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イベント告知・レポート

他社の知財権を回避し、自社の独自性を見出す重要性〜「たった1日で、まるっと起業家体験」知財ワークショップ開催レポート

FY2025 レポート 知財の基本

スタートアップ向け知財戦略ポータルサイト「IP BASE」を運営する特許庁は、2026年2月8日(日)、東京都が主催するスタートアップビジネスコンテスト&コミュニティ「TOKYO STARTUP GATEWAY」のイベント「たった1日で、まるっと起業家体験」にて、知財ワークショップを開催した。(開催場所:東京・有楽町 Tokyo Innovation Base)

特許庁総務部企画調査課スタートアップ支援班長の湊 和也氏より「特許庁におけるスタートアップ向け知財支援策」についての紹介を行った後、弁理士・一級知的財産管理技能士(特許・コンテンツ・ブランド)の押久保政彦氏が登壇。起業を目指す参加者に向けて、知財の重要性と基礎知識を伝える講演を開催した。本記事では、この講演について詳しくレポートする。

知的資産は目に見えないが、会社の売上や利益を上げる源泉である

講演の導入には「知的資産・知的財産とは何か」について解説があった。資本金や従業員数、財務データ等は会社の実績として目に見える情報であるが、その裏にはその会社が持つ技術やブランド、経営理念などが“見えない情報”として隠れている。その隠れた情報こそが「知的資産」であり、会社の売上や利益を上げる源泉は知的資産である、と押久保氏は説明した。

一方、「知的財産」とは知的資産の中から特許権や技術的なノウハウ等を切り出したものである。知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利の総称を、知的財産権という。

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特許庁の登録によって発生する産業財産権(特許権・意匠権・商標権・実用新案権)

知的財産権の中でも、特許庁の審査を経て登録になるものが「産業財産権」である。押久保氏は、実際の商品を例に、代表的な産業財産権について説明を行った。

事例として挙げられたのは、花王の食器用洗剤「キュキュット」だ。「素早い泡立ちとすすぎ、ぬめりが残らない」をコンセプトに、それを実現する新しい洗浄成分を特許権で保護し、「キュキュット」という名称を商標権で保護、さらに包装容器のデザインを意匠権で保護することで類似製品の参入を防ぎ、現在は花王の主要ブランドに成長しているという。

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自社の知的財産を知的財産権で保護することも重要であるが、他社の知的財産権を侵害した場合、自社製品やサービスの販売ができず、事業が停止してしまうことになる。他人の権利を知らず、偶然同じ内容を使ってしまったとしても、法律上は権利侵害となる場合がある。そのため、他社の知的財産権について能動的に調べる必要があると押久保氏は言う。

また、他社の知的財産権と比べることで自社の技術やネーミングに新規性や独創性があるかを確認することができる、と知財調査の有用性について言及した。「事業を行う上で関わってくる、技術やブランド、デザインやネーミングなど、様々な知的財産権について知ってもらうことが、今日の講演の目標の一つだ」と押久保氏は述べ、参加者自ら、他社の知的財産権を検索するワークショップを行った。

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参加者たちは押久保氏の説明に従い、特許庁に出願された特許や商標の情報が掲載されている「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」の簡易検索機能を利用して、自分が考えている技術的なアイデアやサービス名称などを検索する作業を行った。

押久保氏は、「例えば、特許を調べた場合は検索結果として特許公報という難解な書面が出てくる。内容が難しいと感じた場合には、弁理士など、知的財産の専門家に相談するのが望ましい」と、ネクストアクションについてもアドバイスを行いながら、参加者の作業をフォローした。

知的財産権の「登録」は、信頼蓄積や価値形成のスタートライン

技術的なアイデアやデザインは、特許庁から登録を受けることで特許権や意匠権などの権利が発生する。しかし、「知的財産権の登録を受けることは、最終的なゴールではない」と押久保氏は強調し、その代表例として商標権に言及した。「会社やサービスの名称やロゴは、商標権で保護することができる。しかし重要なのは、その商標に顧客の信頼を蓄積して、ブランドを形成し、それを保護することである」と押久保氏は述べる。

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商標権を考えるワークとして、3つの動画・画像投稿サービスのロゴを並べ、それぞれについてどのような印象を持つかについて、参加者と考える時間を取った。並べられたロゴを見たユーザーが、各サービスに期待していることを頭に思い浮かべられたら、各社のブランド形成は成功しているということになる。このように、「名称やロゴの商標を取得した後、その商標に顧客のどのような期待を蓄積するかが、商標運用の重要なポイントだ」と押久保氏は語った。

著作権は創作と同時に発生する権利であり、複数の権利の束である

講演の後半では、著作権について説明が行われた。著作権は登録手続きなしで発生する権利で、他人の著作物を使用する場合には原則として著作者の許諾が必要となる。例えば、ウェブサイトに掲載されている画像やテキスト、動画投稿サイトに掲載されている動画や音楽などには著作権が発生しており、著作者の許諾無く利用することは出来ない旨を説明した。

また、著作権は単一の権利ではなく、複数の権利が束になったものの総称である旨が説明された。例えば、他者の著作物をコピーする複製権、翻訳する翻訳権などである。著作権の中身は複雑であるため、スタートアップ経営者がそれぞれを細かく理解することは難しい。しかし、自分が行おうとしていることが他者の著作物を侵害するものでないかを意識し、気になる場合は知財の専門家に相談することが重要であると述べた。

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押久保氏は、著作権侵害の身近な例として、場所を人に説明するときにGoogleマップの地図を使用する例を挙げた。GoogleマップはGoogleの著作物であるため、第三者が地図を利用するときには「これはGoogleマップの地図である」旨を明記するよう利用規約にも記載がある。このように他者の著作物を利用するときには、「引用」等についての注意を払う必要があることを語った。

講演の最後に押久保氏は、参加者へのメッセージとして「他の人の知財権を回避して、周りの人との違いを打ち出して欲しい。自社で知財を取得することを目指せば、そのどちらも実現できる」と述べた。また、「他社の知財を回避し、自社製品を知財で保護することで、自分たちの製品やサービスについて、展示会やイベントで自信を持って商談や交渉ができるようになる」と語り、講演を締めくくった。

文●山田光利 編集●合同会社二馬力 撮影●mao

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