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イベント告知・レポート

「知財」が成否を分ける?──生成AIを活用したDD効率化の実務とは?

FY2026 レポート VC-IPAS 投資・デューデリジェンス VC・金融機関

「VCへの知財専門家派遣プログラム(VC-IPAS)第1回公募説明会・勉強会〜生成AIを活用した投資検討時の知財DDの手順とは?~」イベントレポート

 特許庁は、革新的な技術を武器に成長を目指すスタートアップを支援するため、ベンチャーキャピタル(VC)へ知財専門家を派遣する「VC-IPAS」事業を展開している。2026年度の募集開始に向け、5月15日に都内およびオンラインにて第1回公募説明会・勉強会が開催された。当日は、キャピタリストが実務で活用できる知財デュー・デリジェンス(DD)の要点や、生成AIの活用法についての講演が行われた。

 開会にあたり、特許庁スタートアップ支援班班長の湊和也氏が登壇し、VC-IPAS事業の背景と目的について説明した。「スタートアップの成長を加速させるためには、VCをはじめとする支援者の力が不可欠である」と強調し、本プログラムを通じてVC内での知財を活用したリスク評価や投資判断のノウハウの蓄積を呼びかけた。また、昨年度の事業で取りまとめた「知財DDマニュアル(特許庁HP)」に言及。「スタートアップへの問いかけ方、専門家への依頼方法といった具体的な実務が記されているため、多忙なVCであっても知財活用に取り組むハードルを下げられるだろう」と期待を寄せた。

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特許庁 総務部 企画調査課 スタートアップ支援班長 湊和也氏

投資成功の鍵を握る!知財DDで確認する重要項目とは

 第1部では、弁理士法人セリオ国際特許事務所のパートナー弁理士、石井琢哉氏が「知財DDマニュアル」を基に第2章の「投資検討時の知財DD手順」について解説した。石井氏は「知財DDの目的は単に投資リスクの減少や検討精度の向上にとどまらず、支援先の成長加速にもつながる」と強調。実務上のステップを「予備審査段階」と「DD段階」の二段階に分け、それぞれの要点について詳細を述べた。

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弁理士法人セリオ国際特許事務所 パートナー弁理士 石井琢哉氏

 予備審査段階では、主に4つの点を確認するべきと説明した。まず最優先されるのは「①事業・技術の理解」であり、どのような技術を核とし、どこで収益を上げるビジネスモデルなのかをヒアリングを通じて深掘りする。次に「②知財の有無・出願方針の有無」として、保有知財リストの提出を求めるとともに特許情報プラットフォーム(J-PlatPat等)で事実関係を確認する。さらに、「③事業上の競争優位性」を評価するための事業戦略と知財の連動性の検証に加え、重大な障害となり得る「④予備審査段階に見ておくべきリスク」を精査する。具体的には、特許名義が創業者個人や前職の会社のままになっていないか、あるいは大学の研究からのライセンス条件に不利な点がないかといった、知財の帰属を見極めると解説した。

 DD段階では、投資の最終決定に向けて、主要な6項目を調査するという。「①知財ポートフォリオ」では、権利の登録状況や拒絶理由通知の内容、国内外の権利維持状況を精査し、「②競争優位性」では、知財が事業戦略と連動し、他社が容易に回避できない参入障壁を築けているかを分析する。「③第三者リスク(FTO等)」では、他社特許への抵触による差し止めや損害賠償のリスクの評価と必要に応じた専門家との回避策や無効化の可能性について検討するとした。また、「④契約関係のレビュー」では、共同研究の帰属や実施料率などが自社に不利な内容になっていないか確認し、権利が会社へ確実に継承されるよう「⑤発明の帰属」について確認し、将来的なトラブルを未然に解消する。最後に「⑥ソフトウェア・データ利用におけるリスク」の観点から、オープンソースソフトウェア(OSS)のライセンス遵守や、AI学習データ・個人情報の利用における法的・倫理的な透明性の担保も欠かせないと説明した。

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 投資検討においては、初期の予備審査段階で効率的なフィルタリングを行い、DD段階で専門家と連携して深層調査を行う「2段階のアプローチ」が推奨された。

 具体的な権利範囲の評価法として「空中栽培のメロンを収穫するロボット」の仮想事例が紹介された。ここでは、特許が実際のビジネスをどの程度カバーしているか、また競合他社に容易に回避されない内容になっているかを確認する重要性が強調された。知財が事業戦略と連動し、持続的な競争優位性を守る「武器」として機能しているかを見極めることこそが鍵になるという。

 最後に石井氏は、「知財DDには専門性の高い項目が多く含まれるため、状況に応じて専門家や生成AIを上手に活用し、投資の成功確率を上げてほしい」と語った。なお、「知財DDマニュアル」には実務に即した質問を網羅した「ヒアリングシート」が用意されており、重要項目の聞き漏らしを防ぐうえで極めて有効だ。

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初心者でも簡単?生成AIを活用した「知財DD」効率化

 第2部の前半では、弁理士法人レクシード・テックの特許技術者、土本晃久氏が「知財DDマニュアル」第3章「生成AIを活用した投資検討時の分析手法」に関して、「生成AIを活用した知財DDの効率化」について解説を行った。土本氏は、スタートアップにとって知財は資金調達やM&Aの成否を分ける重要な要素である一方、専門家への依頼コストや心理的ハードルの高さが課題であると指摘。その解決策として、生成AIを用いて自ら「予備的な検討」を行うことによる、知財実務の初動の効率化を提案した。

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弁理士法人レクシード・テック 特許技術者・博士(工学)土本晃久氏

 土本氏は、知財業務におけるAI活用の利点は「専門性の補完」「分析ノウハウの共有・継承」「専門家との連携」の3点にあると述べた。AIを活用すれば、外部の専門的な視点を擬似的に取り入れるだけでなく、検討の観点をプロンプトとして書き出すことができる。これにより、ノウハウを言語化し、専門家との連携をスムーズにすることができるようになる。一方で、AIが事実と異なる情報を生成する「ハルシネーション」への警戒や機密情報の取り扱いには注意が必要なため、運用上の対策が不可欠であると強調した。

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 またAIの性能が飛躍的に向上する一方で、土本氏は「安易な問いかけでは、本来知りたかった切り口が鈍ってしまう」と言及。AIから質の高い回答を引き出すためには、目的やステップを明確に定義し、AIに具体的な役割を提案する必要がある。生成AIのプロンプト紹介の中では、「目的」「手順」「定義」「出力形式」の4要素を組み合わせて構成された、公開情報のみをベースにした調査法を提案。企業のURLや技術テーマを入力するだけで、事業と知財の関連性を可視化できるため、知財の専門知識に乏しい初心者であっても、高度なAI分析を即座に実務に取り入れられると、そのメリットを説明した。

特許リスクを浮き彫りにする「クレームチャート×AI」

 第2部の後半では、同法人のパートナー弁理士、角渕由英氏が「知財DDマニュアル」第3章「生成AIを活用した投資検討時の分析手法」に関して、「知財DDにおけるクレームチャートの重要性とそのAI活用術」について解説した。角渕氏は冒頭「生成AIを使う場合でも、いきなり特許を調べるのではなく、まずビジネスを深く理解し、そこから逆算して知財を見ることが重要だ」と指摘した。

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弁理士法人レクシード・テック パートナー弁理士・博士(理学)角渕由英氏

 角渕氏はまず、 特許評価の核として「オールエレメントルール」を解説した。ここで重要なのは「自社特許を保有していても他社特許の侵害は起こり得る」という点である。自社独自の追加要素があっても、ベースとなる他社の要件を全て満たせば侵害が成立してしまう。このリスクを客観的に可視化するため、特許の請求項をパーツごとに分解、整理したものが「クレームチャート」であるという。

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 同チャートの作成は関係者間の「共通言語」として機能するというメリットがある。VC、スタートアップ、専門家が客観的事実に基づき「どの要件が未充足で、どの仕様が抵触し得るか」を具体的に議論できるようになるため、対話の解像度が上がり、投資判断の精度を高められる。また、チャートの素案作成は生成AIが対照表を迅速に作成できるため、調査時間とコストを大幅に削減することも可能であると説明した。

 AIの活用によって、専門的で難解とされてきた知財の領域を、容易にビジネスの領域に引き寄せられるようになった。まだハルシネーションへの注意は必要だが、AIやクレームチャートという「共通言語」を駆使することで、知財を強力なビジネスツールとして活用できるようになる。角渕氏は、「プロンプトの活用やVC-IPASを通じて、知財情報の活用をより身近に感じてほしい」と期待を込め、講演を締めくくった。

知財のプロを味方につける「VC-IPAS」

 最後に、「VC-IPAS(VCへの知財専門家派遣プログラム)」の事業内容および今年度の公募概要についての説明が行われた。

 2026年度の募集対象は、知財活動の本格導入を目指すVCおよびコミットメントの明確なキャピタリストであり、採択数は13社を予定している。募集期間は2026年6月22日までで、8月後半から約半年間、1社あたり100時間程度の専門家派遣支援が行われる。昨年度の事例としては、投資判断基準の強化や知財を軸とした事業提携の土台構築といった具体的な成果が報告された。特許庁の「IP BASE」ではメニューブック等も公開されているため、これらを参考に多くのVCが、本プログラムを通じて知財活用のノウハウを蓄積していくことが期待される。

文●ASCII STARTUP 撮影●曽根田元

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