スタートアップエコシステムと知財
Minc CEO トーマス・デ・ソウザ氏、Japan Hub運営 ブロムベリひろみ氏インタビュー
北欧マルメ市に学ぶ、多国籍都市に日本のスタートアップが進出する意義と初期の知財戦略について
スウェーデン・マルメ市が運営するイノベーション支援施設「Minc(ミンク)」は、スタートアップを支援する多数のプログラムを提供している。同施設では、マルメ広域経済圏と日本を繋ぐ目的で実施されているプログラム「Japan Business and Innovation Hub(以下、Japan Hub)」を通じて、日本のスタートアップや大企業は、マルメ市との関係を深めているという。今回は、MincのCEOを務めるトーマス・デ・ソウザ(Tomas de Souza)氏、Japan Hubの運営を担当するブロムベリひろみ(Hiromi Blomberg)氏に、Minc及びJapan Hubが行っている支援内容について詳しく話を伺った。
180以上の国・地域の人が生活するマルメ市が持つポテンシャル
世界知的所有権機関(WIPO)が毎年発表するグローバル・イノベーション・インデックス(GII)は、各国のイノベーション能力とその成果を評価する国際指標である。2025年、この国際指標でスイスに次ぐ第2位にランキングしたのがスウェーデンだ。そしてマルメ市は、スウェーデン第3の規模を誇る都市である。
マルメ市の特徴の1つは、そこに住む市民の多様性である。現在スウェーデン人を含め187の異なる国籍を持つ住民が、マルメ市に住んでいるという。多くの日本企業が新たなビジネスチャンスを求めてマルメ市を訪問しており、あるスポーツ用具メーカーの担当者は「187の国籍の人々が住んでいるこの街なら、多様な人種に関する身体データを一挙に取得できる可能性がある」と驚いていたそうだ。
「スウェーデンは決して大きな市場ではありませんので、市場ではない“何か”を日本企業に提供しなければならないと考える中で、共に価値を創造し共に関係を築き上げていくことで貢献したいと思っています。例えば、多様な市民との交流や、意思決定者などのステークホルダーとのスムーズな結びつきです」(ブロムベリ氏)
Japan Hubの運営を担当するブロムベリひろみ(Hiromi Blomberg)氏
マルメ市が運営するイノベーション支援施設と日本連携プログラム
2002年にマルメ市によって設立されたイノベーション支援施設「Minc」は、マルメ市の中心部に約5,000平方メートルのコワーキングスペースを所有し、2025年12月時点で約100社のスタートアップ企業が同施設を活用している。Mincはスタートアップを支援する多数のプログラムを提供しており、目下約30社のスタートアップがプログラムに参加しているという。マルメ広域経済圏と日本を繋ぐ目的で実施されるJapan Business and Innovation Hub(Japan Hub)は2024年5月に開始したプログラムだ。
マルメ市は、東京都、神戸市、福岡市など、日本のスタートアップ経済圏と良好な関係を築いている。例えば神戸市とは、神戸に拠点を持つスタートアップ10社をマルメ市に招き、Mincによる支援を提供するプログラムを行っている。また、東京都とは、日本のスタートアップによるアイデアや技術力を活用して海外都市の課題解決を目指すキングサーモンプロジェクト・海外都市課題解決コースを共同で実施している。
マルメ市の隣にはルンドという都市があり、過去にはソニー・エリクソン社の本社が拠点を構えていた。ルンドに住むスウェーデン人と日本人との、仕事における関係性は非常に良好で、日本と関わりたいと考えている人が今でもたくさんいるそうだ。日本企業が海外に進出するにあたり、現地に味方となる人材が多くいることは、非常にポジティブな要素となるだろう。
「知的財産」を幅広くとらえ、ブランド構築や顧客対応も含めた支援体制
Mincがスタートアップに対して行う支援の内容は、資金調達、プロダクト構築、営業やマーケティング、そして知的財産に関するサポートまで、多岐に渡る。現在MincのCEOを務めるトーマス氏は、これまでに医療系スタートアップの経営を行い、Mincの支援プログラムに参加していた経験がある人物だ。トーマス氏は実際にMincから支援された当事者として、「Mincには、自社ブランディングとポジショニングについて、本当に良いサポートをしてもらいました」と当時を振り返る。
「事業目的、事業を行う理由、そして自分たちが何者なのかを明確にした上で、どのような問題を解決しようとしているかを明確にすること。これらが私たちにとっての鍵でしたし、Mincに参加している多くの企業にとっても重要です。Mincを利用するスタートアップはこのような議論を行った後に、商標を活用したブランドの適切な保護について支援を受けることができます」(トーマス氏)
MincのCEOを務めるトーマス・デ・ソウザ(Tomas de Souza)氏
Mincでは知的財産に関する支援を広く捉え、会社のブランド構築や顧客とのコミュニケーションに踏み込んだ相談も多く行っている。スタートアップの特許出願は、投資家からはその会社の技術レベルを示す証拠として評価されるケースが多く、査読を受けた学術論文と同等の評価を得られるケースもあるという。しかし一方で、「初期のスタートアップが特許取得に多額のコストを割くべきかは、慎重に検討すべきと考えている」と、トーマス氏は語る。
「私が経営していた医療ベンチャーは、当時アーリーステージで特許取得に年間10万ユーロを投資していましたが、最終的に特許を取得できるかどうかは不透明でした。将来の不確実な可能性に備えて多大な労力と資金を費やす必要がある、これが知的財産にまつわる現在のシステムの弱点だと私は考えています。今のシステムは、知的財産権を活用できる大企業に有利な状況に傾いているように思います」(トーマス氏)
スウェーデンで特許取得を必要とするスタートアップの多くは大学の技術を元にしている。スウェーデンの大学機関は特許関連のサポートを手厚く行っているため、大学発スタートアップがMincの支援プログラムに参加するタイミングで、既に特許に関する支援は受けている状態となっていることが多いという。
日本のスタートアップコミュニティへ「是非マルメ市においでください」
インタビューの最後に、マルメ市から海外進出に関心を持つスタートアップに向け、「マルメ市のスタートアップエコシステムに興味のある方は、ぜひMincにお越しください」と、メッセージを受け取った。
「日本のスタートアップは、様々な政府や大都市から支援を受けて、海外のスタートアップ経済圏に進出しています。マルメ市は小さな都市ですが、このような都市での経験も、将来の成長に繋がる貴重な機会となるはずです。スウェーデン人は、人間関係を非常に大事にします。時間をかけて企業や人々と知り合うようにしてください。人間関係への投資は、必ずみなさんの未来に価値をもたらすと確信しています」(トーマス氏)

