イベント告知・レポート
「生成AIスタートアップはほんとに特許が必要ない!?か検証しよう~投資家✕弁理士✕特許庁で語り尽くします!」開催レポート
スタートアップ向け知財戦略ポータルサイト「IP BASE」を運営する特許庁は、2025年12月23日、オンラインイベント「生成AIスタートアップはほんとに特許が必要ない!?か検証しよう~投資家✕弁理士✕特許庁で語り尽くします!」を開催した。投資家と弁理士を登壇者に迎えた本イベントは、AI分野についての理解を深め、またそれぞれの実務家視点から、AIに注力するスタートアップが知っておくべき知財戦略を深掘りすることが目的だ。
ディープテックを中心にシードアーリーステージのB2B Techに投資をしているアーキタイプベンチャーズの北原宏和氏より「投資家の目線からみたAIの特許について」の講演、続いて、AI分野の知財支援の経験が豊富な中村合同特許法律事務所の工藤嘉晃氏より「弁理士の立場から見たAI分野の出願や訴訟事例について」と題して話題提供が行われた。イベント後半では、特許庁法務調査員であり弁護士の比留川浩介氏がモデレーターとなり、北原氏と工藤氏をパネラーとしたディスカッションが行われた。
投資家の目線から見るAI分野の動向
投資家としてAI分野を注視している北原氏は、AI分野を中心とした国内外のスタートアップ投資の動向と、その背景にあるAI領域の産業構造について説明した。米国では投資件数の約4割、投資金額の約6割をAI関連が占めており、AI分野がスタートアップ投資を牽引しているという。日本の投資動向の特徴としては、AIネイティブ企業が大型の資金調達を行う例はまだ少なく、既存SaaS企業がAIを取り入れた事業展開をするために資金調達を行うケースが多いとのこと。
続けて、北原氏は現在のAIの事業領域を汎用的な処理を行う「基盤モデル」と特定の業務フローに入り込む「業務モデル」に分け、それぞれの動向を分析した。基盤モデル型は計算資源の投入による性能向上が限界を迎えたと見られていたが、Gemini3が計算資源の投下によって大幅な性能向上を再び達成したことにより、今後も計算資源の投入合戦がしばらく続くであろうとの見解を示した。
業務モデル型の例としては、法務領域でAIエージェントを提供する海外企業の事例紹介があった。専門性が高く業務フローが固定的な弁護士事務所向けからサービスを開始し、現在は市場規模が大きな企業法務向けにサービスを展開しているという。これまでのSaaSは法務など特定の業務を押さえた後に会計など同一業界内の他業務に進出して課金ポイントを増やす戦い方が主流であった。しかし今後のAI分野は、特定業務で洗練させたモデルを活かして同一機能を必要とする他の業界へ進出する戦い方が新たに出てくる、との見通しが語られた。
弁理士の立場から見たAI分野の特許の取り方
弁理士としてAIスタートアップの支援を日々行っている工藤氏は、「AI分野では特許は不要」と言われがちな理由として「アルゴリズムや学習モデルなどAIの内部構造は外部から観測できず侵害立証が難しいこと」「AI技術の更新速度が速く、特許審査の期間中に技術が陳腐化する可能性があること」が挙げられると指摘。これらの意見を踏まえたうえで、弁理士の立場からAI関連特許の有効な取り方について「AIアルゴリズムなどのコア技術ではなく、外部から観測可能なUI/UX、運用ログなどの外形部分に着目して権利化することで、侵害立証や事業価値の確保が可能になる」など、知財戦略の基本的な考え方を整理した。
また「スタートアップにとって特許は、訴訟だけでなく資金調達や提携交渉、クロスライセンスなどの場面で重要な役割を果たすもの。特許は積極的に取得すべき」と自身の見解を述べた。特許の具体的な取り方として、将来の事業展開を見据えて明細書に幅広い実施形態を記載し、分割出願によって事業の成長に合わせて権利範囲を幅広くカバーする戦略を説明した。
AIスタートアップにとっての特許とは
左から、特許庁 法務調査員 比留川氏、アーキタイプベンチャーズ 北原氏、中村合同特許法律事務所 工藤氏
ディスカッション前半では、AI分野においてスタートアップが特許をどのように活用すべきかについて議論が行われた。工藤氏は、UIや外形的な仕様は回避される可能性があるため、単に画面デザインなどを権利化するだけでは不十分であると述べた上で、「データの入出力や処理フローなど、事業を実施する際に必ず通る関所のようなポイントを押さえて権利を取得することが重要だ」という。特許は権利範囲が広ければ強い権利であるわけではなく、ビジネスモデルの中で競合が回避しにくい重要な部分を的確に押さえた特許こそ効果があることを指摘した。
また関連する話題として、自社事業が他社特許を侵害していないかを確認する調査の重要性が話題に上がった。工藤氏は、「十分な予算がある場合は侵害予防調査を行うことが望ましいが、資源が限られるスタートアップの場合には、特許出願の審査過程で特許庁から提示される先行技術情報を活用して他社特許を把握する方法も有効である」と、具体的なノウハウを語った。
スタートアップはどのように特許戦略を考えるべきか
ディスカッション後半では、AI分野においてスタートアップがどのように特許戦略を考えるべきかについて、議論が行われた。
工藤氏から、特許出願を検討する際には「どこでマネタイズするのか」──つまり、事業モデルを明確にすることが重要である、という基本的な考え方が示された。特許は、研究開発の成果に対する“ご褒美”ではない。技術そのものではなく、事業価値を守るための手段であるという認識が重要であることを、改めて確認した。
一方で、スタートアップの初期段階では、収益がどこで生まれるか明確になっていない場合も多いのも事実なので、その場合にはまず、事業の方向性や競合との差別化を整理する作業が必要になる、と工藤氏は指摘した。さらに、知財専門家がスタートアップの事業内容についてヒアリングを行い、事業戦略と連動させながら知財戦略を構築していくことが重要であると述べた。
ディスカッションの最後には、北原氏から工藤氏に対して「M&Aの際にスタートアップが保有する知財ポートフォリオは、どのように評価されるのか」と質問があった。工藤氏は、詳細は開示できないとしつつ「スタートアップが持っている事業と、それを保護する知財ポートフォリオをまとめて購入したいという大企業は、一定数存在する」とコメントした。
文●山田光利 編集●合同会社二馬力 撮影●mao

