からない」と、現場でよく出る課題を共有。その解決策として、事業上の強みと特許を対応付けてリストアップするための、生成AIプロンプトを紹介した。
まず、調査対象となるスタートアップの製品・サービスと顧客セグメントを分析し、その結果に基づいて競合企業や競合製品をリストアップする。さらに、調査対象のスタートアップの優位性を特定。最後に、リストアップされた特許と特定した優位性の対応関係を出力する。「この分析結果があれば、キャピタリストは調査対象のスタートアップ企業が自社の強みを保護する特許を抑えているか、効率的に検討できる」と述べた。
2番目に紹介されたのは、「競合企業の特許調査」における事例だ。自社製品の背景となる技術キーワードなどで競合企業を検索した場合、リストアップされた企業がどこに強みを持っているか分かりにくいという課題がある。
土本氏が紹介したプロンプトでは、まず調査対象となる技術について、特許情報とウェブ情報を調査することで主要企業のリストを作成する。続いて、主要企業が持つ特許の内容をグルーピングして独自の分類を作成し、各企業がどの分類に対応する特許を持っているか振り分ける。これらの過程を経ることで、生成AIから各企業の強みを整理した形で出力を行うことができた。
最後に紹介された生成AIの活用例は、「特定領域での事業案づくり」における利用例だ。まず事業案を検討している技術について、国内外で行われている研究テーマをリストアップし、想定用途の市場規模を試算する。さらに、その中から有望な領域についてサプライチェーンをレイヤーに分解し、各レイヤーについて主要プレイヤー、利益率、資本効率などを算出する。これにより、IPO前の成長期と上場後のスケール期のそれぞれについて、スタートアップが取るべき事業モデルを提案するところまで、一貫してAIが出力することが可能となっている。
土本氏は「生成AIの活用によって、研究者・経営者・知財専門家がお互いの専門領域から一歩踏み出すことができるようになった。それによって生まれる異なる専門家同士の対話に価値がある」と述べ、講演を終えた。
文●山田光利 編集●合同会社二馬力 撮影●mao

