イベント告知・レポート
弁理士&スタートアップ知財担当者が語る「スタートアップはどんな専門家にお願いすればいいの?」開催レポート
スタートアップ向け知財戦略ポータルサイト「IP BASE」を運営する特許庁は、2026年1月30日、オンライン形式で「スタートアップはどんな専門家にお願いすればいいの?~特許庁も一緒に考えるメンターの選び方~」を開催した。本イベントは、スタートアップが弁理士やコンサルタントなどの知財専門家を探す際、知っておくべき知財サービスの全体像、またスタートアップ側から見た専門家の選び方までを、現役の専門家から共有することが目的だ。
本イベントには、松本特許事務所の松本文彦氏(弁理士)、弁理士法人IPRコンサルタントの仲 晃一氏(弁理士)、野本・桐山国際特許事務所の桐山 大氏(弁理士)、スタートアップ知財担当の成尾佳美氏(博士(理学)・弁理士)が登壇。当日はそれぞれの立場から、現場視点の具体的な知見の共有が行われた。
スタートアップにとっての知財専門家の重要性
約400社の中小企業およびスタートアップに対して知財サービスを提供している松本氏は「スタートアップは自ら新しい市場を創造し、利益を確保する必要があるので、模倣品と差別化を行うために特許権による独占が有用」と述べ、スタートアップにとって特許は事業の競争力を守る生命線である、と指摘した。多くのスタートアップはリソース不足から知財対応を後回しにしがちだが、初期にリリースする重要な基幹技術が公知になってしまい、特許で守れなくなってしまうケースが多いという。
また、外部の弁理士とのコミュニケーションが不十分な場合には事業内容と乖離した特許出願や、事業戦略上重要でない部分に予算を使ってしまう失敗もおこりうる、と松本氏は述べた。こうした問題を避けるためには知財専門家を選ぶ際に、単なる出願代行ではなく、ビジネスモデルや将来の事業展開を理解し、自社の知財戦略を共に設計できる専門家を選ぶことが重要である、と述べた。
弁理士・知財コンサルとして権利化や訴訟等で数多くのスタートアップをサポートしている仲氏は、「弁理士の役割は単なる特許出願手続きにとどまらず、企業の知財戦略や事業判断に広く関わるものである」と意見を述べた。
仲氏は、弁理士の仕事は、1. 専権業務、2. 専権業務の周辺領域、3. 周辺のコンサル領域、の3つに分かれると整理した。1つ目の弁理士の専権業務には、特許明細書やクレームの作成、出願手続き、審査対応、侵害鑑定などがあり、これらは弁理士資格を持つ専門家だけが担う専権業務であると説明した。
続いて専権業務の周辺領域について、発明のヒアリング、知財戦略の検討、知財デューデリジェンスなどを挙げた。専権業務ではないものの弁理士の知識と経験が生きる領域であると述べ、「弁理士として、専権業務の質につながる最も重要な業務領域と考えている」と、仲氏はその重要性を強調した。
周辺に広がるコンサル領域としては、研究開発の方向性への助言、補助金申請や事業計画の整理、企業や大学との関係におけるアドバイスなど、知財を軸に事業と結びつくコンサルティング的な役割があるという。仲氏は「こうした活動を通じて、弁理士は企業の意思決定を支える伴走者として機能することが重要であり、他士業との連携や継続的なコミュニケーションによって判断の質を高めることが求められる」と述べた。
スタートアップから大企業まで幅広い支援経験を有する桐山氏は、「スタートアップにとって、知財専門家への依頼は必要か」という仮想の問題提起から検討を始めた。特許明細書の品質や権利範囲は一見分かりにくく、権利範囲の狭い特許や記載不足の特許は競合他社に容易に回避されるなど、実際には使えない特許になる可能性が高い。また、特許や意匠は新規性を失うと権利取得が困難になるため、後から取り返しがつかない場合が多い。このため、出願時の品質が非常に重要であり、出願前段階での専門家の介入が必須であると、その重要性について述べた。
桐山氏は、スタートアップが専門家を選ぶ重要な基準の1つとして「コミュニケーションをしっかり取れること」を挙げた。「大企業の出願のように過去に何度もやり取りしている内容であれば前と同じように処理すればいいが、スタートアップの場合は何を期待して出願するかを専門家に伝えないと、意図と全く違う権利になりかねない」と述べ、「なぜこの権利を取りたいのか」をしっかり聞いてくれる専門家をパートナーにすることが重要と説明した。
スタートアップの知財担当として知財戦略の策定や知財ポートフォリオ構築をリードする成尾氏は、知財専門家による支援の重要性について説明した。スタートアップは知財担当者が少人数で他業務と兼務することも多く、時間や経験の不足の中で知財業務を進める必要がある。そのため、外部専門家の支援は大きな助けとなると述べ、職務発明規程の雛形提供、共同研究契約交渉への同席、助成金申請の助言など、自身の経験談を紹介した。
また、成尾氏は「“スタートアップにとって完璧な専門家”が、どこかにいるわけではない」と指摘。それぞれのスタートアップが選ぶべき専門家のスキルは、技術分野、担当者の経験、事業フェーズなどによって異なるため、「自社の状況を良い点・弱い点含めて整理して共有し、課題を補完してくれる最適なパートナーを定期的に見直すことが重要である」と述べた。
スタートアップと知財専門家、それぞれの立場での注意点
左から、松本特許事務所の松本文彦氏、弁理士法人IPRコンサルタントの仲 晃一氏、野本・桐山国際特許事務所の桐山 大氏、スタートアップ知財担当の成尾佳美氏
ディスカッションの前半では、スタートアップから見る専門家の選び方について議論が行われた。松本氏は「ある弁理士に1度、相談したからといって、必ずその人に頼み続けなければいけないわけではない。まずは相談してみて、合わないと思ったら違う人に相談すればいい」とコメントした。成尾氏は「国が提供しているIPASなど、お金をかけずに知財専門家に相談できる仕組みがあるので、そのような機会を利用して相性の良い専門家を探すのも方法の1つ」と述べた。
ディスカッションの後半では、スタートアップを支援するにあたって専門家がどのような点を心がけるべきか、について議論が行われた。桐山氏は「知財の知識に乏しいスタートアップからは、弁理士だったら1秒で分かるような質問も来る。悩んでいるより、専門家に相談した方が早く解決する場合も多い。専門家も自身の持っているスキルに対してはきちんと費用請求をすることでサービスの価値を保つことができ、お互いwin-winになる。」とコメントした。
最後にイベントのオンライン参加者から、複数の弁理士に依頼する際の“使い分け”について、どのような分け方をしたら良いか、という質問があった。これに対して、仲氏からは「知財戦略を立てる弁理士と出願を行う弁理士を分けることで、お互いの得意分野に注力しつつスピード感を高めることができる」とアドバイスがあった。
■アーカイブ動画
文●山田光利 編集●合同会社二馬力 撮影●mao

