2.プログラムを通じて把握した課題と対応策
課題6 大学や共同研究の成果に関する権利の帰属が問題になる
大学や他社等との共同研究においては、権利の帰属やライセンスの設定等が、
その後争いになりうる。
Point
・ 大学や共同研究で生まれた成果に関する権利の帰属は特に注意しましょう。・ 共同研究の際に、押さえるべき権利範囲のポイントを理解しましょう。
事例⑪ 前所属先で取得した権利に関しては、独占的に実施できるような策をとる
1.スタートアップの課題
スタートアップの社長は、起業前に大学で発明した技術を大学の名義で特許化していました。
そして現在、この技術を活用した事業を行うため起業をしており、大学と交渉し特許の譲受(購入)又は実施権許諾(ライセンス)を受ける必要がありましたが、交渉のゴールをどこに設定するのか、どのように交渉すれば良いのかがわからず、具体的な交渉に入れませんでした。
2.IPASでの対応
メンタリングチームは、選択肢として権利の譲受と実施権許諾をあげ、長所・短所を整理しました。次に、理想のゴールと、最低限死守すべき条件を設定しました。 理想は権利の譲受でしたが、本技術を活用できる企業は他に想定できず、実質的に自社のみが活用しうるものであったため、最低限大学から実施権を受ける形でもよいとの方針としました。
(注)一般的なケースとして示しており状況に応じて専門家への相談が必要
3.本事例のkey factor
大学から通常実施権しか得られていない場合には、投資家からの評価が低くなる場合があります。可能であれば、権利の譲受か専用実施権、サブライセンス付独占的通常実施権を得るようにしましょう。少なくとも独占的通常実施権を得ることが望ましいです。
通常実施権のみを得てビジネス展開すると、大学は他社へもライセンスすることができるため、自社独占ができなくなります。
一方、特許権を譲受したり、専用実施権や独占的通常実施権を得ておくと、技術を独占できないという不安がなくなります。
事例⑫ 共同研究の際、自社が持つ知的財産権を明確化して契約する
1.スタートアップの課題
スタートアップは、社内に技術者が多く、知的財産の重要性は認識していましたが、契約で互いの権利・義務を明確化することの重要性までを十分認識している人材が不足していました。その結果、共同研究先との間で、どの研究成果をどちらの権利とするのか又は共同保有とするのかといった、権利の棲み分けを明確化しないまま、研究を開始していました。そのため、権利化できそうな開発があった場合、当該スタートアップの知財となるか否かがわからない状況となっていました。
2.IPASでの対応
メンタリングチームは、共同研究開発先との間の契約締結について、下記のような4つの助言を行いました。
一つ目は、共同研究前に自社のみで発明した内容については出願しておくこと。
二つ目は、共同研究前に自社のノウハウの確認を行い、共同研究で使用するノウハウと使用しないノウハウとに分け、使用するノウハウのみ自社ノウハウとして開示しかつ自社の知的財産である旨を契約上で担保しておくこと。
三つ目は、共同研究で出た成果については、自社に不利益な事態とならないような契約とすること。(不利益な契約の例:権利を全て相手方が取得し、将来自社の実施ができなくなる等)
四つ目は、共同研究で自社のみで開発した範囲については、自社単独で出願できるような契約に少なくともすること。
3.本事例のkey factor
共同研究では、研究成果の知的財産権の帰属について共同研究者ともめる場合があります。そのため、研究開始前に、共同研究開発契約等でルールを合意しておくことが重要です。
共同研究開発においておさえるべき権利範囲は非常に重要です。専門家等の力を借りて、自社に有益な研究成果を自社の権利として確保できるように努めましょう。