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イベント告知・レポート

「スタートアップの海外展開、知財の悩みは三者三様」〜IPAS Alumni2025開催レポート

FY2025 レポート IPAS グローバル

特許庁は2025年11月21日、「IPAS(特許庁・INPITが実施する知財アクセラレーションプログラム)」の卒業生・メンター・有識者委員など関係者を集め、コミュニティイベント「IPAS Alumni2025」を東京・TKP新橋カンファレンスセンターとオンラインを併用したハイブリット形式にて実施した。

2回目となる今回は、現在スタートアップ企業から海外展開への関心が高まっていることを受け、イベントテーマは「Beyond IPAS 世界と戦い勝てる企業を目指して」であった。

キーノートスピーチには、新興国におけるスタートアップ支援などを専門領域にしているデロイトトーマツベンチャーサポート株式会社より、井村賢氏が登壇。スタートアップの海外展開のステップとポイントを詳しく解説した。また後半のパネルディスカッションでは、IPAS卒業企業やIP BASE AWARD受賞企業から、株式会社ソラコム、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社、レグセル株式会社の知財担当者がそれぞれ登壇し、海外展開経験の実際を共有する、貴重な機会となった。

スタートアップの海外展開、そのメリットとは

「スタートアップの海外展開のステップとポイント」と題したキーノートスピーチでは、デロイトトーマツベンチャーサポート 井村氏がまず、スタートアップの海外展開のメリットとして「海外市場への展開を通じて、市場の拡大、多様なイノベーションの獲得、リスクの分散を図ることができる」と述べた。

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続いて「海外展開のステップ」を、調査フェーズ、戦略フェーズ、実行フェーズの3つに分類して説明。各市場へのローカライズについては、自身の経験から「日本のビジネスモデルのコピー&ペーストでは機能しない」と強調する。現地ニーズや環境、法規制などに基づき、事業モデルの調整や現地パートナーとの連携、時には事業や会社のあり方まで大きく変更することも必要になる、と述べた。

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井村氏は海外展開先におけるPoCの実施についても言及し、「顧客数の伸びなどの見せかけの指標ではなく、事業が成長するための成長エンジンが展開先の市場で回るかどうかを検証することが重要である」と語った。

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また、現地パートナーとの連携の重要性についても触れた。現地企業との連携は、地域の市場理解やネットワーク構築に繋がるだろう。また投資家との連携は、資金調達や事業拡大にとって必要不可欠だ。更に、現地大学との連携は研究開発や技術革新、また現地政府との連携は規制遵守や制作支援を得るために重要である、と語った。

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ソラコム、ピクシーダストテクノロジーズ、レグセル、各社の事業概要と知財戦略

パネルディスカッションでは、キーノートスピーチを行った井村氏がモデレーターとなり、「スタートアップの海外展開において直面した課題とその対応」というテーマで議論が行われた。質問に沿ってパネリストが回答し、また井村氏から随時質問を挟む形式で進行し、ソラコム、ピクシーダストテクノロジーズ、レグセルの3社から、事業内容と知財担当者の経歴の概要紹介があった。

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株式会社ソラコムの大舘薫氏は、2009年より通信キャリアで企業内弁護士として多数のM&A案件に携わってきた。2025年にソラコムに入社し、以来、同社の法務を担当している。ソラコムは現在、本社を東京に置きつつ、米国(ベルビュー・ワシントン州)と英国(ロンドン)にも拠点を設立しており、国内外で550キャリア、200以上の国・地域で繋がるAI/IoT通信サービスを提供している。

※本記事はイベント当時の内容をもとに構成していますが、数値情報については記事公開時点(2026年3月)の最新情報に基づき一部更新しています。

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ピクシーダストテクノロジーズ株式会社の木本 大介氏は、特許事務所での勤務を経て2018年にピクシーダストテクノロジーズに知財マネージャーとして参画した。入社後は知財責任者に留まらず、人事・広報・法務など幅広い業務領域を担当している。同社は創業期の研究成果を源流として複数の事業を展開しており、海外拠点は持たないが一部の事業については海外展開を行っている。

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2025年にノーベル生理学賞・医学賞を受賞した坂口 志文氏が創業したレグセル株式会社の弁理士を務める大門氏は、2020年度IPASプログラムで知財メンターとして同社に関わって以来、同社が開発する自己免疫疾患治療剤(S/F-iTreg)の知財ポートフォリオの構築に携わり続けている。日本で創業したレグセルだが、2025年3月に米国に本社を移転し、国際的な人材、資本、パートナーシップへのアクセスを拡大し、グローバル・パートナーへの事業開発アウトリーチを拡大している。

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海外展開の必要性や事前準備は、三社三様

最初の質問は「海外展開が必要と考えた理由と、そのためにした事前準備」だった。各社事業が全く異なるためか、回答は実に、三社三様となった。

ソラコムは、AWSジャパンの立ち上げに関わった創業者が、同様のプラットフォームをIoTの世界でも実現したいと考えて設立した会社だ。会社のミッションが「世界中の人とモノをつなげ、共鳴する社会へ」であり、創業時からグローバル展開に向けて準備を進めていたという。

「弊社の場合、通信という事業特性から、コア技術を守らないことにはサービス展開が厳しくなるということが当初から分かっていました。またグローバルでお使いいただけるサービスを展開する前提でしたので、知財については創業の比較的初期から意識して準備しておりました。海外展開の準備において特に重要だったのは、まず、コアとなるテクノロジーを明確にすること、そして守ることでした」(ソラコム・大舘氏)

一方、ピクシーダストテクノロジーズは“海外展開ありき”で事業を行ってきたわけではない、と木本氏は言う。CES (Consumer Electronics Show)などの海外展示会に出展し、現地の代理店や販売店の目に留まり、海外で売れる見込みがついたら、現地のパートナーを巻き込んで準備を進める。このような流れで、海外展開を進めることが多いそうだ。

「日本より海外の方が売れそうなものは海外で売る、というスタンスでやっています。ただ、事業領域やエリアを広げていくと、知財部門としてはどれだけ特許を出せばいいのか、という話になってきます。早めにやりすぎちゃうと、体力を序盤で失ってしまいます。特許は出すよりも出さない方が難しい。お金の蛇口をいつ開け閉めするのか、というところに神経を使いながらやっています」(ピクシーダストテクノロジーズ・木本氏)

製薬ベンチャーであるレグセルは、2025年に本社機能を米国に移したばかりだ。多くの製薬企業が考える「まだ治療薬のない、世界中の人々に、新しい治療薬を届ける」という理念を実現するためには、海外展開は必要不可欠だ。資金調達の拡充や、各国の規制に対応できる人材を確保する観点から、現在は米国での展開を進めているという。

「米国展開の準備に際しては、まず、実績のある経営者を社長に据えました。米国だけでなく、欧州の製薬企業に対するネットワークも持っており、米国で資金調達ができる人材として、投資家から紹介を受けたのがきっかけです」(レグセル・大門氏)

海外展開でうまくいった点、課題だった点

次に用意された質問、「海外展開を経験し、うまくいった点と課題だった点」についても、各社それぞれの事業内容と知財との関わりにより、各社が全く異なる状況であることが共有された。

「“通信”という、基幹インフラに近いビジネスに外資の立場で参入するのは、非常に難しいことです。そんな中、ソラコムが海外展開を進めるにあたって重要視したのは、現地でのネットワーク構築です。セールスやマーケティングは現地採用した社員を登用し、地域の実情を知るパートナーと地道に関係を構築していきました。また、早期に海外に拠点を作り、現地のカンファレンスなどに積極的に参加することで、信頼関係を広げていくことを心がけました」(ソラコム・大舘氏)

「海外展開がうまくいっている要因の一つとしては、海外展示会に積極的に出展したことが挙げられると考えています。JETRO(日本貿易振興機構)など、国の支援も活用して何度も出展しているうちに、『前に○○の展示会で見たよ』と声をかけられるなど、現地との関係が深まっていくのが分かりました。“海外”に対する社員の心理的ハードルが徐々に下がっていく、という効果もありましたね」(ピクシーダストテクノロジーズ・木本氏)

「2016年に創業したレグセルは、これまで日本国内の大学や製薬企業からライセンスを受けている特許契約が、数多くあります。契約時当初には、米国でのライセンスを想定した内容にしていなかったため、本社を米国に移転するにあたって各特許権者へ対応するのは大変でした。米国進出の必要性から説明し、許諾を得て契約を修正する、という稼働負荷は非常に高かったです」(レグセル・大門氏)

ディスカッションの最後に設けられた全員に対するQAの時間には、イベント参加者から「日本では大型の資金調達はもう無理なのだろうか?」という質問が、登壇者達に投げかけられた。これに対してレグセル大門氏は、日本における「100均問題(日本でバイオベンチャーがIPOする際の時価総額が100億円前後で頭打ちしてしまうこと)」に触れた上で、「私は日本のイノベーションを世界に届けることが大事だと思っている。日本でイノベーションは起き続けているので、そこを今後もサポートしていきたい」と語った。

文●山田光利 編集●合同会社二馬力 撮影●mao

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