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CEOが語る知財

株式会社Oceanic Constellations 共同代表取締役CEO 小畑 実昭氏インタビュー
市場がないなら、まず知財をつくる。水上ドローン企業が「産業の地図」を描いた理由

FY2026 インタビュー 事例共有 ロボティクス・ハードウェア AI・データ オープンイノベーション

株式会社Oceanic Constellationsは、USV(水上ドローン)の群制御という、世界でも新しい領域に挑むスタートアップ。社名に込めた「海の衛星群」という言葉の通り、同社は無人水上艇を海上でネットワーク化する構想を掲げる。海難救助、漁業支援、海洋調査、保安、防衛、気候変動への対応など、海に関わる複合的な課題に対して、まずは「海で何が起きているのか」を可視化することを目指している。市場がまだ立ち上がっていない領域で産業をつくるには、事業構想と同時に、必要な技術領域を先に押さえていく必要がある。同社はその考えのもと、2023年11月の創業から約2年半で22件の特許を権利化してきた。USV群制御という新しい領域で、知財戦略をどのように事業に組み込んできたのか。共同創業者の小畑実昭氏に聞いた。

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共同代表取締役CEO 小畑 実昭(おばた・さねあき)氏
2001年に東京大学法学部卒業後、ゴールドマンサックス証券に入社。株式会社シンフォニー・フィナンシャル・パートナーズを経て、2008年7月に株式会社ゼブラルを創業。2023年11月に株式会社Oceanic Constellationsを創業。

市場がない段階で、なぜ知財を先に押さえたのか

 Oceanic Constellationsが取り組むUSV群制御は、まだ市場が確立されていないフロンティア領域だ。USVとは、Unmanned Surface Vehicleの略で、無人で海上を航行する水上艇を指す。同社は単体の水上ドローンではなく、複数のUSVをネットワーク化し、海上に常時存在する観測インフラとして運用する構想を描いている。

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 小畑氏は、海の課題は単一用途では捉えにくいと話す。漁業の現場で海難救助が発生することもあれば、不審船の発見が保安や防衛につながることもある。海洋調査、災害対応、沿岸監視、資源管理は、同じ海域で重なり合う。だからこそ、特定の用途に閉じた装置ではなく、マルチパーパスな社会システムとしてUSV群を位置づけている。

 同社が注目するのは、日本のEEZ(排他的経済水域)の広さだ。国土面積に比べて非常に広い海域を持つが、その全体を常時把握する「目」は十分ではない。人工衛星や航空ドローンには観測範囲や時間、水中把握での制約がある。一方、USVは海上に留まりながら、水面上をカメラで、水面下をソナーで観測できる。

 しかし、新しい市場には別の難しさがある。競合が少ないということは、すでに形成された市場も、調達先も、ルールも存在しないということでもあるからだ。事業の前提となる産業基盤を、自社でつくりにいかなければならない。

 そこで小畑氏らが重視したのが知財だった。USVという領域がまだ立ち上がりきっていないからこそ、後から制約を受けないために、先に重要な技術領域を押さえる必要があったという。

 参考にしたのは、UAV(Unmanned Aerial Vehicle)、いわゆる空飛ぶドローンの市場形成の過程だ。UAVでは、海外企業が早い段階で存在感を高め、技術開発やサプライチェーンの主導権を握っていった。小畑氏は、他社の特許に阻まれて身動きが取れなくなる事態を防ぐためにも、初期から知財戦略を組み込む必要があると考えた。

 「先行して知財を押さえられてしまうと、それを迂回する形でしか技術開発ができません。USVの分野でそうした状況に陥らないようにするためには、事業戦略の旗立てと同時に、知財の戦略も同時軸でやらなければならないと考えました」

USV産業を広げるには、国内サプライチェーンも必要

 Oceanic Constellationsの知財戦略には、自社の競争優位を守るだけでなく、USVという新しい産業を日本で育てるという視点もある。

 意識している競争相手は、主に海外のプレイヤーだ。すでに無人機の技術開発や社会実装で先行する中国や米国勢と渡り合うには、個社の技術だけでは限界がある。そのため小畑氏は、仮に自社の脅威になり得る競合であっても、日本国内で海の無人機に取り組む企業がもっと増えたほうがいいと考えている。

 「USVの領域で日本が勝つには、産業としての広がりをつくることが不可欠です。関連する企業や技術が増え、部品やソフトウェア、運用ノウハウを含めた国内のサプライチェーンが強化されて初めて、世界と戦える基盤が整うと考えています」

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 USVの実用化には、フライトコントローラー、通信、センサー、舶用機器、造船、運航管理、データ解析など、さまざまな技術や産業が関わる。UAVやUGV(無人地上車両)と共通化できる部分もあり、日本が伝統的に強みを持つ舶用機器やセンサー技術との接続も重要になる。

 同社はその中で、群制御をコア技術と位置づけ、外部に依存しない「内製化」によって中核技術を囲い込みつつ、知財の権利化と掛け合わせて強固に守る方針を取っている。一方、USVのどこを自社で担い、どこを外部企業と協業するのか。その線引きを明確にすることが、協業先との役割分担をしやすくし、結果として産業全体の広がりにもつながっていく。

技術ではなく「振る舞い」から考える。事業から逆算する知財戦略

 知財戦略を進めるうえで、同社が特に重視したのは優先順位だった。USV群制御は新しい領域で、先行する特許がまだ多くない。そのため、権利化を目指せるテーマは多いが、スタートアップには予算も人員も時間も限られている。短期的なリターンが見えにくい知財に、どの程度リソースを配分するかは、経営判断そのものだ。

 Oceanic Constellationsは、事業全体から逆算し、どの領域をどの順番で権利化するかを事業戦略と並行して設計してきた。その起点になるのが、小畑氏が「振る舞い」と呼ぶ考え方だ。USV群が何のために、どのように動くのか。まず用途や動作のあり方を定め、その実現に必要な群制御アルゴリズム、ハードウェア構成、センサーやペイロードを検討していく。技術開発も知財化も、この「振る舞い」から出発する。

 開発面では、実機と仮想艇を組み合わせたシミュレーション環境も構築している。実際に海上を走るUSVの周辺に仮想艇を配置し、潮流や風速などの実環境データも取り込みながら、複数艇による群制御を検証する仕組みだ。

 こうした開発の過程で生まれるアイデアを、小畑氏が事業戦略に照らして整理し、知財ポートフォリオへつなげている。

 「現場で何をやっているかを把握したうえで、『ここが事業戦略上で重要だ』という点を見極め、知財としてどう構造化するかを考えています。そのうえで、弁理士やアドバイザーとも連携しながら、出願に落とし込んでいます」

 同社は、創業2年半で22件の特許を権利化してきた。今後も事業展開に合わせて出願を重ね、知財ポートフォリオをさらに固めていく方針だ。PCT国際出願や分割出願も活用しながら、将来の協業や交渉の場面で使える権利を整えている。

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特許は創業初期の信頼を示す材料になる

 知財は対外的な信頼形成にも役立つ。創業から間もないスタートアップが、官公庁や大企業と協議する際には、技術や構想の実現性をどう示すかが重要だ。小畑氏は、知財が「証明書」のように機能していると話す。

 「構想だけで終わらず、実際に取り組みを進めているスタートアップだという対外的な証明書として、知財は機能していると思います。22件の特許を持ち、USVの群制御に取り組み、実際に船を出して、政府との契約もいただきながら進めている。そうした説明をする中で、会社としての信頼につながっていると感じます」

 ディープテックやフロンティア領域では、技術や市場の輪郭を相手に理解してもらうこと自体が簡単ではない。知財ポートフォリオは、自社がどの領域に取り組み、どこに技術的な蓄積を持っているのかを示す共通言語になる。

 その信頼は、事業面での連携にもつながっている。小畑氏によれば、すでに130社ほどのサプライヤーと接点を持っているという。2026年5月には郵船ロジスティクスと戦略的パートナーシップ契約を締結し、船舶海事産業における取り組みを進めている。造船分野では、京浜ドックとのUSV量産に向けた提携や、造船会社と連携した統合実証機「β機」の開発も進む。

 さらに、鎌倉市・漁業組合等との密漁監視プロジェクトや、防衛省などの政府案件も含め、海洋・造船分野での行政・大企業連携が広がっている。

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日本が世界で勝つために。知財における『攻め』と『守り』

 Oceanic Constellationsは、特許を協業のための手札としても、将来の競争に備える権利としても位置づけている。現在の知財ポートフォリオをどのように活用しようとしているのか。知財における「攻め」と「守り」について小畑氏に聞いた。

 攻めの観点では、取得した特許(知財)が、USVという新しい領域において日本発の技術が世界で存在感を持つための基盤になるという。

 「海の無人機という分野は、日本が世界で勝てる可能性があると思っています。そのためには、個々の企業の取り組みに加えて、日本が知的財産権の面でも先行している状態をつくることが重要です。我々が先導することで、USVの分野で日本が十分に戦えるという実績を示したいと考えています」

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 守りの観点では、将来の競争や交渉の場面で使える権利を整えておくことが重要になる。

 「特許権は、一定の手続きを経て国が与える権利です。将来的に競合他社やサプライヤーとの交渉など、さまざまな局面が出てくると思います。そのときにきちんと使える特許権を企画して、出願戦略を練っています」

 公開して権利化する技術と、社内に蓄積して秘匿する技術の使い分けも重要になる。群制御というコア部分は内製化による秘匿と知財の掛け合わせで守りを固め、 USVに搭載するセンサーやペイロードは外部との協業を通じて広げていく。特許化、秘匿、協業の範囲を整理し、事業戦略と知財戦略を密接に連動させている。

市場の段階によって、知財戦略の組み立て方は変わる

 新しい市場を切り開くスタートアップにとって、知財戦略をどう考えるべきか。小畑氏は、まず自社が置かれている市場の段階を見極めることが重要だと話す。

 すでに競合がいる市場に入る場合と、まだ市場が立ち上がっていない領域に挑む場合とでは、知財戦略の組み立て方が変わる。Oceanic Constellationsの場合は後者であり、自社の事業だけでなく、産業全体の広がりも見据えて知財を設計する必要があった。

 「取り組もうとしている市場が、ゼロイチ(0→1)のブルーオーシャンなのか、すでに競合がいる中での後発的な取り組みなのかによって、知財の戦略は変わると思っています。ブルーオーシャンであれば、会社として何が最重要で保護されるべきなのか、産業の発展という観点で何が重要なのかを考え、広範に計画を練る必要があります」

 小畑氏は、すべてのスタートアップが同じように多数の特許を出願する必要があるとは考えていない。例えば、特定のコンポーネントや要素技術に強みを持つ企業であれば、その技術を守ることに重点を置いた知財戦略が合う場合もある。重要なのは、出願件数そのものではなく、自社の事業と市場の状態に合った強弱をつけることだ。

 市場形成という意味では、知財だけでなく安全基準への備えも欠かせない。同社は、日本海事協会や東京海洋大学などと、小型USVの運航に関する安全基準のワーキンググループにも取り組んでいる。事故が起きれば、USV全体への規制につながる可能性もある。自社として安全基準や運航手順を整え、必要に応じて説明できる状態をつくることも、新しい市場を育てるうえで重要になる。

「海の衛星群」を社会システムとして実装する

 Oceanic Constellationsが目指す「海の衛星群」は、海上に常時存在するUSV群を、海洋調査、保安、物流、災害対応などに活用する構想だ。現在は、実機開発、群制御ソフトウェア、実機と仮想艇を組み合わせたシミュレーション環境、センサー連携、官公庁や大企業との実証・提携を並行して進めている。

 運用する海域によって、通信やシステム連携の考え方も変わる。沿岸では地上側の通信インフラとつながりやすい一方、遠洋では衛星通信との接続が重要になる。上空の衛星、海上のUSV、水中のソナー、陸上の運用システムを組み合わせることで、海のモニタリングはより立体的になっていく。

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 「既存の出願にも入れていますが、上空の衛星との縦の連携はかなり意識しています。USVだけでできないことも多いので、社会システムの一部を形成するものとして、外部システムとの連携を強く意識して設計しています」
 
 あらゆるセンサーやシステムを総動員しなければならないほど、 広い海で何が起きているのかを常時把握することは、簡単な課題ではない。だからこそOceanic Constellationsは、USV群制御を一つの技術としてだけでなく、海を可視化する社会インフラとして育てようとしている。

 同社が創業初期から知財戦略を重視してきたのは、この構想を一つの製品ではなく、新しい産業として成立させるためでもある。市場が形になる前に、必要な技術領域を整理し、権利として押さえ、協業の余地を設計する。Oceanic Constellationsの取り組みは、フロンティア領域で知財をどう事業に組み込むかを示す一例といえる。

 日本の海を起点に、世界の海洋インフラをどう塗り替えていくのか。Oceanic Constellationsの今後の航海から目が離せない。

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文●松下典子 聞き手●北島幹雄 編集●ASCII STARTUP 撮影●曽根田 元
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