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スタートアップのための知財活用に関する知識

知財3大メリットでは、「独占」「連携」「信用」の3点を知財が自社にもたらすメリットとして紹介しました。
「独占」のメリットは直接的で理解しやすい一方で、「連携」「信用」については、その恩恵を授かるには準備が必要です。このページでは、この「連携」、「信用」につながる知財の活用方法について、それぞれ、「協業・ライセンス契約」「知財デュー・デリジェンス(リスク・価値評価)」の2つのトピックを通してポイントを紹介します。
(なお、本ページでは一般論を紹介しています。自社の個別事例の判断に際しては、専門家に相談することを推奨します。)

『協業・ライセンス契約』

知財を活用して契約交渉・・の前に、まずはセオリーを把握

自社の技術を活用して他企業との共同開発や製品化実現を目指す際、知的財産権を確保することに加えて、自社のビジネス戦略を踏まえて相手企業との契約交渉を行い、適切な条件で契約を結ぶ必要があります。
共同開発を目指すスタートアップ向けに編集された「オープンイノベーション促進のためのモデル契約書(OIモデル契約書)」は、自社の開発した新素材を活用した共同開発、AIモデルの共同開発の2つの仮想事例に基づいて、秘密保持契約書や共同研究開発契約書等のひな形と、契約を締結する際の検討ポイントを紹介しています。

また、OIモデル契約書を分かりやすく解説する「OIモデル契約書ver2.0解説パンフレット」も公開しています。解説パンフレットでは、「あるある交渉事例」を通して交渉ポイントとその落とし所がより詳細に解説されているほか、ロイヤリティに関するVCとの相談などの実務で直面するシーンをカバーしており、協業を考えるスタートアップの立場に立った構成となっています。

Win-Winなオープンイノベーションを実現するには

オープンイノベーションを成功させるための契約交渉では、自社の利益のみを追求するのではなく、スタートアップと事業会社の双方が事業連携を通じて事業価値の総和を最大化することを目指すことが重要です。

オープンイノベーション(OI)の失敗例の特徴

しかしながら実態としては片方が不利益を被る不平等な契約が多く存在することが指摘されています。この問題は情報の非対称性存在下で双方が自社の利益のみを追求する行動をとった結果や、事業会社から提案された条件が自社に不利だと理解していたもののパワーバランスを背景に断り切れなかった結果として発生しています。

こうした中で、特許庁は、良好なパートナーシップを構築するに際して、事業会社・スタートアップの双方が意識すべきポイントを「マナー」として紹介した「事業会社とスタートアップのオープンイノベーション促進のためのマナーブック」を公開しています。本書をモデル契約書と併せて活用し、事業会社との契約交渉の心得を踏まえて交渉の場に臨むことで、より効果的にオープンイノベーションを進めることができます。

つまずきやすい事例を通して、ライセンス契約の考え方を再点検

事例1:大学や他社等との共同研究において権利の帰属やライセンスの設定等が、その後争いに

在学中に行った研究成果の事業化を目指して起業した際、研究成果に関する特許権を大学が所有していると、自社に通常実施権が設定されているだけでは大学が他社にライセンスを許可できてしまう上に、自社が他社との協業やM&Aを目指す際に障害になることもあります。大学が所有している自社事業に必要な特許は、専用実施権や独占的通常実施権を得るか、あるいは特許権の譲渡を受けることで、自由に事業を展開できるようにすることも一考です。また、共同研究の成果を特許出願する場合に協業先と共同出願を行うと、他社とライセンス契約を結ぶ際に共同権利者全員の同意を得る必要があり、事業スピードを落とすケースもあります。共同研究を行う際には、将来の事業展開や、成果物をどのように活用したいかを十分に検討の上で、事前に成果物の取り扱いを規定するよう努めましょう。

事例2:ライセンス契約締結・交渉時に見落としがちな、AIに関する落とし穴

AIソフトウェア(学習済みモデル)の開発契約におけるベンダとユーザ間の交渉において、著作権の帰属が議論の対象になることがあります。AIソフトウェアの著作権は、その創作に直接寄与したベンダに帰属することが一般的です。そのため、ユーザがAIソフトウェアを自ら改良するなどの利用を希望する場合、ユーザはベンダより、その著作権の譲渡を受けるか、支分権の利用許諾(ライセンス)を受ける必要があります。この時に、特にAI開発をその事業の中核に位置付けるスタートアップの場合、虎の子のソースコードの開示を伴うライセンスアウトを選択するか否かは慎重に検討するべきです。自社が意図していない形でソフトウェアを改変・利用されるなどの事業価値毀損のリスクが高まるからです。近年ではユーザから提供を受けたデータを用いて、自社サーバにてAIソフトウェアにより解析を実施し、その結果のみをユーザに提供することで自社ノウハウや秘密情報の開示を必要最小限に抑える対応を取る場合もあり、自社のソースコードを公開せず改良モデル開発等で協業する方法の一案として考えられます。

『知財デュー・デリジェンス』

投資家やVCが投資を検討する際や、M&Aを検討する際、相手方会社のリスク評価及び価値評価のための調査と検証を行います。これをデュー・デリジェンスと呼びます。
これを知財の観点で行う知財デュー・デリジェンス(以下、知財DDという。)では、他者の権利を侵害していないか、保有する知財で保護される範囲は十分か、等の観点で、事業実施におけるリスクと価値の評価調査を行います。戦略的に知財を取得し、知財の定性評価および定量評価を行うことによって自社の知財の価値を明確に見える化すれば、自社の強み、コアとなる権利が明確になり、投資家等への効果的なアピール材料にもなります。また、第三者権利の侵害リスク調査を行い、他社権利が存在する際にはあらかじめ無効化やライセンス契約締結等によって対処を行い、販売差し止め等のリスクを未然に防ぐ取り組みも、自社の価値向上につながります。

自社の投資価値を向上させるためにも、知財DDのポイントとプロセスをおさえておきましょう。

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