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知財のプロが語るスタートアップとの新しい働き方

【「第6回 IP BASE AWARD」スタートアップ支援部門奨励賞】弁理士法人 レクシード・テック 弁理士 南野研人氏インタビュー
多様な専門家と協力し、スタートアップの成長を“一気通貫”で支援

FY2025 インタビュー 弁護士・弁理士

第6回 IPBASE AWARDのスタートアップ支援者部門で奨励賞を受賞した、弁理士の南野研人氏。技術系の法務を得意分野とする弁護士と共に弁理士法人を設立し、大学発スタートアップの知財活動支援などに精力的に取り組んでいる。本インタビューでは、南野氏にこれまでのキャリアや今後の展望、また弁理士としてスタートアップを支援する魅力などについてお話しを伺った。

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弁理士法人 レクシード・テック 弁理士
南野研人(みなみの・けんと)氏
京都大学大学院生命科学研究科博士課程を2012年に修了後、特許事務所に入所。2014年に弁理士登録。
2022年に化学・バイオ分野を中心として一気通貫のサービスを提供する弁理士法人レクシード・テックを共同設立。

大学院時代に参加した勉強会に触発され、知財専門家の道へ

 京都大学の博士課程を修了後、特許事務所に入所した南野氏。大学院時代に医薬関係の開発や知財に関する勉強会に参加し、そこで議論した内容が興味深かったことが、知財専門家の道に進むきっかけになったという。

「勉強会では製薬企業の知財部の方などに話を聞いて、新しい技術を社会に実装する上での知財の役割や戦略について議論する機会をいただきました。自分が研究者として携わることができるのは自分の専門分野に限られますが、知財の仕事であれば、ライフサイエンスに関して様々なことを見聞きしながら幅広くいろんなことができる。それを魅力に感じて、知財の道に進むことにしました」(南野氏)

 そして特許事務所でスタートアップの支援を続ける中で、弁理士が単独で出来る支援と、弁護士など他領域の専門家と一緒に動くことで出来る支援には、大きな違いがあると感じたという。それが、弁理士法人の設立に際して、弁護士と共に立ち上げるという選択につながっていった。

「企業は、事業活動の中で様々な契約を結ぶことになります。弁理士という立場では、知財に関する契約内容を一緒に考えることは出来ますが、スタートアップの事業フェーズが進み、クライアントのステージが進めば進むほど、弁理士だけでサポートを行うことには限界があると感じてきました。

 例えば製薬業界であれば、初期は契約書の中で知財が占める割合が大きくても、だんだんとその割合が少なくなっていって、薬機法など、業務に関連する法律知識が必要な機会が増えてきます。弁理士と弁護士が組んで仕事をする方が、お客様にとってメリットがありますし、自分たちの事務所だけで一気通貫で見られる方が良いサービスになると思って、弁護士と一緒に弁理士法人を設立することにしました」

シーズを持った研究者との出会いはVCの紹介から

 大学発スタートアップ支援を多く手掛ける南野氏。研究者は事業化や明細書作成というものに接する機会が少ないと言われることも多いが、若い世代の研究者の中では、スタートアップの創業が一つの選択肢として定着してきているのではないか、と語る。

「昔は『自分はお金のために研究してるんじゃない』という信念をお持ちで、研究成果の特許化やスタートアップ設立に否定的な先生もおられました。しかし今は『自分の研究成果を社会に届けたい』という考えを持たれる先生方が増えて来たように思います。特に若い先生は『チャンスがあれば社会実装してみたい』という方が多くなっている印象で、そこは根本的に世代間で意識が変わったな、と思います。

 私は今、42歳ですが、自分より下の世代の研究者にとってスタートアップを作ることはそんなに特殊な選択肢ではないというか、むしろリーズナブルな選択肢と考えている人も増えているように思います。加えて、若い世代の方は、自分が大学院生だった頃に上司のプロジェクトの一環で特許出願に関わった経験を持っているケースも多く、昔に比べると特許に拒否感を持っている人が少ないようにも感じています」

「他の専門家と協力した一気通貫の支援」が評価された奨励賞の受賞

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 南野氏は、第6回 IP BASE AWARDのスタートアップ支援者部門で奨励賞を受賞した。南野氏が弁護士と共同設立した弁護士法人/弁理士法人は、多様な専門家を自社に抱えていることが特徴だ。AWARD受賞時にも「創業前支援に注力し、特に大学発スタートアップにおける知財戦略の構築で貢献。調査、契約、知財戦略、研究開発や事業への助言など支援の幅が広く、他の専門家との協業にも意欲的」と、この点が高く評価されている。

「クライアントとしては、1か所に相談したらまとめて回答がある方が楽だと思うんです。その点でワンストップでサポートができたらいいなというのが元々あって、いろんな得意分野を持った人を集めていきました。最近では、VCで投資家として事業評価を行っていた人材が戦力に加わった。キャピタリストから知財の業界に入ってきて、いま弁理士試験の勉強中ですが、資格を取れたら結構ユニークな経歴になると思います」

 スタートアップの成長を支える専門人材の層は、日本と米国では大きな差があると南野氏は語る。

「米国のVCと日本のVCには大きな違いがあって、日本のVCはお金と口は出すけど人は出さないんです。一方、米国のVCはお金も口も出して、さらに人も出すんです。投資先のスタートアップに足りないリソースがあったら、VCが必要な専門家を見つけて、どんどんアサインしていく。足りないリソースを埋めていかないと、自分にリターンが返ってこないからですね。

 エグジットしたスタートアップの元社員などが次のスタートアップの成長を支える人材の源泉になるのですが、その回転を加速させる仕組みが米国は機能していて、それだけの専門家が人材プールにいるのは米国の魅力だと思います」

大学発スタートアップを支援する、そのきっかけと必要とされる能力

 創業前の研究者と接点を作るきっかけはVCからの連絡が多いという。

「弊所の場合、大学の研究シーズに投資を検討しているVCから、研究者の知財や技術を評価してほしい、知財を見直すべきであればどのように改善したら良いかアドバイスしてほしい、と依頼をいただくケースが多いです。 

 いわゆる独立系の大学と関係ないVCは、学会発表や論文を見てこの技術は面白いと先生にアプローチするケースが多い。そうなると、最初の特許出願が既に終わっている、一方でPCT出願までには時間があるのでその間に何とかしたいといった相談も結構いただきます」

 ライフサイエンス分野の博士号を有する南野氏。同領域で大学発スタートアップを支援する際には、研究者としての経験が活かされているという。

「大学発スタートアップを創業前から支援する場合、最初の特許の内容は、非常に重要になります。創業前から事業範囲を想定した上で、そこをカバーするような権利範囲の特許を取る必要があります。大学の研究者や先生方は、論文を出すという目的でのデータは取っていても、特許の権利範囲を考えた事業目線のデータは取っていないケースが多い。これは明細書を書く上では問題になる場合があります。

 そこで、必要な権利範囲を取るために追加で実験して、データを取って頂くというお話しをさせていただくことがあります。このような、大学の先生とディスカッションする場においては、私自身が博士号を持っていることで意思疎通がスムーズに出来ているのでは、という実感がありますね。ライフサイエンスのような実験科学の場合、特にその傾向があると思います」

まずはスタートアップ業界に飛び込んでみてほしい

 南野氏は、スタートアップ業界での知財専門家ニーズは多くあるにも関わらず、まだまだ手を挙げきれていないという状況だと語る。代理人側のニーズはもちろん、インハウス側でスタートアップの知財活動をマネジメントする人材も求められている。そこで南野氏に、スタートアップ支援に興味のある知財専門家へ向け、メッセージを伺った。

「もし知財専門家がスタートアップに関わってみたいと考えた場合、代理人側でもインハウス側でも良いので、まずは一度、この業界に足を踏み入れていただくことが重要だと思います。飛び込んでみたら、スタートアップ業界に自分のやりたいことや適性がマッチしているか分かってきます。

 また今は、スタートアップ支援やスタートアップ研究に関する勉強会が沢山あります。そのようなイベントや会に参加してみて、そこにいるメンバーが実際にどんな業務をしてるのか聞いてみる、というところから始めていただくのも良いのではないでしょうか」

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制作・編集●合同会社二馬力 聞き手・文●山田光利 撮影●かのうよしこ
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