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スタートアップエコシステムと知財

株式会社Tech CFO office 代表取締役社長 松本雄大氏インタビュー
圧倒的にCFOが足りない国内スタートアップを支える、新たな経営伴走支援のあり方

 スタートアップにとって、お金に関するプロフェッショナルであるCFOは成長の要だ。しかし、人材流動性が低い日本ではその確保が難しい。株式会社Tech CFO officeでは、主にCFOを採用する前のフェーズのスタートアップに対して、戦略の立案から資金調達、会計など、CFOがいれば担う分野全般のハンズオン支援を行っている。代表取締役社長の松本 雄大氏に技術系スタートアップにおけるCFOの役割や、特許庁の知財アクセラレーションプログラムIPASのメンターとして知財戦略を活用し、どのように資金調達支援を行っているかを伺った。

株式会社Tech CFO office 代表取締役社長 松本 雄大(まつもと・たけひろ)氏

公認会計士。有限責任監査法人トーマツにて会計監査業務に従事、ボストンコンサルティンググループおよびデロイト トーマツ ベンチャーサポートにて経営コンサルティング業務に従事。2019年に株式会社Tech CFO officeを設立。多数のスタートアップ企業に対しCFO業務の支援を実施している。京都大学 経営管理大学院にて新規事業創出論の非常勤講師も務めている。

CFOはスタートアップのお金にまつわる様々な悩みを解決するプロフェッショナル

 株式会社Tech CFO officeは、プロフェッショナルなCFOを求めているスタートアップに対してハンズオン型のコンサルティングを行なっている。

 数億円規模の資金調達を希望するスタートアップ企業はCFO採用前であることが多く、経営者はお金にまつわる様々な悩みを抱えている。そういった企業に対して、株式会社Tech CFO officeではCFO役、管理部長役、バックオフィス担当役を担うコンサルタント達がチームを組んで、経営者の求める様々な支援を行っている。

 支援内容は主に3つあり、その1つが戦略立案だ。

「とくに技術系の会社はピッチを行う際に技術の説明に偏りがちになることが多いので、まずは経営者の考える世界観を言語化し、一言で魅力を伝えられるようにするところからスタートします。事業が開花することで誰にどのようなメリットを新しく提供できるか。具体的なイメージを言語化やビジュアル化し、独自性、競合優位性が何かをディスカッションしたうえで、事業戦略を立てていきます。どんなに優れた技術があっても経営者が世界観を伝えることができないと、顧客、投資家、従業員に会社の魅力を伝えることが難しくなります」(松本氏)

 2つ目は資金調達。将来の事業計画を正しく数値化し、投資家にも会社の魅力を感じてもらうにはどうしたらよいかを議論する。加えて、多数の信頼できる投資家とのネットワークを有しており、事業計画を提示して口説くところまでをサポートしている。

 3つ目は会計となる。資金調達したお金がどのように使われているか、経営者や投資家が一目でわかるよう正しく会計処理を行う。また、ITを駆使することで、スタートアップらしい効率的な経理オペレーションを実現するだけでなく、将来のIPOやM&Aに必要な経理水準を実現するための各種支援を行う点が同社のコンサルティングの特徴だ。

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「CFOの役割は、経営者のお金にまつわる悩みに一緒に向き合い、その負担を少しでも軽減してあげることになります。スタートアップのCFOは経営者とあらゆる経営課題や打ち手をディスカッションして事業計画を作り、顧客、投資家、従業員の間でお金を血液の様に途切れることなく循環させていけるかを検討することが必要になります」

 スタートアップを支援するには、どこか一つの専門分野に明るいというだけでは不十分。事業戦略を立案し、資金調達を行い、調達した資金が会計上どのような結果につながるかを一気通貫で支援できる広いスキルがスタートアップから求められると松本氏は語る。

「大企業向けにコンサルティングを行うプロフェッショナルファームでは、戦略、資金調達、会計の支援を行う部門を分けて、大学病院のように専門特化したコンサルタントを育成していることが多くなっています。また大企業側も豊富なコンサルティング予算で複数のコンサルタントに様々な経営課題を解決させています。一方で、ベンチャー企業は予算的に複数のコンサルタントと同時に契約することが難しい。そのためベンチャー支援の現場では、まるで離島で開業した町医者のように、一人のコンサルタントが様々な経営課題の相談を受けることが求められています。」

  松本氏は、これまで複数のプロフェッショナルファームで経験したことを活かして、戦略コンサルティング、ベンチャーファイナンス、会計(IPOやM&A含む)に関する支援を1人3役で提供していることがベンチャー支援における強みになっていると語る。

 国内でもスタートアップの資金調達総額が年々増えているが、その一方で、CFOの数は圧倒的に不足している。

 現在、Tech CFO officeのメンバーは6名で構成されており、顧問案件やスポット案件を通じて約30社強のスタートアップ企業を支援している(2022年3月時点)。今後、CFOを目指す公認会計士の採用や育成にも取り組み、将来的には数百社の企業を支援できる体制を構築するのが目標だという。

知財戦略を活用して資金調達につなげるポイントとは

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 松本氏は、前職のデロイト トーマツ ベンチャーサポート時代に特許庁の知財アクセラレーションプログラムIPASの立ち上げ時から事務局として企画運営に関わっており、独立開業後もビジネスメンターとして登録を行い継続的にIPASに関与している。

「初期のIPASでは知財戦略の絵を描くところにフォーカスをしていました。IPASプログラムとして特に満足度が高い支援チームを見ていくと、知財メンターとビジネスメンターが協力することで、知財戦略の立案だけでなく実行支援のさわりまでをプログラム期間内で行っているチームであるという点に気がつきました。私がメンターとして参加するチームでも気を付けているのは、絵を描いておしまいでなく、その絵を手に数多くの投資家を回り、実際の資金調達のきっかけを作る実行支援まで行うことを意識しています」(松本氏)

 特許申請が目的の知財戦略と投資家を説得することが目的の知財戦略とでは、求められるアウトプットも変わってくる。

「資金調達を目指す場合、IPAS支援期間の初期段階で社長の世界観を具体化することに多くの時間を使う必要があります。最初のビジネス設計に時間をかけることでビジネスやプロダクトの差別化ポイントが明確になり、知財メンターもスムーズに知財戦略を立案できるようになります。逆に、ビジネスの戦略が抽象的だと、関係する知財メンターの方も知財戦略を立てにくい。社長や知財メンターの考える知財戦略を活用して、ビジネスの結果につなげる役割をビジネスメンターが果たしています。通常は同じ会議室に集まることが少ない知財メンターとビジネスメンターが連携し、専門性の高いサポートを連携して提供できることがIPASの最大の特徴となっています」

 優れた技術やプロダクトを作っただけでは、投資家や顧客、従業員にその魅力を伝えられない。松本氏のメンタリングはスタートアップの社長自身がまだ事業の将来像を具体的に描けていない段階から伴走し、客観的な目線から会社の魅力をどうやって伝えていくかを議論していくことから始まる。その結果フォーカスが明確になり、経営者と知財専門家が知財戦略をスムーズに立案し、競争優位性、独自性を創れるようになる。

「技術系スタートアップでよくあるのは、『この技術をあれにも使いたい、これにも使いたい』と議論が発散するのみで、顧客や投資家から見たときにその会社の魅力が伝わりづらくなってしまうことがあります。社長の思い描く世界観をMVP(Minimum Viable Product)として必要最低限の機能にしぼった製品やプロトタイプに落とし込むとどうなるかを議論することを意識しています」

 最終的なゴールは変わらないとしても、そこにたどり着くまでには段階があり、そのステップをうまく刻むことが重要だ。刻み方の勘所をうまくつかむためにも、経営者に伴走してくれる専門家が必要とされている。

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 IPASで意識したポイントは徹底的な「投資家目線」にあるという。

「IPASの前半では社長に夢や世界観を語って頂き、それを投資家に現実感があると感じてもらう計画に落とし込むにはどうブラッシュアップすれば良いかを徹底的に議論します。例えば、社長の思い描く世界観の中で一番重要な顧客層は誰か、その顧客が切望しているプロダクトやサービスは何か。そのなかで一番優先して開発すべき機能は何かといった内容を、知財専門家やビジネス専門家も交えて喧々諤々の議論をして考えていきます。

 IPASの後半では、前半で作った”夢のある現実的な”計画を実現するために、スタートアップが有する既存技術や新規技術をどう活用し守っていくかという知財戦略を立てていきます。複数の分野の専門家と一緒になって夢や世界観を議論した後に、知財戦略を立てるという順番が重要になります」

 2021年度は、IPASの最後の1カ月で10社ほどの投資家を回った。「IPASで議論しつくされた知財戦略や事業計画をもとに資金調達の相談をスタートできることはありがたい」と投資家からも好評だ。

 また「スタートアップ支援を行う際はカスタマイズしたサービスをつくることが自分の役割」と松本氏。社長のキャラクターに合わせて支援の進め方や内容を変えることも意識している。「事前に気を利かせて段取りをしておいてもらうことを望む社長もいれば、逆に、自分では自由に計画を立てて、あとで整理整頓をしてほしいという社長もいらっしゃいます。IPASでも、常に社長の思いに寄り添ってカスタマイズした支援を心がけています」

越境思考をもった公認会計士、弁理士、CFOがますます必要になる

 スタートアップ企業が順調に成長していくと、いずれは専任のCFOを採用することが必要になる。松本氏は公認会計士協会東京会青年部の委員として、スタートアップに興味のある若手の公認会計士の育成を支援する取り組みも進めている。

「大手プロフェッショナルファームに所属する若手の公認会計士やコンサルタントから、CFOになりたいという相談を受けることが増えています。これまで培ってきた専門分野に加えて、知財や資金調達など新しい分野を学ぶ必要があるとわかってはいるものの、それを学べる学校のような組織はまだ世の中にはありません。それが実践的に学べる環境を作っていきたいと考えています」(松本氏)

 最後に、スタートアップエコシステムをさらに活性化するために必要なものを聞いた。

「越境思考をもった公認会計士、弁理士、CFOがますます必要になると思います。例えばIPASで取り扱っているような知財と資金調達など、複数の専門分野にチャレンジする専門家の数が増えるとエコシステムがさらに活性化すると思います。プロフェッショナルファームの方にもプロボノや副業としてスタートアップ支援に関わっていただき、ぜひ活躍の幅を広げていただけるとうれしいです」

 マルチスキルの専門家の支援があれば、新規事業の立ち上げや資金調達がしやすくなる。マルチスキルの専門家が増えることで、スタートアップのすそ野が広がり、生み出されるリターンも大きくなっていくだろう。

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(関連サイト)
  ・特許庁のスタートアップ向け情報
  ・アスキー スタートアップ 

文●松下典子 聞き手・編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 撮影●曽根田元