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イベント告知・レポート

「アイデアは知的財産権にすることで初めて会社の資産になる」スタートアップのための特許実務セミナー開催レポート

FY2025 レポート オープンイノベーション グローバル

2025年12月9日、東京・九段会館テラスで開催された「NIKKEI THE PITCH オープンイノベーションフェスティバル EAST」にて、特許庁が企画する「スタートアップのための特許実務セミナー」が実施された。セミナー冒頭では特許庁 総務部企画調査課 スタートアップ支援班長の湊 和也氏が登壇し、特許庁におけるスタートアップ向け知財支援施策として、スタートアップのスピード感に対応した早期審査や手数料軽減措置などの紹介があった。

続いて、瑛彩知的財産事務所 所長、弁理士・米国弁護士(DC, NY)竹本如洋氏が登壇。スタートアップが知的財産権を取得する意義、事業や製品を多面的に保護する知財ポートフォリオ戦略、知財をうまく活用している企業の実例などを交えながら、特許実務について語った。本記事では竹本氏の講演から、スタートアップの知財戦略に悩む経営者・知財担当者に向け、内容を抜粋して紹介する。

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弁理士法人瑛彩知的財産事務所 所長、弁理士・米国弁護士(DC, NY) 竹本如洋氏

アイデアは知的財産権にすることで、会社の資産になる

国内外で多数のスタートアップ支援を行う竹本氏は、「近年、M&AによるスタートアップのExitが日本でも注目されるようになり、買収の対象物としての知的財産権に以前より注目が集まっている」と語る。その上で、経営者の頭の中にあるアイデアは、特許権、意匠権、商標権などの知的財産権に変換することで、初めて「B/Sに計上できる資産」「M&Aの根拠」として資産価値を持つ点を、改めて確認した。

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特許庁が公表しているデータによると、近年の日本特許庁への特許出願件数は、日本企業によるものは微減傾向である一方、外国企業によるものは微増傾向となっている。この現象について竹本氏は「外国企業が日本で特許を取得する価値を、今なお感じていることを意味している」と述べ、ビジネス関連(サービス・ソリューション分野)に関わる発明に限れば、年平均8%で特許出願が増加していることにも言及した。また、ビジネス関連分野の特許出願は7割以上が登録になっており、特許が取りやすい状況であるという近年動向を、実績をもって紹介した。

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『Japan Startup Finance 2024』によると、日本のスタートアップ1社あたりの資金調達額は増加傾向にあり、大型の資金調達の一例として、2021年にネットの後払い決済サービスを提供するPaidy社がPayPalに約3,000億円で買収された事例が紹介された。竹本氏によれば、企業を買収する時に発生する課題として、会社の資産として期待している「社員」が辞めてしまい価値が下がるということがあるという。一方で、会社が保有する知的財産権は、買収後に確実に会社の資産として残ることから、買収先企業が知的財産権を保有していることには一定の価値がある、と自身の見解を述べた。

また事業を進めていく上で、特許登録済や特許出願中といった表示がメリットとなり得る具体例として、「自社の製品やサービスを守り、事業の重要度を確保する」「マーケティングに利用し、企業の認知を高める」「交渉のカードに使用し、事業活動を優位に進める」という3点を挙げた。競合他社を牽制するとともに、顧客からの信頼を高める。あるいは、他社との共同開発契約を行う際に、特許や商標などの許諾条件を含めることで自社に優位な内容で契約をまとめるといったシーンで、効力を発揮すると考えられるだろう。

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事業の進化に合わせ、権利範囲の異なる特許を複数取得する方法

竹本氏は、「自社技術で『特許』が取れるかどうか、を常に意識することは、他社と差別化できる自社の強みが鮮明に見えてくるメリットがある」と説明する。事業の進化に合わせ、必要な機能を多面的に権利化していくことは、未来に向けた知財戦略において非常に有用であることは言うまでもないが、これを可能にするのが「分割出願」だ。

特許の権利範囲は、出願時に提出する書面である明細書の「特許請求の範囲」の請求項に記載した内容にて規定される。この請求項は、出願時の明細書に記載した範囲内であれば、後から内容を補正することができる。また、「分割出願」を用いることで、出願当初の明細書や図面に記載されている範囲内で内容の異なる請求項を作ることで、複数の特許を取得することが可能になる。つまり、1つの出願を元にした、多数の特許権群(特許ポートフォリオ)を構築することが可能になる。

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続いて、外国出願についても言及があった。特許権はそれぞれの国ごとに審査を受けて登録になるという基本的な考え方を確認した後、国内出願した特許を基礎として外国に出願していく方法についても紹介があった。竹本氏は、その中でも「PCT出願」がスタートアップに向いている方法だと語り「各国の出願判断を先に延ばし、キャッシュの支払いも後ろ倒しにできる」と大きなメリットがあることを伝えていた。

知財の活用事例として、WHILL、フロンティア・ラボ、三島食品等を紹介

講演の最後には、本セミナーで説明があった手法等を使い、知財をうまく活用している企業の具体事例が示された。最初に紹介されたのは、電動車イスを提供する「WHILL」だ。同社経営陣はインタビュー等で「欧米で特許を取得できている点が評価され、シリーズA,Bの資金調達に繋がった」と語っており、知財活用が会社の成長にとって重要な役割を果たしているのがわかる。

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次に紹介されたのは、ガスクロマトグラフィーに関する技術を提供する「フロンティア・ラボ」だ。自社技術を特許とノウハウで保護し、この特許権をライセンスすることで製品を製造させ、島津製作所やアジレント・テクノロジーといった大手計測機器メーカーに検査装置を組み込んで販売してもらうという手法で、自社で製造や営業の機能を持たないファブレス企業でありながら、高い収益を実現しているという。

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最後に紹介されたのは、赤しそふりかけ「ゆかり」を提供する三島食品の商標活用事例だ。三島食品は、「“ゆかり”は三島食品株式会社の登録商標です」と自社商品に付記して周知を図り、ブランド認知を確保してきた。またおにぎりやカップ焼きそば等、コラボレーションを積極的に展開することで、ブランド使用によるライセンス契約を拡大しているという。もちろんこれに伴い、商品原材料としての「ゆかり」売り上げも増加している。竹本氏は三島食品の戦略を「ゆかりはキティちゃんと同じ他社コラボを活用した拡大戦略」と高く評価し、講演を締めくくった。

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文●山田光利 編集●合同会社二馬力 撮影●mao

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